第444話 野菜を育てるだけなら……

「いらっしゃいアレスさん。すまないが、親父は今ちょ~っと来客中でね……もしよかったら茶でも飲みながら待っててくれないか?」

「急に来たのはこっちだしな、忙しいなら出直すが?」

「う~ん、たぶんもう少しで終わると思うんだが……」


 村長の家に挨拶をしに来たのだが、あいにくお客さんが来ていたようだ。

 そこで、ソッズ村長の息子であるラッズが対応してくれているってわけだね。

 そんなやりとりをしているあいだに、村長が応接室に姿を現した。


「これはこれは、よく来てくださったアレス殿! そして、お待たせしてしまったようですな」

「いや、約束もなしに来たのは俺のほうなのだから、気にしないでくれ」

「ほっほ、そういっていただけると助かりますわい」


 いつも行けばすぐ対応してもらっていた気がしたので、そのノリで来てしまったが……村長も何気に忙しいんだなぁ。


「こっちこそ、忙しいところすまんな」

「いやいや、いつもは暇を持て余しとるところですが、今年は猛暑の影響で……近隣の街や村の長、そして商人たちがひっきりなしに訪ねて来ましてな……」

「ああ、俺もソレバ村に来るまでのあいだいろいろ話は聞いたよ。なんでもソレバ村以外は不作だったとか?」

「ええ、そうなのですよ……はぁ……」


 あらら、だいぶお疲れのようだな。

 まあ、支援を求める各地域の長だとか、これをチャンスに買い占めたれっていう商人が殺到しているのだろう。

 ここはひとつ、スライムダンジョン特製のお菓子の出番かな?


「村長、これを食べてみてくれ。ああ、ラッズやリッド君のぶんもあるよ」

「これは確か……ようかんでしたかな?」


 まあ、焔菓子は種類にもよるが珍しいってぐらいで、大きめの街なら手に入らないこともないだろう。

 よって、知っていても不思議ではない。


「そう、そしてこれはダンジョンのドロップ品でもある」

「ほほう、ダンジョンの……」

「へぇ、これが……」

「ダンジョン!? 凄そう!!」


 そしてようかんを口に運ぶ3人。


「……むむっ! 疲労感が……消えた?」

「そうだなぁ……気持ち身体が軽くなったような?」

「これ、とっても美味しいね!」


 ふむ、疲労度合いによって反応に差があるようだ。


「このドロップ品のお菓子には回復効果があるらしいから、また疲れたときにでも食べてくれ」


 そういって、スライムダンジョンのドロップ品を適当に見繕ってプレゼントした。

 ま、お土産の代わりとでも思ってくれればいいさ。


「これはかたじけない」

「ありがとな!」

「リッド君には、あとでお家に行ったときに渡すからね」

「うん!」

「それにしましても、アレス殿には助けられてばかりですな……今年の猛暑による作物の被害を免れたのもアレス殿のおかげでしたし……」

「ん? 猛暑について俺は何もしていないぞ?」


 まさかソエラルタウト領の雪や氷を持ってきたわけでもあるまいし……

 いや、それならほかの地域でもやってるだろう。


「リッドに魔法をお教えくださった……これが大きかったのです」

「ほう?」

「ほら、この前来たとき、草に魔力を込めるのを教えてもらったでしょ?」

「ああ、そういえば……」

「畑の野菜がシワシワで元気がないのを見たとき、試しに魔力を込めてあげたんだ! そしたら元気になってくれてね!!」

「へぇ、なるほどなぁ……でも、村中の野菜となると大変だったんじゃないかい?」

「うん、一本一本魔力を込めるオイラのやり方じゃ全然間に合わなくって……そこで、畑っていうか土のことならカッツに聞いてみたらいいんじゃないかって思ってさ!」

「ふむふむ」


 やはりカッツ君か……だが、そこでカッツ君に相談しようって閃いたのはいいセンスをしているのではないだろうか。


「カッツが『野菜を育てるだけなら……』っていって、畑の土に魔力を込める方法を編み出したんだよ!!」

「おお、それは凄い!」

「まあ、儂らのような魔法が得意でない者には、なかなか難しいことでしたがな……」

「ああ、最初はカッツにしかちょうどいい魔力の込め具合ってのを判断できなかったもんなぁ……いや、今でも定期的に土の状態を確認してもらってるぐらいだし……」

「確かに、カッツ君の大地との親和性は目を見張るものがあったものな」

「うん、土を調べているときのカッツはとってもカッコいいんだよ!」

「そうなんだ、それは凄いね! そして、そんなカッツ君のカッコよさが分かるリッド君も素晴らしいよ!!」


 なんというか「これぞ職人!」っていう雰囲気が漂っていたのだろうね。

 また、リッド君のこういった他人のいいところを素直に称賛できる気質は得難いものがあると思う。

 なので、そこを褒めておく……どうか、そのままの君でいてくれ。


「そんなわけでして、この村の畑はリッドやカッツ……そしてアレス殿に魔法を教わった子供たちが中心となって上手くいったのです」


 子供たちのことだから、遊び感覚でやり切ってしまったのだろうね。

 加えて異世界あるあるとして、子供のほうが魔法の上達が早いっていうのもあるかもしれん。


「とはいえ、よく子供の話に耳を傾けようと思ったな……普通なら無視するところじゃないのか?」

「そこはアレス殿の薫陶を受けたリッドのいうことでしたからな! それに、元気のいい野菜を持って来られたら、無視するわけにもいきますまい!!」

「ふむ、それもそうか……リッド君も、よく野菜に目を向けたなぁ」

「えへへ」


 こうして、ソレバ村の農作業が上手くいっている話を聞いたのだった。

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