第432話 百万の味方を得た思いです!!

 ノーグデンド子爵夫人とのおしゃべりをいったん終了し、用意された部屋に移動。

 そしてしばしの休憩を挟み、現在ノーグデンド子爵夫人と夕食を共にしている。


「あれは確か私が5歳だったときかしらねぇ……お茶会で初めてリリアン様とお会いして一目で憧れを持つようになったわ」

「そう思っていただけで、子として嬉しく思います」

「リリアン様の優雅さに憧れたのももちろんだけれど……なんというのかしら、内から溢れ出る覇気みたいなものを感じて全身がシビれたのを今でもよく覚えているわ」

「覇気ですか……」


 ふむ、母上の膨大で圧倒的な魔力を覇気と感じたのかな?


「ええ、それはどんな大人からも感じたことのなかったものだったわ……そのたった一度の、それも挨拶をさせてもらっただけの一瞬の出会いから私の運命は変わった……」

「う、運命とまで?」

「ええ、そうよ『リリアン様に少しでも近づきたい』その一心から自分をひたすら磨いたの。その際に魔力操作にも熱心に取り組んだわねぇ……もともと文系男爵家の娘でしかなかった私には環境的にも才能的にもなかなか大変だったけれど、それでも『この頑張りがリリアン様へと続く一歩になる!』そう思えば、苦労が喜びになったわ……」


 ノーグデンド子爵夫人、この方もガチなお人のようだ……

 そして普通ならたぶん結婚相手も文系貴族となったのだろうが、武系貴族……しかも、まあまあソエラルタウト領に近い領地ときたもんだ。

 これをガチといわずしてなんといえようか。


「そして努力の日々を重ねてついに学園入学。私はリリアン様の1年後輩で『なぜあと1年早く生まれてくることができなかったのか!』なんて思わずにはいられなかったけれど……その代わり後輩としてかわいがってもらえたから、それはそれで嬉しくもあったわね」

「そうだったのですか」


 なんとなく、夫人が話しながらだんだんヒートアップしてきてるっぽい……


「リリアン様の凛として涼やかな声で『メイア』って呼んでもらえただけで最高の気分だったし、それまでの努力が報われたって思えたわぁ! ほら、さっきも話したけど私ってしがない男爵の娘でしかなかったでしょ? そんな小娘が公爵令嬢の、それも当時最高の女性と謳われたリリアン様に恐れ多くて近づけるわけもなかったからね……だからこそ実力を磨く必要があったの! 周りを黙らせるためにもね!!」


 た、確かに……夫人が身に纏う雰囲気からして、なかなかの実力がありそうだ。

 そして母上との思い出を語る夫人の目がキラキラとしていらっしゃる……先日の義母上もこんな感じだったなぁ。

 でもまあ、そんな夫人の姿を見ていて、心が温まってくる。

 これはおそらく、原作アレス君の気持ちでもあるのだろうね。

 そうしてしばらく夫人の思い出話を聞いたいたのだが……


「そんな幸せな日々も……リリアン様が亡くなってしまわれた日から色褪せてしまった……ごめんなさい、本当に辛かったのはアレス殿であったはずなのに、私は自分の空虚な心を抱えたまま沈んでいただけ……それにアレス殿がソエラルタウト侯爵とあまり上手くいっていないと聞いていたのにもかかわらず、リューネ様がいらっしゃるのだからお任せするべきだと自分に言い訳して……」

「『メイア』……夫人、あなたが気に病むことはありません。そこまで母のことを想っていただけて感謝でいっぱいです。それに見てください、私はこうして元気にしているでしょう? だから夫人が気にすることなど何もないのです」

「リリアン様! ………………アレス殿、ありがとう」


 似ているかどうかは分からないけど、母上になったつもりで夫人の名を呼んでみた。

 また、実際のところ当主に睨まれている子息を他家の……しかも格下の貴族夫人がどうこうできるわけもないだろう。

 下手したら潰されるかもしれないし。

 だから本当に気にする必要はないと思うんだ。

 それに「お姉さんの味方」を自称する俺としては、夫人の落ち込んだ姿は見たくないし。


「また母のことをお聞かせください、残念ながら私には母との記憶があまりないものですから……」

「ええ、ええ! それはもう、いくらでも!!」


 よかった、夫人が元気を取り戻してくれたようだ。

 やっぱりさ、お姉さんはこうでなくっちゃね!

 ただ、そうは思いつつ……夫人の涙に潤んだ瞳は……その、ね……美しいなって思ってしまったのは俺の心の中にしまっておこう。


「アレス殿……この先何か困ったことがあれば、遠慮なく私に相談してね! 私にできることなんて大してないかもしれないけれど、それでも力が及ぶ限り、なんでもするわ!!」

「ありがとうございます! そういっていただけて、百万の味方を得た思いです!!」


 夫人に迷惑をかけるつもりはないが、その気持ちはありがたく頂戴しておこう。

 そして夫人に困ったことがあれば、そのときは俺が力になろう。


「それじゃあ、アレス殿に頼りがいがあると思ってもらえるよう、まずは魔力操作を再開して魔力経の掃除からかしらね! ああ、もう10年近くサボったせいでだいぶ鈍っていそうだわ……だめねぇ」

「いえいえ、夫人ならばきっとすぐ勘を取り戻せるでしょう!」


 たぶん母上がいない悲しみと、それによる目標喪失からなんとなくそのままになってしまっていたのだろうな……

 でも、夫人と共に魔力も少しお休みしていただけ、きっと夫人の呼び声にすぐ目覚めてくれるはずさ!


 こうして決意を新たに夕食を終え、一度部屋に戻りノーグデンド家の皆様と訓練のため貴族服から運動できる服装に着替える。

 もちろん、平静シリーズだ。

 さあ、やるぞ!

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