第88話 はしゃいでいるだけ
エリナ先生の授業という至福の時間が過ぎ、昼食も済ませたので、あとは流れで適当に過ごすことになるだろう。
ああそうそう、夜会用に正装とかするのかって話だけど、制服での参加が認められているので俺はそうする。
人によっては、というか貴族の子女はここぞとばかりに着飾るわけで、それによるマウント合戦も繰り広げられるのだろうけど、俺には関係ない。
まぁ、エリナ先生をエスコートするんだったら俺もマジで本気でカッコいい服をオーダーメイドしちゃうんだけどね。
それに、今日の俺は基本的に風よけ君という役割がメインだからね、そこまでカッコつけなくてもいいかなっていうのもある。
とはいえ、学生にとっては制服だって立派な正装になるわけだから、やはり問題ないはず。
ちなみに、原作ゲームにおいては夜会用の服を用意するっていうのも立派な金策イベントだったね。
それで頑張って服を用意しても、結局アレス君を筆頭とした悪役の学生たちにダサいとか安物とかってめちゃくちゃ馬鹿にされちゃうんだけどね。
しかもヒロインとダンスをするCGで主人公の服装変わんないから、さらに微妙。
一応ヒロインの好感度には影響があるから、まったくの無意味ってわけでもないけどさ……
それはともかくとして、さすがに今日は森に行くのを控えよう。
なんらかのアクシデントで時間までに帰ってこれませんでしたとなったら、きゅるんとした小娘にあとからなんて言われるかわからんし。
とりあえず、部屋でおとなしくミキジ君とミキゾウ君を振ってようと思う。
この世界がゲーム通りにステータスを扱ってくれるのなら、それだけで芸術のパラメーターも上昇していただろうに……
しかも昨日なんて、オークと一緒にメロディアスな曲を何度も奏でたんだからさ、ちょっとぐらい芸術点くれてもいいでしょってなものである。
でもまぁ、そういう便利なシステムは積んでないみたいで、そこが少し残念と言えば残念かな。
そうして約束の時間まで自室で過ごし、そろそろといったところで女子寮の入り口付近まできゅるんとした小娘たちを迎えに行った。
ふむ、浮かれた表情の男子がいっぱいいるね。
まぁ、彼らは勝者と言える男たちだからね、それも当然かな。
そんな感じでやって来た女子と連れ立って夜会の会場へ移動するカップルたち。
まぁ、中には男子1人で女子数人を連れているモテモテボーイや王女殿下のように女子1人に複数の男子が群がっている逆ハーの集団もいるにはいるけどね。
そんなことを思っているうちに、きゅるんとした小娘たちがやって来た。
「きちんと来たわね、結構。ただ、予想はしていたけれど、やはり制服で来たわね……そこは減点よ。次からは気を付けるように」
「もう、ファティマちゃん! そんな言い方しちゃダメだよ、ごめんねアレス君、制服姿も似合っててカッコいいから気にしないでね! あ、こうして面と向かってお話をするのは初めてだよね。私はパルフェナ・グレアリミスって言います、よろしくね」
「知っているようだが一応名乗っておく、俺はアレス・ソエラルタウト」
「必要ないでしょうが、私も名乗っておくわ。ファティマ・ミーティアムよ」
自信満々なところ悪いが、家名までは小僧どもに教えてもらっていなかったから知らんかった、すまんな。
とりあえず、当然知ってましたけどねって顔はしとくけどさ。
そしてこの娘が追加メンバーのパルフェナとやらか……なんというか「デカい」ね。
どこが? って聞いてくれるなよ? 男ならわかるだろ? そういうことだよ。
「はぁ、どうやらあなたもその辺の男たちと一緒みたいね……まったく、がっかりだわ」
「……なんのことだ?」
「そんないやらしい視線をパルフェナに向けておいて、よくそんなことが言えたものだわ。そのだらしなく緩んだ顔を鏡でよく見てみることね」
「ファティマちゃん! 恥ずかしいからそういうこと言わないでってば! もう……ごめんねアレス君、私気にしてないからね!」
俺の顔、だらしなく緩んでたのか、マジか……
これじゃあ、クール道から足を踏み外してしまっているじゃないか……
ああ、自分が情けない。
……でもさ、言い訳をさせてもらうとマジでデカかったんだ、本当に13歳? って思ってしまったんだよ!
まぁ、身長とかも高いし、全体的に大人っぽいスタイルの娘さんだ。
これで顔も凛とした美人系ならもっとよかったんだが、柔らかい雰囲気の完全に可愛い系。
でもまぁ、これなら男子諸君が必死になって口説こうとしてたのも納得だね。
俺基準では美人度と年齢が足りないけどさ、客観的な視点で評価するなら超高得点ってのは認めるところだ。
「……そろそろ反省は済んだかしら?」
「……ああ、まあな」
「結構。それじゃあ会場へ行きましょうか」
別に、言うほど反省をしていたわけではないが、コイツにはいちいち逆らわない方がよさそうな気がするので、適当に返事をしておいた。
そうして、きゅるんとした小娘を先頭として俺たちも移動を開始。
……こういう場合って、俺が先導するみたいな感じで歩くんじゃないの?
まぁ、どうでもいいけどさ。
「アレス君、ファティマちゃんのこと怒らないであげてね。ちょっと言い方がキツく聞こえるかもしれないけど、悪気はないの……それに、あんな感じだけどファティマちゃん、はしゃいでいるだけだから」
「まぁ、アイツの上から目線な物言いにはもう慣れた」
「そっか、それならよかった」
そういえば、前世の妹の友達にも上から目線って言うか、妙に大人ぶりたい感じで俺に接してくる子がいたなぁ、きゅるんとした小娘もそういった年頃なのかね?
そういうことなら、俺も広い心で接してあげようじゃないか。
そんな風に思いながらアイツを見てみると、身長も低いし、全体的にお子様体型……そうだな、そんな幼い子供を暖かく見守ってあげるっていうのが、前世では大学生にまでなった俺の取るべき対応と言えるだろう。
「……なにかしら、不愉快な視線を感じるのだけれど?」
急に立ち止まり、冷たい視線を俺にぶつけてくるきゅるんとした小娘。
フッ、その感じ、なかなかに可愛らしいもんだね。
そう思いながら、朗らかな笑顔を向けてあげた。
「……その顔、気持ち悪いわよ? もう少しキリっとした顔は出来ないものなの?」
……ごめん、一発ひっぱたいてもいいかな?
「わわわ、ごめんね! ホントにごめんねアレス君!! ファティマちゃんも、もうちょっと言葉を選んでぇ」
「いいえ、これぐらいでちょうどいいのよ、そうよね?」
「……知らんな」
「ほらぁ、ファティマちゃんがそんなんじゃ今度の野営研修、パーティーを組んでもらえなくなっちゃうよ?」
「……なんのことだ、俺は聞いていないぞ?」
「そういえば言っていなかったわね……今度の野営研修のパーティー、私たちと組むといいわ」
「これまた急に……」
「どうせあなた、まだパーティーメンバーを見つけていない……いえ、探してすらいないのでしょう?」
「まぁ、それはそうだが……」
「じゃあ、決まりね」
「ファティマちゃん……強引すぎるよぉ」
あ、コレ、異世界転生者の先輩諸兄が頻繁に体験する振り回され系だ。
うわぁ、遂に俺もここまで来ちゃったかぁ、やれやれだぜ。
仕方ない、このビッグウェーブには乗っておくか。
先日ボードを注文したばかりだしな!!
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