第288話 次は夏休み後になるかしら

「エリナ先生、今日も相談に乗っていただき、ありがとうございます。そしてお昼やお茶もご馳走になりまして、とても美味しかったです」

「どういたしまして」

「それと、キズナ君のこともよろしくお願いします」

「ええ、私も部屋を空けることはあるけれど、キズナ君にも快適な環境で過ごしてもらえるように整えておくわ」


 きっとエリナ先生のことだから、魔法で完璧な環境を整備しちゃうんだろうなぁ。

 そして快適過ぎてむしろ、夏休み後に俺の部屋に戻るのを嫌がったりして……なんて、キズナ君はそんな子じゃないね。

 どちらの部屋でも喜んで暮らしてくれるはずさ!


「キズナ君! エリナ先生の研究室でいい子にしてるんだよ!! それでは、私もそろそろおいとまします、本日も長々とお邪魔しました」

「ううん、私も楽しい時間を過ごさせてもらったわ……でも、こうしてゆっくりお話しするのも次は夏休み後になるかしら……有意義な時間を過ごせるよう願っているわね」

「はいっ! 期待に応えられるよう、頑張ります!! それでは、失礼します」

「ええ、またね」


 こうして、エリナ先生の研究室をあとにした。

 ああ、幸せな時間だったなぁ。

 そんな幸福感の余韻に浸りながら廊下を歩いている。

 さて、夕食までそんなに時間はないな。

 このまま運動場に寄ってレミリネ流剣術の練習をして、そこから直接食堂へ向かうかな。

 とまあ、これからの流れが大まかに決まったところで、運動場へ移動した。


「やった! 明日の終業式が終われば夏休みだ! そうしたら、もう走らなくていい! 思いっきり遊ぶぞ~!!」

「果たして……それは……どうかな?」

「僕たち……領地も……近いんだし……誘いに行くよ!」

「フン……そういう……ことだ」


 あの賑やかな4人組は領地が近いのか……それでよくつるんでるのか。

 それにしても、ほかの3人は汗だくで息も絶え絶えだというのに……あのサボりたがり君は本当に元気だなあ。

 アイツが本気で何かしらの運動に取り組んだら、もの凄い結果を出しそうだなって気がしてくるよ。

 そしてあの4人組だけど……夏休み中も領地間マラソンとかいって、ひたすら走ってたりして。

 これが後の世に「カイラスエント王国マラソン」と呼ばれる、その始まりだったのだ……なんてね。

 そんなことも考えてみたりしながら、俺もレミリネ流剣術の練習に集中する。

 まずは歩法から丁寧に確認していく。

 四方八方、どの向きにもよどみなく足を運べるよう一歩一歩確実に。

 それが一段落ついたところで、素振りや型稽古に移る。

 レミリネ師匠の動きを脳内で思い描き、それを自分の動きにトレースしていく。

 そうした練習を夕食の時間までじっくりと取り組んだ。

 時間そのものは少なめであったが、なかなかに濃密なものだったのではないだろうか。

 なんて思いつつ、食堂へ移動した。


「おっ! お前らも夕食か!」

「あっ、アレスさん!」

「アンタか……」

「こんばんわってところかなぁ」

「……ああ」


 食堂にヴィーンのパーティーがいたので、一緒にメシを食うことにした。

 そして、ほどなくしてロイターとサンズも加わる。

 おお、結構な人数になったなぁ。


「それで、お前たちはいつ領地に出発するんだ?」

「俺たちは距離があるからな、明日だ」

「……私も途中まで一緒に行くため、明日になる」


 というわけで、ヴィーンたちは明日の終業式が終わったら、すぐ出発するらしい。

 まあ、武系貴族は比較的に領地が遠い傾向にあるからな。

 いや、ほとんどの貴族はもともと武系なはずで、それが世代を重ねるにつれて文系化していったっていうのが中央寄りの古くから続く貴族に多いパターンなんだろうけどさ。

 もちろんロイターのところみたいに、武系で続いているところもあるんだけどね。

 そんなわけで、カイラスエント王国の外側に接しているモンスターの領域を拓いて、割と最近の世代で領地を持つようになったのがソイルたちの実家なのだろう。

 それで、ヴィーンの実家が周囲のそういう感じの奴らを仕切ってるって感じだろうね。


「私は領地がそこまで離れていないから、明後日だな」

「特に明日は混むでしょうからねぇ」


 ロイターたちは明後日ということで、俺と同じだね。

 まあ、領地の遠い貴族家への配慮っていうのもあるんだろう。

 そんな感じで、ヴィーン一行は明日でしばしの別れとなるわけだ。

 なんか、改めて考えてみるとソイル以外の3人は接点を持ち始めたばかりなのにって感じがしちゃうよね。

 しかしながら、ヴィーンたちも昨日とこれからおこなうであろう模擬戦によってたくさんの刺激を受け、夏休み中に猛特訓を積むことだろう。

 昨日の模擬戦あたりから、そうした燃える意思みたいなものも感じられるので、是非とも頑張ってもらいたいところだ。

 そんなことも思いつつ、夕食の時間が過ぎていった。


「さて、それじゃあ運動場に移動するか」

「前期中にみんなでできる模擬戦も今日が最後ですからね、気合を入れていきましょう!」

「はいっ! 頑張ります!!」

「今日は、昨日みたいにやられねぇぞ!」

「僕たちだって、日々成長するんだからねぇ!」

「……ああ、そのとおりだ」

「フッ、お前たち燃えているようだな! もっともっと燃えていくぞ!!」


 サンズのいうとおり、これでしばらくはみんなとの模擬戦もお預けとなるんだ! 心ゆくまで楽しむしかないよな!!

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