第445話 調子に乗らせない
「そんなわけでして、今では子供たちに教わりつつ、共に魔力操作の練習に取り組む村の者が増えてきております」
「なんと! それはいいことだ!!」
もしかしたら子供たちより上達スピードがゆっくりめになってしまうかもしれない。
だが、やっていれば確実に進歩できるはずなので、ぜひ大人たちにも頑張ってもらいたいところだ。
「それから、この前アレス殿に盗賊団の捕縛に連れて行ってもらった若者たちがおりましたでしょう?」
「ああ、冒険者志望の4人組がいたな。彼らも元気か?」
「はい、あの経験によって『本物の冒険者の実力を知った』と申すようになりましてな、その後は率先して魔力操作の練習に励んでおりますし、それがほかの若者たちにもいい影響を与えてくれています」
「ほうほう! あれがいい刺激となったのなら、俺としてもこの上なく喜ばしいことだ!!」
「儂としましても、ここまで意識が変わるのかと驚いたぐらいでしたな……そしてあの者たちは村の状況的に残ってくれていましたが、正直なことを申せば、あの段階で村を出て冒険者をやることに心配がありました」
「う~む、おそらくあの時点でも新人冒険者として特別劣っていたわけではなく、普通ってぐらいだっただろうな」
「そうでしょうなぁ……ですが普通程度では危ない、最悪命を落とす可能性もあることを考えると、やはり心配は尽きません」
「まあ、仕事柄どこまで実力を付けても危険は着いて回るだろうが……それでも、強くなるに越したことはないもんな」
「ええ、そのとおりです。だからこそ、あのときアレス殿にはお邪魔だったかもしれませんが、あの者たちを連れて行ってもらって本当によかったと思っております」
聞くところによると、魔法を使えない大半の冒険者はDランク辺りで止まるらしいからな……多少スタートが遅くなろうとも、今のうちに魔力操作の練習をして実力を付けておくのも悪くあるまい。
「少々話が長くなりましたが、それによって村の若い衆もカッツほどではありませんが、ある程度土の状態を感じ取って整えることができるようになりまして、最近ではほかの村に土の状態を整える手伝いとして派遣しておるのですよ。それに、これも真面目にやれば冒険者になるための予行演習とできるかもしれませんしな」
たぶん、今ぐらいの時期から植えて育つ野菜もあるだろうし、この様子なら食糧問題にもめどが付きそうだね。
それから、冒険者なら依頼であっちこっちに遠征することもあるだろうからね。
「ああ、きっといい経験になるだろう! しかし、よくぞそこまでできるようになったものだな」
「そうですなぁ……おそらく危機感みたいなものが上達を後押ししてくれたのでしょう。まあ、とはいうものの、カッツや本職の魔法士の方からするとまだまだ拙い技術でしょうが……」
「いや、カッツ君は別としても、意外とその辺の技術がなってない魔法士も多い気がするぞ……なあギド、どう思う?」
「そうですね……おっしゃるとおり戦闘用の魔法に特化していて、そういった技術を疎かにする方は少なくないかもしれません」
「やはりな……というわけで、若者たちには自信を持つようにいってあげてくれ」
「アレス殿にそういってもらえると、あの者たちの励みになりましょう。ただ、それで調子に乗られても困りますでな……控えめに褒めてやるとしますわい」
村長! そこで若者たちを調子に乗らせない、ナイスなアイテムがありますよ!!
「フッ、安心するといい……そんな若者たちにうってつけの物がある!」
「あっ! アレス兄ちゃん……それってもしかして?」
「おっ、リッド君、察しがいいねぇ」
「……なんですかな?」
「おいおい、2人だけで分かり合ってないで、早く俺たちにも教えてくれよ」
「おっと、これはスマンな……そのうってつけの物っていうのは、今俺たちも着ているこの平静シリーズだ!」
というわけで、プレゼント用にパックした平静シリーズをマジックバックから取り出しつつ、効果を説明した。
「なるほど、それはまた途轍もない代物ですな……」
「もう、ヤバいって言葉しか出てこないな……」
「ま、これを3つほど着させてみれば、慢心著しい若者もシュンとして訓練に励むことだろうさ」
「オイラもあとで母ちゃんがいいよっていえば、さっそく着てみるんだ!!」
「ふむふむ……アレス殿のいうことなので、特に反対する気はありませんが……村長として、まずは儂が試させていただこう」
「親父? そんなヤバい物なら、俺が先に試したほうがいいんじゃないか……?」
「はっはっは、小童が何をいう……儂だって子供たちと一緒にそれなりに魔力操作をやっとるんだ、あまり年寄り扱いするでないぞ?」
ここで見た目に関していうと、ご婦人方に比べて男のほうが老けた感じの人が多い印象だ。
まあ、原作ゲームの二次元的絵の都合といってしまえばそれまでだろうが……
そこで平静シリーズの装備効果による経験を踏まえてあえて理屈を付けるとするなら、無意識的に女性のほうが魔力を容姿に活用している割合が多いのかもしれない。
そして雰囲気的に村長は50ぐらいって感じなので、爺さんと呼ぶにはまだ早いだろう。
また、ラッズは30ちょいってぐらいか、たぶん40にはなってない気がする。
とかなんとか内心思っているうちに、村長が平静シリーズを身に付け始める。
まずはニット帽、そしてサングラス!
おいおい、村長……なかなかファンキーなチョイスじゃないか?
「……あとはこのリストバンドを付けると魔力操作が困難になるのでしたな?」
「ああ、そのとおりだ」
わざわざ指摘するほどでもないが、アームウォーマーのデザインバリエーションの一環としてリストバンドもスライムダンジョン17階に出現していた。
「それでは……いざ、参らん!」
そんな気合を込めつつ村長はリストバンドを左、そして右と装着していく。
「……ほぐぉっ!?」
「お、親父ィィッ!!」
ラッズが慌てて村長の頭からニット帽を剥ぎ取る。
「はぁ……はぁ……なるほど、これほどまでとは……儂こそ調子に乗っておったようですな……」
「だからいったのに……」
「そこまで凄いのかぁ……オイラも頑張んなきゃだ!」
「とりあえず効果は凄いですが……これはある程度魔力操作に慣れた者にだけ使わせたほうがいいかもしれませんな」
「それに加えて、子供たちが使う場合は大人が傍で見ているべきだと思う」
「うむ、誰が使うかってことと使い方に関しては、村長や親たちの判断に任せよう」
とまあ、こんな感じで村の若者の近況を聞きつつ、予定していた平静シリーズのプレゼントも終わったので、村長宅を辞することにした。
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