第89話 好きになれそうだよ

 きゅるんとした小娘たちと思いがけずパーティーを組むことになったなんてこともありつつ夜会の会場に到着。

 うわぁ、煌びやかな雰囲気だねぇ。

 そして、きゅるんとした小娘……いや、そろそろ名前で呼んでやるか、パーティーを組む相手だしな。

 それに、ヤバめのモンスターとかに出くわしたときとっさに「きゅるんとした小娘」とか言ってしまったあとを想像するとかなり面倒そうだ、今から気を付けておこう。

 それはそれとして話を戻すと、ファティマとパルフェナへ集まる視線の熱量が凄い。

 まぁ、こいつらは俺と違ってしっかりと着飾っているからな、普段よりさらに魅力が増しているというのもあるのだろう。

 ちなみにファティマは赤いドレスを着て、パルフェナは青いドレスを着ている。

 うん、赤鬼と青鬼を連想した俺は悪くないはず……ってファティマが周囲に気付かれないレベルで軽く睨んできた、こういうときだけ妙に勘の鋭い奴だ。

 それはともかくとして、視線の熱量に関しては男子諸君の方はまぁそんなもんかなとも思えるが、令嬢たちの悔しそうな内心を必死に隠してますって表情がなんとも言えない……

 まぁ、小娘どもの容姿にさほど関心を寄せていなかったというのもあるが、王女殿下等の原作ゲームヒロインたち以外はモブということもあって漠然とみんな同じぐらいの可愛さなのだろうと思っていた。

 しかし、こうして見比べてみると他の令嬢たちには悪いが、やはりこの2人の方が華があると思ってしまう。

 というわけで、そんな2人を連れている俺に男子諸君から嫉妬と羨望がないまぜとなった視線を向けられる。

 おいおい、ペアがいる奴はやめとけ、隣から冷ややかな視線を向けられているぞ、早く気付け! 手遅れになっても知らんぞ!?

 とまぁ、そんな感じで春季交流夜会が始まる。

 この夜会、運営は2・3年の生徒会を中心とした実行委員の皆さんがやってくれている。

 教師陣はよっぽどの問題が起きない限りはノータッチ。

 将来を見据えて学生たちで経験を積みなさいということらしい。

 そんな感じで今は生徒会長さんのありがたい開会の挨拶を拝聴しているというわけ。

 いやまぁ、そんなもん真剣に聞いてる奴など極少数だろうけどね……現に浮ついた雰囲気が会場全体を満たしているし。

 そんな手順を踏んでようやく夜会が本格的に開始される。

 まずは義務的に挨拶回り。

 我々貴族は1年生の中でも一番の上位者である王女殿下への挨拶を欠かすわけにはいかんのです。

 というわけで俺の侯爵子息という立場により、さほど待たされることもなく王女殿下への挨拶を済ませた。

 それで、やっぱ王女殿下の取り巻きだが、こうして改めて見てみるとなかなかに壮観だね。

 ただ、制服を着ているときは気付かなかったが、各々が全力で着飾っているこのときになってようやくわかったこととして、取り巻き男子の多くが下位貴族だったということだ。

 なんというか、派手さが違うんだ。

 特に俺の所属するAクラスの生徒なんか煌びやかすぎて眩しいぐらいだもん。

 他のクラスの奴のことはよく知らんが地味な衣装の奴ほど人数が多いから、爵位が下がるにつれて地味になっていっていると思われる。

 そんで、派手な奴もちらほらとはいるが、圧倒的大多数の地味メンが王女殿下を取り巻いているというわけ。

 とはいえ、下位貴族ばっかだからって王女殿下の勢力を馬鹿には出来ないけどね。

 俺が焚きつけた男たちだから贔屓するわけではないが、おそらくこいつらは伸びる可能性をかなり秘めている、そんな眼をしているし、なにより魔力量が全体的にこの前の熱血教室から微増しているのだ。

 この調子でいけば5年後や10年後、かなり面白いことになっているハズ、そんな期待感を持たせてくれる男たちなんだ。

 いいよ、実にいい……俺、お前たちのこと好きになれそうだよ。


「……王女殿下の周りの男子たちに格別な思い入れがあるようだけれど、そろそろいいかしら?」

「……ああ、構わん」

「あはは……えっと、なんとなくだけど王女殿下の周りのみんな、前よりちょっと凛々しくなった感じがするよね?」

「ほう、違いがわかるのか? なかなかやるじゃないか」

「そうかな? えへへ」

「はぁ……あなたが魔力操作狂いと言われる理由がよくわかるわね」

「ふっ、だろう?」

「褒めたつもりはないのだけれど……まぁいいわ」


 それからはどこに向かい誰と会話するかは2人に任せて夜会を過ごすことに。

 その途中でふと、たくさんの令嬢に囲まれている武術オタクのメガネの姿が目に入った。

 メガネの奴め、地味に女子人気があったんだな。

 とはいえ、令嬢の中にはメガネへ向ける眼差しになんというかその、殺気というか闘気みたいなものを隠し切れずに漏れ出させている者もいるが……


「……あれは、シュウ・ウークーレンね」

「……知っているのか?」

「当然よ、彼は武の名門ウークーレン家の中でも特に秀でた才を持つと噂されているぐらいだもの、知らない方がどうかしているわ」

「でもファティマちゃん、シュウ君ってウークーレン家のはずなのに、武術大会には大小問わず一切参加していないよね?」

「そうね、単純に実力を隠しているのか……もしかしたら彼は五男ということもあって、後継ぎ問題なんかが影響しているのかしら……その点、あなたに似ているかもしれないわね?」

「全然違うだろ……しかし、大会なんかの実績がないのにもかかわらず特に秀でた才と噂されるなんてな……」

「まぁ、その辺は見る人が見ればちょっとした身のこなしなんかで察するものがあるのでしょうし……あなたもいつもしていることでしょう?」

「そうなんだ、やっぱりアレス君は凄いんだねぇ」

「……いや、まぁ」


 ファティマの奴め、変なところでちょいちょい「私はわかっているのよ」と言わんばかりの物言いをしよる……カッコいいつもりなのかね?

 しかし、メガネはナチュラルに強者ムーブをかます奴だなとは思っていたが、本物だったとはな……

 なんとなく納得する部分もありつつ、チャラチャラした表舞台には興味がないとでも言うような態度に妙な凄みのようなものも感じてしまう。

 やべぇぞこの学園、面白れぇ奴が結構いるじゃないか!

 たぶんメガネは俺が魔力量頼りではなく確かな技量を身に着けることを待っている、そんな気がする。

 そしてそのときが来たら、俺たちは拳を交えることになるのだろう……いいね、ワクワクしてくるじゃないか!!


「アレス君がシュウ君を見つめる眼……ちょっと怖い」

「はぁ、これだから男って生き物は……まったく、仕方がないわね」


 そうしてしばしメガネとその集団を眺めたあと、休憩がてら少し食事にしようということになった。

 まぁ、俺としてはこっちがメインなわけだけど……

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