第433話 ギョッとしていた
着替えを終えて、ノーグデンド家の使用人に案内されながら訓練場へ移動する。
そして今回、俺は平静シリーズを上からニット帽、インナー、ジャージ、そしてランニングシューズの4つを装備している。
また、ギドと3人娘はインナーを普通の物にして3つだけにしている。
正直なところ、ギドはもういくつか増やしても大丈夫そうではあるが、あまりやり過ぎると魔族だとバレるかもしれないからね、
それから3人娘のほうは、4つ以上だとさすがにパフォーマンスが落ち過ぎるから3つに留めているのである。
とまあ、そんな格好の俺たちを見た瞬間、ノーグデンド家の使用人はギョッとしていた。
うん、平静シリーズのヤバさは普通の使用人も知っているのだろう。
そうして訓練場に到着。
「き、今日は急遽ソエラルタウト家のご子息たちと合同訓練をすることになったとは聞いていたが……」
「おい! あれって、まさか……」
「や、やっぱり、見間違いじゃ……ないよな?」
「な、なんで……アレを着てるんだよ……しかもご子息にいたっては4つだぞ!?」
「4つ? いや、3つじゃないのか?」
「首元をよく見てみろ……あの襟ぐりは明らかにアレだ!」
「あっ! た、確かにッ!!」
とかなんとか、ノーグデンド家の領兵たちがワナワナしている。
そこでセーツェル殿が声をかけてきた。
「アレス殿、またお会いできて光栄です」
「やあ、セーツェル殿、スライムダンジョンはどうでしたか?」
「はい、アレス殿のおかげですっかり通常の状態に戻っておりました」
「それはよかった」
「それにしましても……その装備を既にそこまで着こなしておられるとは、さすがアレス殿です」
「いえいえ、まだまだですよ……それに正直なことを申せば、セーツェル殿から話を聞いたときはすぐにでも全身そろえてやろうと思っていたのですが、今はまだこの程度しか装備できておりません……このことから自分はまだ未熟者なのだなと痛感させられましたよ」
「なんとまあ、アレス殿は志が高くていらっしゃる」
「そういわれると少し照れますね……それはともかくとして、本日はよろしく頼みます」
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします」
そんな感じでセーツェル殿と挨拶を交わしたところで、さっそく訓練を開始。
最初はウォーミングアップがてら訓練場を走ったり、素振りや体捌き等の基礎練習をする。
昨日1日かけて平静シリーズを装備しながら魔力操作の練習をしたので多少慣れたとはいえ、やはり4つはなかなかしんどいものがある。
だが、魔力操作が困難なぶん魔力のゴリ押しで身体能力を向上させて訓練をこなしていく。
まあ、そのせいで余分に魔力を消費してしまっているが、それは仕方あるまい。
そして基礎練習が一段落したところで、模擬戦に移行。
そこでさすがに一般兵では俺の相手は務まらないので、ノーグデンド家の騎士や魔法士と対戦させてもらう。
模擬戦の内容としては、剣術の腕だけでは互角の戦いを余儀なくされることも少なくないが、そこに魔法を加えるとかなり楽に勝てるようになる。
いや、平静シリーズのせいで魔力操作が難しいんじゃないの? って思われるかもしれないが、魔力のロスを覚悟さえすれば全く魔法を撃てなくなるわけではないからね。
それに、学園でソイルの阻害魔法を受けながら模擬戦を続けていたのもかなり役に立っているようで、それと似たような感覚で魔法を使えるっていうのもある。
ちなみに、先ほどノーグデンド子爵夫人は文系化してきているといっていたが……確かにソエラルタウト家の騎士や魔法士に比べれば実力は劣るだろう……特に俺の護衛をしてくれた実力上位者のお姉さんたちとはかなり差があると思う。
しかし、子爵家の規模として考えれば、妥当なレベルなんじゃないかなっていう気がしなくもない。
「……参りました。さすがアレス殿ですね」
「いえ、剣の腕だけではセーツェル殿に敵いませんでした」
「ははっ、私はその剣にこれまで身を捧げてきたのですから、あっさり負けてしまっては自信喪失してしまいますよ、それにその装備のぶんもありますし……まあ、それはそれとして、王国式とは違う剣術をお使いのようですね?」
「ええ、まだまだ満足いくように振れませんが、私が使う剣術はレミリネ流といいます」
「ほう、初めて聞く流派です」
セーツェル殿との対戦でめぼしい相手との模擬戦が終わったので、ほかの組の対戦を観ながらレミリネ流のことをかいつまんでセーツェル殿に説明した。
ちなみに対戦してみた感じ、セーツェル殿はノーグデンド家の中で実力上位者のうちの1人といったところだろう。
そしてギドや3人娘だが、ギドは勝ち星を重ねつつ勝ち過ぎないようにしているのもあってか時間切れによる引き分けもいくつかあり、3人娘は並レベルの相手にはある程度勝てるものの、さすがに実力上位者には負けることが多いようだ。
そこでノーグデンド家の人々の反応としては……
「ま、まあ、ご子息は魔法の天才と呼び声高いお方だから……いや、それでも驚きは隠せないが……それよりも使用人の方々もアレを装備して平然としていられるのが信じられん……」
「ほ、本当に……ただの使用人なのか?」
「それはその、護衛も兼ねていると思えば……な?」
「そ、そうだよな! ははっ!!」
「だが、使用人ですらこれほどの強さとは……ソエラルタウト家は一体どうなっているんだ……」
「恐ろしく感じないではないが……同じ王国内の味方だと思えば頼もしくもある……」
「ああ、まったくだ……」
まあ、平静シリーズのハンデありでこれだったからね……
とはいえ、ギドはソエラルタウト家の中でも実力トップクラスの男なんだ、あまり落ち込むことないよ!
それに3人娘だって、もともと騎士や魔法士でもやっていけるだけのスペック持ちなんだしさ!!
なんて考えていたそのとき……
「お……奥様?」
「その格好は……!」
「な、なぜ……?」
「えっ……えぇッ!?」
ノーグデンド子爵夫人が訓練場に姿を現した……平静シリーズを身に纏って。
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