第525話 下手なことはいえない

 セテルタがエトアラ嬢について語りだしてから、一体どれだけ時間が経っただろうか……

 ああ……いや、まだ夕食の時間内だな……


「……そこで、僕はあの人に『それは違う!』といってやったんだ!!」

「お、おう……」

「うむ……」

「そうなんですね……」


 なんというか俺たち3人は、セテルタの話にただひたすら相槌を打つだけの存在になっていた。

 それにしても、最初は記憶を探り探りしながらって感じだったのに……結局的にあとからあとからどんどんエピソードが出てくるじゃねぇか……

 まさに、どんだけだよ……っていいたくなりそう。


「……それでさ、あの人が腹立たしいのは、それなりに正論で殴ってくるところなんだよ! そういうときは全面的に否定もできないし、かといって勢いで押し切ろうとすると、逆にこっちの痛いところを的確に突いてくるものだからさぁ!!」

「へ、へぇ……」

「ふむ……」

「なるほどですね……」


 ……今セテルタが話してるエピソードは、2人の物語としてはまだまだ序盤もいいところだぞ?

 だってまだ、出逢いの時点から2年経過したかどうかってレベルだし……

 エピソードを全部聞き終わる頃には、夜が明けるんじゃないか?

 というか、下手したら明日も丸一日使ったりして……


「……おい、アレス……そろそろ、模擬戦の時間じゃないか……?」

「ええ、移動の時間を考えると……そろそろかと……」

「お、おう……そうだったな……」

「……えっ! もうそんなに時間が経ってた!? あぁ、ごめんよぉ……アレスが正しい判断をしっかりできるようにって思いながらあの人の話をしてたつもりなんだけど、いつのまにか余計なことまでいっぱいしゃべってたよね……?」

「あ、いや……とても参考になる話をたくさん聞けてよかったなって思っているよ……」

「う、うむ……これだけ情報を得れば、アレスも判断を誤ることはなかろう……」

「え、ええ……どれも大変興味深いお話でした……はい」

「そっ、そうかなぁ!? だといいんだけどね、タハハッ!!」


 なんて朗らかに笑うセテルタ……

 このとき改めて思った……俺が日頃女子たちと食事を共にする際、基本的に後半戦は俺が魔力操作についてひたすら語るって感じだったのだが……彼女たちは、こういう気分で話を聞いていたのかもしれない……ってね。

 とはいえ、あれは俺自身あえてそうしているっていう部分もあったんだけどさ!

 まあ、ちょっとした警告っていうか、「アレスを食事に誘うと大変なことになる」って思わせる……みたいな?

 ただし、それは嫌がらせ100パーセントってわけでもない、俺なりに丁寧に気持ちを込めて魔力操作について語っているのだからね!!


「それで、セテルタはこのあとも時間があるのか? もしよかったら、私たちがやっている模擬戦にも参加してみないか?」

「僕も、セテルタさんとご一緒したいです」

「ロイターとサンズもこういってるし、セテルタ……どうだ?」

「うん! 喜んで参加させてもらうよっ!!」


 まあ、どっちかっていうと、モッツケラス派閥の取り巻きたちが口を挟みに来るかどうかだろうなって感じだったけどね。

 それはともかくとして夕食を終え、セテルタも一緒に運動場へ向かう。

 その途中で、ヴィーンたちとも合流した。


「おぉっ、今日はセテルタさんも一緒なのか! へへっ、これはいつにも増して頑張んなきゃだなっ!!」

「セテルタさん、お手柔らかに頼みますねぇ」

「セテルタさん! 今日は勉強させていただきます!!」

「……よろしくお願いする」

「こちらこそ、よろしく頼むよっ!」


 うんうん、いい感じでヴィーンたちもセテルタを受け入れるつもりのようだ。

 まあ、セテルタは侯爵家に相応しい保有魔力量だし、平静シリーズに興味を持つぐらいには技術を磨くことにも積極的な男だ、対戦して学ばせてもらうことも多いはず。

 おそらく、ヴィーンたちもそう思ってのことだろう。

 そして、運動場にはファティマとパルフェナも既に到着しており、平静シリーズも着用済みだった。

 というわけで、俺たちも平静シリーズを着用する……もちろん、セテルタもだ!


「お、おい……見ろよ、あれ……」

「あのセテルタさんの格好……マジかよ……」

「なるほど、魔力操作狂いの奴……本格的にモッツケラス家を選ぶつもりのようだな……」

「……いえ、まだ分かりませんわ! エトアラ様は、卒業のときまで待たれるおつもりなのですからね!!」

「まあ、セテルタ氏のほうから、あの方に譲ってもらうよう頼み込んだのかもしれませんからねぇ? ……早合点するのはやめておきましょう」

「……あなたたち、情報が古いわよ? あのお召し物は、王女殿下もご利用なさっている、それはそれは素晴らしい装備品なのだから」

「……なッ!? そ、それは……本当なのか?」

「ええ、もちろんよ……何を隠そう、私の友人も王女殿下に分けていただいて、使い始めたのだし」

「し、知らなかった……あのダッ」

「おっと! それ以上はいけない……」

「そ、そうだった……王女殿下までご使用になられる装備だというなら、下手なことはいえないもんな……」

「……そういうことさ」


 セテルタが俺たちの模擬戦に参加し、さらに平静シリーズを着用していることに驚いていたオーディエンスたちであったが……

 さすがに、王女殿下が平静シリーズを愛用しているという情報のほうがインパクトとしては大きかったみたいだね。

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