第91話 学園式決闘にまつわるあれこれ

 春季交流夜会の雰囲気をぶち壊しにしてしまい、悪いことをしたかなと思いつつ周囲の様子を眺めてみると、みんなワクワクしたような顔をしている。

 ああ、こういうのウェルカムなんだね、ある意味安心した。

 そして、学園式決闘にまつわるあれこれの確認と取り決めをして解散となった。

 もともと俺たちがダンスを踊ろうとした時点で夜会の終盤だったこともあり、揉めてるうちに終了時刻がきてしまったって感じだね。

 そうして自室に戻ったところで、今回の決闘の内容を軽くおさらいしておこうかな。


・形式:学園式決闘

・決闘日時:明後日無の日、午後1時

・決闘場所:学園の闘技場

・観衆:生徒や教師等の学園関係者のみ

・勝者が得る権利:ファティマと野営研修のパーティーを組むことが出来る

・敗者が負う義務:なし

・勝利条件:制服の胸ポケットに挿した相手の最上級ポーションの瓶を割るか奪えば勝利(相手を死に至らしめることは禁止、仮に相手を死なせた場合は相手の家で10年間の奉公)

・降参方法:口頭による宣言か胸ポケットに挿したポーションを自ら使用した場合に降参とみなされる

・使用可能な装備及び道具:武器一種のみ(マジックバッグ等の補助系魔道具や胸ポケットに挿したポーション以外の薬品の使用は禁止)

・魔法の使用可否:特に制限なし


 こんな感じかな。

 学園式決闘っていうのは、この学園で伝統的に行われている決闘方式で、勝利条件等から大体察することが出来ると思うけど、極力相手を殺さないようにして闘いなさいってことだね。

 特に、相手を死なせた場合に10年間の奉公っていうのがそれを実によく表していると言えるよね。

 俺の戦闘方法って基本、大雑把にグチャっていく感じだから、マジで手加減に気を付けなきゃいけない。

 ……仕方ない、細心の注意を払う意味も込めて、明日は森でゴブリンを相手に手加減の練習をしておこう。

 そこまでするかと思われるかもしれないが、念には念を入れておきたい。

 また、ゴブリンたちは魔力探知で俺が撒いた極小の魔力を感じ取って逃げ出すわけだから、魔力操作でしっかりと体外に魔力が漏れないように気を付けつつ、魔力探知を使用せずに足で探せば逃げられずに済む。

 多少面倒ではあるが、相手の家で10年間も拘束されて使い潰されるよりはマシだ。

 いや、そんなん気にせずバックレかませばよくね? という意見もあるだろうが、それはクールな男のすることじゃない。

 それになにより、エリナ先生に合わせる顔がなくなるのが一番困るからね。

 それで、勝者が得られるファティマとパーティを組む権利なんだけど、正直しょぼくねって思ったよね?

 これは昔、上位貴族の馬鹿がこの決闘を利用して下位貴族の恋人たちを根こそぎ強奪しようとして問題になったからなんだ。

 それ以来過剰な要求が出来ないようになって、今回の勝者の権利もこの程度になったというわけ。

 そして、敗者の義務が特にないのは、双方が相手に慈悲を与えたつもりだからだね。

 こんな条件だと、決闘で俺が得るものってなにもないに等しいんだけど、決闘から逃げたら不名誉この上ないからね……

 あと、熱烈君の熱い気持ちに応えてあげたいって気もしちゃったからさ。

 とはいえ、手加減しながらボコボコにすることは決定事項なんだけどね。

 そりゃあ、アレス・ソエラルタウトの厳しさを観衆も含めたみんなに教えてあげなきゃだし。

 あとはそうだな、武器はもちろんトレントのマラカスを俺は使うし、アイテム類の使用が制限されているのは、決闘が長引かないようにってことと、なるべく自力で頑張れって理由からだね。

 魔法については当然だよね……むしろこれが禁止されたら俺の敗北確定と言えるし。

 ……ってやべぇ、こうして考えたら俺、魔力がなかったら完全なるザコメンじゃないか、その辺もっと鍛えなきゃだな。

 ただ、そうは言っても貴族家の人間なら、魔法なしで勝っても負けても双方納得出来ない気がするけどね。

 とりあえず、こんなところかな。

 それから、原作ゲームのことで思い出したんだけど、王女殿下ルートを進んでいた場合にのみ春季交流夜会において決闘イベントが発生するんだった。

 正直、王女殿下ルートは1回だけサラッとやっただけだから普通に忘れてた。

 というか、エリナ先生ルート以外はみんな1回ずつ話を確認する程度にしかやってなかったっけ……

 そんでまぁ、アレス君は王女殿下に執着していたからね、そりゃそうなるよなって感じではある。

 でもさ、あくまでもそれはアレス君と主人公君の決闘なんだよ、決して熱烈君じゃないんだよ。

 この決闘は、ゲームの強制力が関係しているのか?

 一応この世界において主人公君は微妙なところもあるが王女殿下ルートを進んでいると言えそうな状況ではある。

 そういう意味ではフラグが立ったと言えるのかもしれないが……どうしてこうなった?

 う~ん、わからん。

 ……謎ではあるが、俺のやるべきことが強くなることに変わりはないか、気にせず頑張ろっと。

 そうしてあとは、いつものルーティンをこなして眠りについた。


 朝になり、爽快な目覚めとともにさっそく朝練に向かう。

 そして、いつものようにファティマが登場。


「おはよう。明日は決闘ね?」

「そうだな」

「あなたは知らなかったでしょうけれど彼、去年の王国武術大会少年の部で優勝している実力者よ」

「ほう、それは面白いな」

「はぁ、思った通りの反応ね……まぁいいわ、甘く見て油断することのないように、それだけは言っておくわ」

「そうだな」

「話はそれだけよ、それじゃあね」

「おう」


 正直、所詮少年の部でしょ? なんて思わなくもなかったが、それでもある程度の実力はあるということだな。

 もしかしてゴブリンで手加減の練習する必要ないかな?

 でもまぁ、ミスるよりはいいか、予定通り行こう。

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