第435話 きっと無駄にはなりますまい

 合同訓練が終わったところで、ノーグデンド家の使用人たちがせっせと訓練場にある物を運んできた。

 そのある物とは平静シリーズである。


「大繁殖があるたび溜まる一方でね……アレス殿も今回の大繁殖である程度入手したこととは思うけれど、これからの道中や学園の仲間に配ることを考えたら、いくつあってもいいでしょう? だから持って行くといいわ」

「ありがたいことですが……こんな大量によろしいのですか?」

「ええ、歴代のノーグデンド子爵たちも活用法を見出せず死蔵するばかりでね、これでも一部なのよ。それに、当家に仕える者は全員着替え用などの予備も含めて大量に持っているから心配いらないわ」

「そうですか、それならいいのですが……」


 全員持っていると聞いて、なんとなくノーグデンド家では給料の一部として現物支給されているのかも……なんて思ってみたり。

 ああ、だからさっき訓練場に案内してくれた使用人は俺たちの服装を見てギョッとしてたんだな。

 この家では平静シリーズの装備効果をウワサとしてだけではなく、実感として知っているのだろう。

 でもまあ、2つまでならシリーズ装備の効果も発揮しないし物自体はいいから、インナーとか中敷きだけみたいな感じで使っている人はそこそこいるいるんじゃないかな?

 確かセーツェル殿も最初会ったとき、訓練着として使ってる奴が多少いるようなことをいっていた気もするし。


「あと、手袋とか靴下はそんなに数がないわよね?」

「そういえば確かに……」


 20階のドロップ品だったからね……

 そしてチラッと見てみた感じ、指ぬき手袋とかもあった! それって中二御用達アイテムじゃん!!

 そうか、俺たちが引き当てたのは普通の手袋だったが、そういうデザインの物も出てきたりするんだなぁ……まさにガチャだね。

 ちなみに、俺が見たやつは左右に一文字ずつ「平」「静」と刺しゅうが施されていた。

 ま、まあ、左右で悩まなくて助かる……かなぁ?


「それから、まだまだたくさんあるからソエラルタウト家の屋敷へも送らせてもらうわね。もともとアレス殿もそのつもりだったのでしょう?」

「はい、この者たちが屋敷に戻った際に配らせるつもりでした」

「そうよね、それでもしよかったらアレス殿の手紙も一緒に送るけれど、どうかしら?」

「そうですね、義母上と兄上に事情を説明するべきでしょうし、お願いします」

「わかったわ、それじゃあ明日の朝にでも渡してちょうだいな」

「はい」


 まあ、義母上も俺からの手紙を楽しみにしてくれているみたいだからな、いささか早い気がしないでもないが、ここで第一弾として送らせてもらおう。

 それに親父殿派のクソどもだって、さすがにノーグデンド家から送られてきたものに余計な手出しはできまい。

 とはいえ、義母上やルッカさんたちが対策を講じて既に手を出せないようになっているかもしれないけどね。

 こうしてメイア夫人と挨拶を交わして、訓練場を解散する。

 その後はセーツェル殿を中心としてノーグデンド家の領兵たちに案内されながら大浴場へ向かう。

 フフッ、共にいい汗をかいたあとは男同士の友情を育む、実にいいねぇ。

 ああ、3人娘のほうもノーグデンド家の女性たちと一緒に風呂に入るらしいので、そちらはそちらで女同士の友情を育んでもらえたらと思う。


「それにしましても……それを着てよくあれだけ動けましたね」

「いやぁ、正直なところ魔力に物を言わせて力づくといった部分も大きかったですよ」

「またまたご謙遜を……ただ、我々もこれからは使いこなせるようにならねばなりませんね……」

「セーツェル殿たちにはご負担なことであろうとは思いますが……きっと無駄にはなりますまい」

「ええ、そうですね……それに奥様のことですからソエラルタウト家だけではなく、親交のある他家へもあの装備を配ることでしょう。そうなれば、それらの家の者たちと『あれはヤバイ』といいながら共通の話題で飲んだりもできそうです」

「フフッ……それがいつしか『あれはスゴイ』に変わっていることでしょう」

「ハハハ、そうなっているといいですね……いえ、そうなるように我々も頑張ります! なあ、みんな!?」

「はいッ!」

「こうなったら、やるっきゃないな!」

「ノーグデンド領軍の意地、見せてやりますよ!」

「よっしゃ! 俺ァ今晩からアレを着て過ごすぞォ!!」

「おう! 俺もだぁ!!」

………………

…………

……


 ふむ、ノーグデンド領軍のみんなもヤル気に燃えているようだ。

 今回の合同訓練がいい刺激となってくれたのなら、嬉しい限りだね。

 こりゃ、ソエラルタウト領軍もうかうかしてられないかもしれないな……兄上に手紙でそう伝えておこう。

 そうして風呂上りに領軍たちはビール、俺はアイスミルクコーヒーで乾杯をしてから部屋に戻った。


「えへへ~また今度、こっちの子たちと一緒にダンジョンに行こうって約束したんですよぉ!」

「友人兼ライバルができた」

「ノーグデンド家の方たちは、なかなか素晴らしいお人柄のようですわ」

「うむ、そうであろう!」


 メイア夫人に仕える者たちなのだからな!!

 ……って口に出すとまたジトっとした目を向けられそうなので、それはいわないでおいた。


「……それがようございます」


 なんてギドもボソッと呟いてきたし。

 さて、それじゃあ手紙を書くとするかね。

 とはいえ、俺って奴は前世のメールとかSNSも含めてかなりの筆不精だからなぁ……

 うぅむ、なんて書こう……?


「あまり気負わず、アレス様が思うままに書かれればよろしいかと」

「アレス様がお書きになった手紙であれば、きっとお喜びになられますわ!」

「うん、絶対そうだよ!」

「……リューネ様なら宝物入れに大切に保管する気がする」


 サナの発言はやや大げさな気もするが……それはそれとしてみんなに勇気付けられ、手紙を精一杯書き上げた。

 そしてそのあとは、精密魔力操作をしておやすみ。

 さて、いろいろ楽しい時間を過ごさせてもらったが、明日でノーグデンド領も出発だな。

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