第90話 熱烈
食事スペースにやって来た。
さぁて、食うぞ!!
「わぁ、凄い食べっぷりだねぇ」
「まだまだよ、これも食べるといいわ」
そうして次々と料理を運んでくるファティマ。
ん? この熱烈な敵意の気配……さては授業中いつも俺に強い気持ちをぶつけてくる奴だな?
俺、お前の気配を覚えてしまうぐらい、その熱い気持ちをちゃんと受け止めてるからね!
「そろそろこれは食べ終わりそうね、次を持ってきてあげるわ」
「お、おう……」
コイツ、デブ専とはいえここにきてやたらと食べさせようとしてくるな……ちょっとその辺のところをパルフェナに聞いてみるか。
「なぁ、アイツはなぜああも次々と俺に料理を運んでくるんだ?」
「えっと、それはね……ファティマちゃんの実家の領地って北はモンスターの領域、東は他国と接していることもあって、常に戦いに備えている場所でしょ?」
「……ふむ」
ごめん、知らない。
一応それっぽく返事をすることで、誤魔化したけどさ。
「だからね、あそこの領地に住む人はみんな多かれ少なかれ鍛えていることもあって、体格が大きい人が多いの。それはファティマちゃんの家族も同じで、兄弟姉妹みんな大きいの……ファティマちゃんを除いて」
「ふぅん」
「たぶんファティマちゃんはお母さんに似たの。お母さんも小柄な方だから……あ、でも別にそれで疎まれたりとかはしていないからね!? むしろお父さんを筆頭にお兄さんやお姉さんたちから物凄く可愛がられているぐらいだし!!」
「……なるほど、ちっこい体にコンプレックスがあるというわけか」
「そう……最初はご飯をいっぱい食べたり、運動を頑張ったりして体を大きくしようとしてたみたいなんだけど全然ダメで……そして少し前に妹さんに身長を抜かされてしまってね、それからだんだん自分が大きくなることより、体格の大きな男の人を選ぶ方向に意識を変えるようになったみたいなの」
「ああ、それでつい最近までの俺というわけか」
「それだけってわけじゃないけど、だいたいはそう……でもアレス君は侯爵家だし、学園入学前までは王女殿下のことを慕っていると噂されていたから遠慮していたみたいなの。だけど実際に入学してみて、その噂がどうやら間違いだとわかったファティマちゃんは動き出そうとした……」
「しかし、その肝心な俺がどんどん痩せていったと」
「うん……日に日に痩せていくアレス君を見て落胆していたよ……ごめんね、アレス君には関係ないことだし、迷惑な話だよね……」
「まぁ……な、それでアイツは俺が再度太ることを画策しているというわけか」
「そんな画策だなんて! ……ごめんね、アレス君からしてみれば、そう思って当然だよね」
「いや、別に謝らなくていいが……とりあえず事情はわかった、ありがとう」
「……うん」
アイツめ、正直アホっぽい理由の癖に妙にシリアスだぞ……
というかアレス君……原作当時も王女殿下のことなんかサッと忘れていたらファティマが来てたかも知れんぞ?
でもダメか……ゲームの設定的に王女殿下に執着してたし、マヌケ族にも適当なこと言われていいように利用されていたしな……そんなん気付けと言う方が無茶だな。
「あら、2人とも難しい顔をして、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ!」
「いやな、魔力操作がどれだけの恩恵を俺たちに与えてくれるかということをパルフェナにじっくりと説いて聞かせていたところでな」
「……そう、あなたも魔力操作がよっぽど好きなのね」
「もちろんだ! 俺は魔力によって生かされていると言っても過言ではないからな!!」
「……まぁいいでしょう、それより新しい料理を持ってきてあげたわ」
「おう、ありがとうな」
「私が勝手にしていることだから、気にしなくていいわ」
「そうか、じゃあ遠慮なく」
そうして、ファティマが運んでくる料理をひたすらに食べ続ける。
当初の予定通りと言えば予定通りだが……なんというかね、ファティマの話をパルフェナから聞いた今となっては若干の申し訳なさも感じてしまう。
だって、この程度では太らないから……いや、ファティマも実は気付いていると思うんだよね、無駄なことしてるって。
そんな感じでしばらく過ごし、そろそろダンスなんかも踊ろうかとなった。
一応これが春季交流夜会のメインと言える部分でもあるし。
それでまずはファティマと踊ろうとしたところで、それを阻止してくる2人の男が登場。
……例の熱烈君と、もう1人は知らんが雰囲気的に子分って感じかな?
「そのダンス、ちょっと待った!!」
「どうした?」
「アレス・ソエラルタウト! お前がファティマさんを大切にする男なら私も潔く引き下がろうと思っていた! しかしお前の態度はなんだ! ここ数日見ていたが、いつもファティマさんをほったらかしにしてどこかへフラフラと出かけ、今日に至ってはファティマさんに給仕の真似事までさせて……お前は一体なにを考えているんだ!!」
「違うのロイター君! ファティマちゃんは無理矢理料理を運ばされていたわけじゃないの!!」
「そんなことは関係ないのだ、パルフェナさん。もし仮にそうだとしても、私はアレス・ソエラルタウトがそれを黙って見ていたことが許せない!」
「ほう、許せないからどうだと言うのだ?」
「なんだと!? お前はどこまで人を馬鹿にした男なのだ……いいだろう、ならば決闘だ!!」
「ロイター様! いくらなんでもそれはいけません!!」
「止めるなサンズ、私の決意は変わらん」
「ち、ちょっと待って!! そんなのダメだよ!! お願いだからやめて!!」
「パルフェナさん、悪いが引くことは出来ない」
「ふむ、なかなか元気があってよろしい! いいだろう、相手をしてやる」
「ダメだよぉ!! ファティマちゃんも2人を止めて!!」
「学園式決闘ならよっぽどのことがない限り命に関わることもないでしょうし、いいんじゃないかしら?」
「ファティマちゃん! 私は止めてって言ったの!!」
「1人の女を巡って2人の男が闘う……なかなかの浪漫じゃなくって?」
「お願いだから煽るようなことを言うのはやめてぇ!!」
「あなたたち、この騒ぎはどうしたというのです?」
「おお、これはこれは王女殿下、お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません」
「アレスさん、またあなたですか……あなたの周りにはトラブルが尽きませんわね」
「いやぁ、どうやら私はトラブルに好かれているようでして……まったく、モテる男はつらいものですな! はっはっは」
「……それで、今回はなにがあったのですか?」
「お騒がせして申し訳ありません王女殿下! アレス・ソエラルタウトの紳士にあるまじき態度にどうしても我慢がならず、決闘を申し込んでおりました!!」
「……そうですか、少し興奮されているようですね。一度冷静になって再度話し合いの場を設けてみてはいかがでしょう?」
「いえ、ここまで言っておいて引き下がるわけにはいきません!」
「……アレスさんも納得されているのですか? わたくしにはまだまだ話し合いの余地があるように思えるのですが?」
「そうですな、彼を一目見たとき(数日前)から、いつかこんな日が来るのではないかと思っておりましたゆえ……覚悟は既に出来ております」
「アレス君! そんな悲しいこと言わないで!!」
「ロイター様も! 今一度お考え直しを!!」
「2人もこう言っていることですし、思いとどまることは出来ませんか?」
「無論、出来ません!」
「既に覚悟を決めた身でありますゆえ」
「……わかりました、では学園式決闘ならば認めましょう。そしてこの決闘、わたくしが審判を務めます」
「王女殿下直々とは! 有難き幸せ!!」
「さすが王女殿下、話のわかるお方だ」
「王女殿下! そういうことであれば、我々に運営をお任せください!!」
「ええ、よろしく頼みましたよ」
王女殿下やその取り巻きも出てきて、なんだか凄いことになってきたね。
まぁ、学園式決闘ならファティマの言っていたように、よっぽどのことがない限り死に至るような深刻なもんでもないし、いいんじゃないかなって感じ。
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