第446話 あの首飾りの感覚に似ているような?

「装備の質によって、村の戦力も大幅アップといえそうですわね?」

「外壁も充実しているし……防衛する力はかなりものと予想される」

「魔力操作の訓練用としてだけでなく、それも期待して村長さんに平静シリーズを渡したのでしょう?」

「ああ、これから先も盗賊やモンスターに襲われる可能性がないとはいえないからな……」


 村長の家からリッド君の家に移動する途中のこと。

 そして村長に平静シリーズをフルセットで約20人分渡したのだが、これをセットからバラバラにして2つずつか場合によっては1つずつ村人たちが装備することで魔力操作に影響を受けず防御力のみを高められるだろうと想定している。

 まあ、平静シリーズは伊達に魔法装備と銘打ってないからね。


「う~んと……こんな感じかな?」

「そうそう、上手だよっ! ホントは魔力交流をするなら両手を合わせてするほうがやりやすいんだけど、それを片手でできちゃうなんてリッド君は凄いねっ!!」

「ほんとう!? やったぁ!!」


 俺たちの少し後方を歩き、ノムルがリッド君と手をつなぎながら魔力交流を教えていたのだった。

 ふむ……ノムルはよほどリッド君のことが気に入ったようだな。

 といいつつ、リッド君は素直でいい子だし、加えて魔法の筋だっていいからね、気に入るのも当然といえるだろう。

 もちろん、サナやヨリもリッド君に好感を持っているようだが、それでもノムルが一番って感じだ。

 あと、いつのまにかリッド君のお姉さん向けモードがほぼ解けかかっているが……まあ、今はまだそんなもんだろうし、それでよかろう。

 とまあ、そんなことを思っているうちにリッド君の家に到着。


「ただいま、母ちゃん! アレス兄ちゃんたちが来てくれたよ!!」

「おかえり、そしてよく来てくださいました」

「お久しぶりです、ナミルさん」


 ナミルさんに温かく出迎えてもらうとともに、ギドと3人娘を紹介した。


「狭い家で恐縮ですが、どうぞゆっくりしていってくださいね」

「お世話になります」


 先ほどのリッド君やナミルさんはこういっているが、これは謙遜というもので、全然狭くないし、むしろ広いぐらいだろう。

 そして俺たちが村長の家に行っているあいだに、ナミルさんは食事の準備を終えていたようで、さっそく夕飯をごちそうしてくれる。


「お口に合えばいいのですが……」

「母ちゃんの作る料理は最高だよ! そうだよね、アレス兄ちゃん!?」

「ああ、もちろんだよ!」


 というわけで、ナミルさんの料理をいただく。


「うん、とっても美味しい! 毎日こんな美味しいご飯を食べられるリッド君がうらやましいぐらいだよっ!!」

「料理の腕もさることながら、作り手の真心も伝わってくるようです」

「料理に温もりが感じられる」

「ええ、皆さんのおっしゃるとおりですわね」

「あらあら、そんなに褒めてもらっては、なんだか照れてしまいます」


 そんなナミルさんの照れた顔もかわいらしくてステキだなって思ってしまうね。

 そして俺は、毎度ナミルさんの料理に母の味を求めているみたいなところもある。

 もちろん前世の母さんの作るものとはメニューも味も全然違うが、それでも料理に込められた想いみたいなものは同じだと思うから……

 そんな俺の気持ちを腹内アレス君も彼なりに理解してくれているようで、共に心を温かくしている。

 こうして夕食を終えたところで、お茶を飲みつつ平静シリーズやお菓子などのお土産を渡し、ナミルさんに説明をした。


「私のぶんまでいただけるとは……これはリッドと一緒に頑張らなければなりませんね」

「頑張ろうね! 母ちゃん!!」


 吸命の首飾りのせいとはいえ、リッド君に心配をかけたという意識があるのだろう、ナミルさんもあれから魔力操作の練習をしているらしい。

 そしてこの場でナミルさんとリッド君は平静シリーズを試着してみることになり、リストバンド、手袋……そしてヘアーバンドと身に付けていく。


「……身に付けてみた感じ……少し、あの首飾りの感覚に似ているような?」

「母ちゃんッ!?」

「大丈夫よリッド、具合が悪くなったわけじゃないからね?」

「う、うん、それならいいんだけど……」

「なるほど……吸命の首飾りは生命エネルギーの一環として魔力も吸収していたでしょうから、魔力経を正常に魔力が流れていない感じが似ているのかもしれませんね」

「アレスさんがそういうのなら、そうなのでしょうね。でも、ふふっ……話にあった村長さんみたいなリアクションをしないで済んで助かったかもしれません……いえ、笑っては村長さんに悪いですね」

「村長の『……ほぐぉっ!?』は傑作でしたからね、仕方ありませんよ」

「いけません、アレスさん……ふふっ……」


 これが2回目だというのに、どうやら俺の迫真のモノマネはナミルさんのツボにクリティカルだったようだ。

 まあ、俺が多少誇張しているのも、いくらか影響しているかもしれないけどね。

 それに、ナミルさんが暗い雰囲気にならないように気を使ったっていうのもあるかもしれない。

 それから、2人とも平静シリーズを3つ装備しているわけだが、ある程度大丈夫みたいだ。

 これは数カ月にわたる魔力操作の練習の成果もあるだろうし、リッド君は才能的な部分もあっただろう……そして幸か不幸か、吸命の首飾りによってナミルさんの身体は魔力の流れを阻害されることに耐性を得ていたのかもしれない。

 そんな感じで食後のひとときを過ごし、今回もリッド君と一緒にお風呂に入った。


「平静シリーズを耐えたことから判断しても、ここ数カ月頑張っていたみたいだね?」

「うん! 少しでも早くアレス兄ちゃんみたいに強くなって、父ちゃんの代わりに母ちゃんを守れる男になりたかったからね!!」

「そっかぁ、その成果はしっかりと出ているよ……でも、頑張り過ぎてナミルさんを心配させないようにね?」

「うん、気を付ける!」

「まあ……さらに訓練の強度を上げるような物を持ってきた俺がいうのも変かもしれないけどね」

「あはは、そうかも」


 お互いに背中を流し合いながらの会話。

 そして、まだまだ子供ながらリッド君の背中から微かにではあるが、男としての気概のようなものを感じた。

 ……君も成長しているんだね。

 そうして風呂から上がったあとは、みんなで魔力操作の練習をしてから就寝。

 ちなみに、ナミルさんに迷惑をかけたテグ助だけど、ソレバ村に帰ってきているようだ。

 さっき奴の家の前を通りかかったとき、魔力探知で探ってみたところ存在を確認できた。

 とりあえず、これでナミルさんがテグ助の家を管理する負担はなくなっただろうし、これ以上俺が口を出すこともあるまい。

 なんて思っているうちに……自然と、眠りの旅に……

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