第202話 注意喚起

「でもねアレス君……矛盾したことをいうように聞こえるかもしれないけれど……これから先ダンジョンに行くたび、そこにいる全てをダンジョンから解放しようと気負い過ぎては駄目よ?」

「……あぁ、はい……確かに……そうですね」


 いわれてみれば……というか既に、バターナイフスケルトン相手に似たようなことをやりかけていたな……

 あれが上手くいってたら、次々に光属性の魔力でスケルトンたちを天に送っていたかもしれん。

 そして調子に乗ってあっちこっちのダンジョンでも同じようなことを……なんてことになっていた可能性がある。

 しかしながら、この世界にはダンジョンが無数にあるみたいだし、そうなるとたぶん、どっかでパンクしてただろうな……

 ははっ、エリナ先生には全てお見通しだったみたいだね。

 う~む、ムチャをしてあんまりエリナ先生に心配をかけないようにしなくちゃだな。

 ま、俺にできることをできる範囲で頑張る、それで十分だな!


「それから、話が変わるけれど……」

「はい、なんでしょう?」

「アレス君はスケルトンダンジョンに行く前、学園都市近くのゴブリンダンジョンを攻略したでしょう?」

「そうですね、攻略しました」

「まず、それについては、おめでとう」


 そうして、抱きしめられたまま頭を撫でられる。

 俺は今、とっても幸せです。


「それで、そのとき出現したゴブリンエンペラーの魔石を納品したわよね?」

「はい、納品しましたね……そういえば、それってイレギュラーなことだったんでしたっけ……もしかして何か問題になりましたか? というか、あとで冒険者ギルドから呼び出しがあるかもって話だったのですが、まだ呼ばれてませんね……」

「ゴブリンダンジョンについては現在調査中だけれど……単なる偶然か、ダンジョンの成長か……たぶん、議論だけが重なって答えは出ないでしょうね……そして、アレス君がギルドから特別に呼び出されることはないと思っていいわ」

「そうなんですか?」


 なんというか、ギルドマスターの部屋に呼び出されて、顔面傷だらけで筋肉モリモリのオッサンに「その気持ちわりぃ敬語をやめろ、体がかゆくなる」とかいわれながらアレコレお話しする流れをちょっと想像してたのだが、そのイベントは今回起きないみたいだね。


「既に受けた報告で十分というのもあるけれど、アレス君の日頃のギルドでの振る舞いによって信用されているというのも大きいわね」


 ああ、受付のロアンナさんや解体部門の人たちみたいに、結構知り合いも多いからね、彼らからの評価が高いのだろう。

 フッ、「アレスはギルドにて優等生」……覚えておくがいい。


「それで、ギルドへの対応については気にしなくていいのだけれど……アレス君がゴブリンエンペラーのドロップアイテムを所持していることが知られ始めたみたいでね、それを狙ってアレス君に難癖を付けて取り上げようと企む人が出てくる可能性があるから、注意喚起をしておこうと思ったの」

「なるほど、そういうことでしたか……」


 ゴブリンが跪いて頭を垂れる、そんなことをさせてしまえるぐらいのスーパーアイテムだからな、欲しくなってしまう気持ちもわからんでもない。

 しかしながら、難癖とは面倒な……

 とはいえ、こっちは侯爵家の子息様なのだから、そこまでナメたまねもできないような気もするけどね。

 ああ、でも、ソエラルタウト家の当主がアレス君のクソ親父なわけだから、間違いなく頼りにならんよなぁ。

 そして相手はその辺を見越してくるって可能性もあるわけか……

 あ~あ、設定のせいとはいえ、アレス君の父親運が悪過ぎだよなぁ。


「まぁ、理性あるまともな人なら、きちんと手順を踏んで交渉しようとするでしょうけれど……」

「……そうでない人もいるということですね」

「残念ながら……ね」


 そういえば……これって、あのうさんくさい導き手が嬉々として動き出す案件じゃないか?

 というか、俺がゴブリンエンペラーのドロップアイテムを所持しているのを広めたのが奴という可能性すらあるな。

 頼むから余計なことはせんでくれよ!

 なんていって通じる相手なら楽でいいんだろうけどね……


「ごめんなさい、心配させ過ぎてしまったわね……でも、もし困ったことがあったら、遠慮せずなんでも相談してね、できるかぎり力になるから」

「はい、ありがとうございます!」


 ああ、やっぱエリナ先生はステキに最高だ!

 しっかし、家族より先生のほうが頼りになるアレス君の家庭環境ってどうなん? って気もしてしまうよね……

 まぁ、それはもう今更って話だな。

 この数カ月、俺から連絡を取ろうとしなかったっていうのもあるが、完全に放っておかれていたわけだし……そういうことなんだと思う。

 ……泣くな腹内アレス君! と思ったら、お腹が鳴っただけか。

 おいおい、エリナ先生の前でそれはナシだろ……まったく。


「ふふっ、そろそろ夕食の時間ね、どこかで食べて帰りましょうか? 今から食べれば、ロイター君たちとの夜の訓練までには間に合うでしょうし」

「はいっ! 喜んで!!」


 悪いな、ロイターにサンズよ、今日は夕食をともにすることはできん。

 まぁ、特に約束してたわけでもなく、その日時間が合えば一緒に食べてたってだけなんだけどさ。

 そして俺たちが模擬戦をしていたことを、エリナ先生は知っていたんだなぁ。

 いや、別に隠していたわけじゃないし、その時間に運動場に来ればわかることなんだけどね。

 ただ、魔法なしの模擬戦でみんなにコテンパンにされていたところを見られていた可能性があるのか……それは少し恥ずかしいな。

 ま、だからこその剣術修行だったわけだしな!

 よっしゃ! レミリネ流剣術をもっともっと磨いていくぞ! 燃えてきたぁ!!

 ……うん、まずは夕ご飯だってわかってるからね、腹内アレス君。

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