第287話 それは寂しいな

「それじゃあ、そろそろ本題の話を始めましょうか」

「はい、そうですね」


 エリナ先生お手製のとっても美味しいオークカツサンドを食べ終えて、少々ゆったりしたところで相談を始める。


「今回の夏休みなのですが、もともと私は自己鍛錬に費やす時間としたり、各地を巡りながらダンジョン攻略やモンスター領域の深層に挑戦したりして、実家に帰省するつもりはありませんでした。しかしながら、昨日実家から使者が来まして、その者から帰省するようにいわれてしまったのです」

「……そうなのね」

「そこでふと気になったのですが、魔族関係の話というのは王国内でどこまで進んでいますか? もし実家でそういう話が出た場合、私はどう反応すべきか相談させていただきたいと思いまして……」

「なるほど、そうね……まず魔族の暗躍があるということについては、対策会議が開かれたそうだから、各貴族家の当主は知っているはず……ただ、このことはまだ公にするわけにはいかないとなったそうだから、当主から信頼されている人以外は知らないかもしれないわね」

「公にしてしまうと、王国民の負の感情が人間族に擬態して悪さをしている魔族ではなく、見た目で分かりやすいまともな魔族に向いてしまうかもしれませんものね……」

「ええ、残念ながらそうなってしまうでしょうね……それで、最初は宮廷魔法士団と宮廷騎士団だけで捜査にあたっていたのだけれど、最近は王国魔法士団や王国騎士団からも人員を割くようになってきたみたい……とはいえ、あまり表立った調査をするわけにはいかないから、怪しい動きをしている者がいないかっていう監視に留められているらしいわ」

「そうですか……なかなか難しいものですね」


 まあ、原作ゲームのシナリオというか設定的に、一般的な魔法士や騎士がマヌケ族と戦闘することになったら負ける可能性が高いからな、むしろそれぐらいのほうがいいかもしれない。


「あとは、人魔融和派の人間族と魔族のあいだで協議なんかもしているみたいで、これによって魔族の中でも過激な行動を抑える働きもなされつつあるみたい」

「おお、それは素晴らしいですね」

「ただ、魔族は部族ごと、場合によっては個々で考え方も大きく違うみたいだから……どこまで効果があるかは微妙なところといわざるを得ないわね」

「ああ、やはりそうなってしまいますか……」


 いやまあ、俺からすれば魔王復活なんてくだらんことだと思ってしまうが、マヌケ族にとっては強い決意を持っておこなっている活動だろうからね……そう簡単に抑えられるわけもないか。

 というかそもそも、やめろっていわれてやめる程度なら最初からやってないだろうし……

 とはいえ、「じゃあ仕方ないから好きにやっちゃって!」ってわけにもいかないから、最終的に見付け次第始末せざるを得ないってことになっちゃうわけだね。


「とりあえず、あまり大きく変わっていないけれど、王国の現状としてはこんな感じかしら……それで、魔族の話題が出るとしたら、ソエラルタウト侯爵……は王都にいるという話だったから、婦人から内密でされるかもしれない……そのときのアレス君の対応としては、そうね……ソエラルタウト家でもある程度の情報を持っているでしょうし、ありのままに話して大丈夫だと思うわ」

「ある程度の情報ですか……」

「ええ、アレス君が既に魔族と交戦経験があることも、真面目に調べる気があれば分かることでしょうからね」


 アレスという存在について、真面目に調べる気……果たしてクソ親父こと、ソエラルタウト家当主にあるだろうかね?

 まあ、それはともかくとして、無理に隠す必要もないみたいだから、その辺は気楽にいけそう。


「わかりました、これで魔族関係の話題について、実家での振る舞いに安心ができます」

「それはよかったわ」


 そんな感じで、マヌケ族の話はこんなもんでいいかな?

 あとはあっぱ、キズナ君のことだね!

 というわけで、話題は植物の世話についてへと移行する。


「そうね……私も研究室を空けることは頻繁にあるから、植物たちのことは魔道具に頼ることがどうしても多くなってしまうわ」

「やっぱり、そうですよね……」

「……そうだ、もしよかったら、私の研究室でキズナ君……だったわね、預かるわよ? ほかの木や花たちと一緒にいれば寂しくもないでしょうし」

「え、いいんですか?」

「もちろん……ふふっ、アレス君と同じで帰省ってことになるわね」

「ははっ、そのようですね」


 確かに、キズナ君にとってはこのエリナ先生の研究室が実家っていえるだろう。

 そう考えると、なんというかステキだなって思えてくるよ。

 そうして、明日は終業式もあることだし、何かと慌ただしくエリナ先生にも急用が入るかもしれないので、今のうちにキズナ君を研究室に連れてくることにした。


「あら、とっても元気がいいみたいね、葉も青々としていて素晴らしいわ」

「ありがとうございます。そういってもらえて、キズナ君も喜んでいると思います」


 俺の部屋から連れて来たキズナ君を一目見て、エリナ先生は褒めてくれた。

 これは凄く嬉しい。

 なんてことを思いつつ、その後はエリナ先生とお茶をしながらのんびり過ごす。

 だけど、夏休みに入ってしまうと、こうしてエリナ先生と過ごす時間がしばらくなくなってしまうのか……

 それは寂しいな。

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