第296話 見れば見るほど興味深い

「おお! これを耐えきるなんて、やるじゃねぇか! アレス様よぉ!!」

「アイナさんこそ! 凄い勢いの連続攻撃ですね!!」

「ははっ! まだまだいくぜぇ!!」

「はいっ! 望むところです!!」


 ソエラルタウト領に向けた馬車の旅が2週間を経過し、あと1週間で到着といったところ。

 そこで今は、途中の休憩時間を利用して模擬戦をしている。

 ただし、当然のことながら護衛のお姉さんたちの本来の任務は俺を護衛することであるため、みんなで思いっきりというわけにはいかず、休憩のたびに1人だけ相手してくれるという形だ。

 そんなわけで、今回は男勝りな話し方がステキなアイナさんが俺の相手だ。

 そのアイナさん、口調からも想像できるかもしれないが、かなりワイルドな剣捌きである。

 だからといって、それが雑かというとそうではなく、ポイントを的確に狙った攻撃をしてくるので実に厄介だ。

 このようにしっかりとした技術に、経験が上乗せされているという感じ。

 これはやはり、本職というよりほかにないだろう。

 そのため純粋な剣術の技量としては、悔しいがアイナさんのほうが上といわざるを得ない。

 ……だが、だからといって負けるわけにもいかない!


「いいぞ、その調子だ! どんどんこい!!」

「うぉぉぉ!」


 今度はこっちの番だと、気迫を込めて斬撃を繰り出す。

 それをアイラさんは、難なく受け止める。


「もっとだ! もっともっと、全力を見せてみろ!!」

「いわれなくてもっ!」


 既に全身を循環させている魔力の密度をさらにもう一段階上げる。

 そうして身体能力を向上させて、連撃を放つ!


「うぉっ! いいねぇ! そうこなくっちゃ!!」

「まだまだっ!」


 こうしてただひたすらに、模擬戦を休憩時間いっぱいまでおこなう。


「ふむ、アイナをあそこまで燃えさせるとは……やるなアレス様」

「確かに……ソエラルタウト家の騎士でも、あれだけの技量を持ってる人はなかなかいませんもんね」

「頑張って~アレス様~」

「私も燃えてくるっす! 私の番がくるのが楽しみっすね!!」

「レミリネ流剣術……見れば見るほど興味深い剣術ねぇ」


 護衛のお姉さんたちから、そんな嬉しい評価をもらえて嬉しい限りである。


「よっし、今回はこんぐらいだな! いいカンジだったぜ、アレス様!!」

「はいっ! ありがとうございます、アイナさん!!」

「お疲れ様ですアレス様、それでは汗をお拭きします」

「あっ、ありがとうございます」


 実際のところ、浄化の魔法で一発なんだけどね。

 ただ、ルッカさんにはなんらかのこだわりがあるようで、一度汗を拭いてから浄化の魔法をかけてくれるのだ。

 まあ、気恥ずかしさがないではないが、なんとなく心の触れ合いを感じて悪くない気分なので、ルッカさんの思うがままに任せている。


「みんな……馬たちの休憩も済んだからね、そろそろ出発もできるからね」

「シノリノもああいっていますし、馬車にお乗りください」

「分かりました」


 というわけで、ルッカさんに促されて馬車に乗り込む。

 ちなみに、シノリノさんは語尾に「ね」を付けて独特な話し方をする御者のお姉さんのことだ。


「それじゃあ、今回馬車に乗るのはアイナとルネだ……そして私を含めてほかの4人は外で馬車の護衛だ」

「よっし、それじゃ乗せてもらうとするぜ」

「馬車の中は私とアイナ……あとはルッカに任せてちょうだいな」


 そういいながら、アイナさんとルネさんも馬車に乗り込んでくる。

 これで馬車の中は4人ということになるわけだね。

 また、ルネさんはレミリネ師匠の話に一番関心を示してくれたお姉さんのことだ。

 さらにいうと、ルッカさんと組んで俺をイジろうしがちという、おちゃめさんでもある。


「アレス様、次の休憩まで私と……魔力交流しましょう?」

「おい、妙なところでタメてんじゃねぇよ」

「妙なところって、何が妙なのかしらぁ?」

「いや……それはだな……」


 いや、まあね……言い方に大人の色気みたいなものが若干含まれていたように感じられたのは確かだからね。

 たぶん、ルネさんはその辺もあえてだったんじゃないかなって気がする。

 だってさ、何気に俺も照れてしまって顔が熱いし……


「えっと、とりあえず……魔力交流は4人でやりませんか?」

「承知しました」

「ま、まあ……別にいいけどよ」

「あらあら、アレス様を独占できなくて残念だわぁ」

「またオメェは……」

「あら、アイナだってさっきまでアレス様と2人で楽しい時間を過ごしていたじゃないの」

「ぐ、ぐむぅ……それはそうかもしんねぇけどよ……」

「2人ともその辺にしておきましょう、アレス様を待たせるわけにはいかないわ」

「それもそうね」

「まあ、そういうことなら……」


 とまあ、そんな賑やかなやりとりを経て、俺の右手はルネさん左手はルッカさんと合わせ、ルネさんとルッカさんのあいだにアイナさんが入るという形で円を作り、魔力交流を始めた。

 一応このときも、魔力探知で周囲の警戒も並行しておこなっているし、障壁魔法で馬車の周囲の防御も固めてあるので、安全性は問題ないはず。

 その辺は、馬車内のルネさんやアイナさんも抜かりなく対策を施しているようなので、より安心できるというわけだね。

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