第434話 今こそ心の平静を保つべきときですよ
ノーグデンド子爵夫人が平静シリーズを身に纏った姿が……その、凄く……スゴイです。
着ている物としてはインナーとジャージ、それからランニングシューズの3点といったところなのだが……いやぁ、実にお見事なスタイルである。
それにさ、やっぱ貴族服っていうのは俺の前世感覚が影響しているのか、ちょっと別世界観があるというか、なんか遠い感じがしちゃうんだよね。
そこんところ平静シリーズって前世のトレーニングウェアほぼそのままだからさ、親近感も湧いてくるんだ。
だから「ノーグデンド子爵夫人」っていうより、気軽に「メイアさん」って感じがしちゃうんだよね。
しかもさ、平静というデザインのコミカルさが影響しているのか、基本的に美人系なメイア夫人がカワイイ系に見えてくるし。
「……アレス様、今こそ心の平静を保つべきときですよ」
いつのまにか背後にいたギドが、そっと耳打ちしてきた。
……いかんいかん、メイア夫人に完全に見惚れてしまっていた。
まあ、これも平静シリーズの装備効果が強く影響しているのかもしれない……なんせ、4つだからね!
そしてメイア夫人のほうも装備効果に加えて、平静シリーズのダサさにちょっぴり恥ずかしさもあるのか、ほんのり桜色の頬が実に可憐だ。
……あれ? なんか斜め後方から圧を感じるぞ?
そちらのほうにチラリと目を向けてみると、3人娘がジトっとした目を向けてきているじゃないか……
「……だからいいましたでしょう?」
「う……うむ」
なんて思っているうちに、メイア夫人が口を開く。
「我がノーグデンド家の兵たちよ、ソエラルタウト家との合同訓練はどうであるか? ……セーツェル、申してみよ」
「ハッ! ソエラルタウト家の方々の実力の高さに感服いたしました! また、我々が見向きもしてこなかった例の装備を短期間でこうまで使いこなされていることに驚きを禁じ得ません!!」
「ふむ、そうであろう! 今まで我らはこの装備を使えない物として捨て置いてきたが、こうしてアレス殿たちによって実用に供することが証明されたのだ、これからは我らも訓練に用いていくこととする!!」
「ハッ!!」
メイア夫人の宣言に、ノーグデンド家の人々が声をそろえて返事をしている。
ただ、冷や汗たらりといった表情の人も少なからずいるけどね。
ま、そのうち慣れるだろうから頑張ってくれたまえ!
なんて思っているとき、ふとメイア夫人と目が合った。
そのとき、ふんわりとこちらへ微笑みをお向けになられた!
まさにドッキーン!! って感じ。
そう「今、アイドルがステージから俺だけに微笑みかけてくれた!!」っていうやつ、あれだね。
……3人娘からの圧が強くなっても困るし、ギドからこれ以上注意を受けるわけにもいかんので、ここらで気持ちを落ち着けねば。
そうして訓練は最後、俺の希望を反映した形というべきか、メイア夫人の指示で魔力操作の時間となった。
でもまあ、魔力操作はクールダウンの意味も込めてやっておくといいと思うんだよね。
そこでメイア夫人と魔力交流をさせてもらいながらお話をする。
……まあ、これだと全然クールダウンできそうもないけど、それはそれ。
というか、このドキドキした気持ちを抑える努力こそが魔力操作の訓練になるのだ!
……という言い訳をさせてください。
「本当はもっと早く訓練に参加しようと思っていたのだけれどね……試しに部屋で魔力操作をやってみたら、体がビックリししちゃったみたいでフラフラ―っとしてしまってね……」
「そんな、無理はいけません」
「大丈夫、無理はしていないわ。でもまあ、多少魔力の感じを思い出してきたけれど、まだまだ完全ではないからこれから魔力操作を日々続けて昔の勘を取り戻そうと思うわ……いえ、あの頃よりもっと上達しなければね」
「魔力交流をさせてもらっている感じでは、今でもかなりお上手だと思います」
「ありがとう……でも、まだまだこんなものではないってところを見せたいところね。それから、アレス殿の魔力は優しさに溢れていてとても心地いいわ」
「そうですか、私もメイア夫人の魔力に温もりを感じます」
「ふふっ、『メイア』って呼んでくれて嬉しいわ」
「あっ……これは失礼しました」
なんか心がポカポカして気が抜けてしまっていたのだろう、思わず口に出てしまっていた。
「これからもそう呼んでくれないかしら?」
「……はい、メイア夫人がよろしければ」
「ありがとうね」
このとき心を占める感情として、俺のお姉さん好きの気持ちより、原作アレス君の安らいだ気持ちのほうがより強いかもしれない。
それはたぶん、メイア夫人に母性を感じたからなのだろう。
「……俺、なんか急に母ちゃんの顔が見たくなってきた」
「奇遇だな、俺も母さんの手料理が食べたいなって思ってたところなんだ」
「え、お前も? ……そうだ、今度の休暇にちょっくら実家に帰ってみようかな?」
「そうだなぁ、俺もここしばらく帰ってなかったし、久しぶりに母さん特製のピーマンの肉詰めを作ってもうらうのもいいな」
「へぇ、ピーマンの肉詰めかぁ」
「ああ、子供の頃ピーマンが嫌いだったんだけど、肉詰めにしてもらったら美味しくってさ……そのおかげでピーマンが食べれるようになるどころか、好物になってね」
「ほう、それはそれは」
みたいな感じで、周りの人々も母への想いを語り合っていたりする。
おそらく、原作アレス君の気持ちが魔力の波として自然と周囲にも伝わったのだろうと思う。
そうしたほんわかした雰囲気の中で合同訓練は終わりを迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます