第443話 これからを考えると

 ま、まあ、リッド君はソレバ村の中で俺のお姉さん向けモードをよく目にしていただろうからね、いくらか影響された部分もあったかもしれない。

 というか思い返してみると、茶葉屋のお姉さんに向けた俺の話し方とかをマネしていたこともあったよな……

 それにしても普段は一人称が「オイラ」なのに、3人娘相手だと「僕」になっているのが、なんとなく頑張ってる感があってかわいらしい。

 そして今なおノムルに抱き締められながらよしよしされているリッド君……とてもいい。

 さらにいえば5歳のリッド君に対しノムルは16歳ぐらいだろうから、年齢差が10歳程度あるところなんかも実にグレイト!

 ゲームなら、この光景をCGとして残しておいて欲しいぐらいだよ!!


「ノムルさん……そろそろ解放してさしあげたほうがよろしいのでは?」

「……ノムルの怪力で窒息してしまうかも?」

「え~? そんなことないよねっ!? リッド君!!」

「……ぷはぁっ! ……えっと、その……あはは」


 ふむ……男ならそういう形での窒息も本望だろうさ。

 まあ、そんなことをストレートにいうわけにもいかないから、リッド君も曖昧な返事になっているのかもしれない。


「ごめんなさいねぇリッド君、大丈夫だったかしら?」

「まったく……相変わらずノムルはガサツ」

「むぅ~っ!」

「え、えっと……」

「ほらほら皆さん、リッドさんが困っていますよ?」


 ここでギドがナイスなタイミングで収める……やるねぇ。

 そしてまだ少し頬に赤みを残しながらリッド君が俺に話しかけてくる。


「そうだ、アレス兄ちゃん! 今回もうちに泊まってってくれるよね!? あ、母ちゃんなら、もう聞いてあるから心配ないよ!!」

「そうなのかい? それじゃあ、お言葉に甘えようかなぁ……」


 ……と思いかけたが、今回は俺1人じゃなかったんだった。


「あ! 狭いところですけど、皆さんもどうですか?」

「え~っ! 私たちもいいのぉ!?」

「ご迷惑ではないかしら?」

「私たちは初対面」

「我々のことなら、気にせずともよろしいのですよ?」

「あ、えっとですね……アレス兄ちゃんの魔力を感じたとき一緒に皆さんの魔力も感じて、そのことは母ちゃんにいってあるから大丈夫なんです」


 なるほど、俺と共に行動する者の魔力を察知していたというわけだね。

 だが、それだけで仲間認定っていうのも、リッド君のこれからを考えるとあまりよくないかもしれない……


「しかしリッド君、俺と一緒だからって信用できる相手とは限らないんだよ?」

「う~ん、そうかもしれないけど……でも、感じた魔力はいい人そうだなって思ったんだ」


 おや? もしやリッド君……お姉さんセンサーも標準装備かい?

 こりゃ、ますます俺に似てきたかなぁ……?

 フフッ……だが、悪い気はしないねぇ。

 でもまあ、この前も俺の魔力だけでなく盗賊のことも気付いていたし、魔力探知に関してリッド君はもともと才能アリって感じだったもんね。


「そうか、そこまでリッド君がいってくれるのなら……よし! 俺たち全員、泊めてもらうことにするよ!!」

「ホント!? やったぁ!!」

「だけどね、リッド君……この世の中には害意とか危険な魔力の在り方を巧妙に隠すことができる悪い奴らもいるから、魔力探知の結果だけを絶対だと妄信することのないよう注意するんだよ?」


 なんて偉そうにいっておきながら俺だってまだ、マヌケ族の擬態なんかを見破ることができていないしな。

 いや、それぐらい難しいからこそ、リッド君にも注意を促しておくべきだろう。


「そっかぁ……うん! 今度からは注意するね!!」

「ああ、そうしてくれ! ……とまあ、お小言はこれぐらいにするとして……しっかり魔力探知の技術を磨けているみたいだね、それはとっても素晴らしいことだよ!!」


 そういってまたリッド君の頭をなでる。


「うん、さすがアレス君の一番弟子だねっ!」

「ええ、まったくですわ!」

「なかなかやる」

「将来が楽しみですねぇ」

「そうかなぁ? えへへ」

「そんなリッド君にはお姉さん、ほっぺにちゅーしちゃう!」

「……!! ……は、はわわぁ~」


 お願いだから……このシーンもCGに残させてくんないかな?

 まあ、それはそれとして、今はまだリッド君も子供だし、どっちかというと俺のマネをしているレベルといえるかもしれない。

 だが、このままいって同年代の子に恋愛感情を持つようになるだろうか?

 もしかしたら、ナミルさんに申し訳なくなる影響を俺はリッド君に与えてしまっているのでは?

 いや、俺はいいと思うんだけどね?

 でも、なんというかマズい方向に導いてしまっている……そんな気がしないでもないんだ。

 そしてこのときまた、あのうさんくさい導き手のニヤケ面が頭に浮かんできた……

 い、いや……悪いことをしているわけじゃないんだ!

 むしろ「お姉さん大好き」っていうのはステキな感情じゃないか!!

 だから……大丈夫! うん、大丈夫な……ハズ!!

 自信を持て! 俺ッ!!


「……答えは出ましたか?」

「あ、ああ……そうだな」


 こうしてリッド君がアワアワしながらかわいがりを受けているあいだ、俺は心の中でアレコレ無駄に思案を巡らせていたのだった。


「……さて、まだ少し日暮れまでに時間もあるし、村長に挨拶をしに行くかな?」


 既にリッド君にはナミルさんの許可を得た上で平静シリーズをプレゼントすることにしたが、ほかの村人たちにも広めるつもりなら村長に話をとおしておいたほうがいいだろうからな。

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