第87話 許せ

 今日も美しく素敵なエリナ先生。

 俺はエリナ先生の授業を受けられるという幸せをひたすらに噛みしめる。

 ありがとう異世界。

 そして、さらに強まる敵意。

 そんなに強い感情を俺にぶつけてきてくれるだなんて、なんだかゾクゾクしてきちゃうよ。

 ……いつでも暴発していいからね?

 ちょうど昨日、ミキジ君とミキゾウ君をお迎えしたからさ、心置きなく手加減しながらボコボコに出来るし!

 ふふっ、楽しみだなぁ、君はどんな音色を奏でてくれるのかな?

 そうと決まれば、今日も昼から森に行ってオーク相手に手加減の練習をしてくるよ。

 しっかりと仕上げてくるから待っててね!!

 授業後はそんなことを思いつつ昼食を終え、さっそく森へ向かう。

 食堂で見た男子生徒たちの飢えた狼のようなギラついた眼の中に微かな怯えを感じたときふいに、彼らの生き様を見届けてあげたいような気持ちも少しだけ湧いた。

 でもごめんな、お兄さんこれからオークと戦いに行かなきゃならないんだ。

 君たちの活躍は帰ってきたらちゃんと聞くからさ、それで許してくれ。 

 そうして若干の後ろ髪を引かれる思いを振り払い、森へ急ぐ。


「さて、ここはもうオークの領域、君らには悪いが今日の俺は残虐な一面を見せることになるだろう、許せ」


 そう呟いたところで、本日最初のオークさんいらっしゃい。


「……ブ、ブゴォ」

「まずは挨拶代わりの一撃、せいっ!」


 俺の気迫に怯んだオークに最近練習を始めた風歩で距離を詰め、ミキジ君をオークのでっぷりとしたお腹に叩きつける。


「……ブボォ」


 盛大に吐血して、オークは倒れた。

 ふむ、内臓破裂と言ったところか、これだとまだ強すぎるな……

 次からは四肢を叩き砕きながら加減を覚えていくとしようかな。

 オークをマジックバッグに収納しながら、今回の戦闘の反省を済ませた。

 ああ、そうそう、さっき俺が繰り出した風歩っていうのは俺なりに瞬歩や縮地の再現したものなんだけど、一応風属性魔法を使うから風属性の一歩ということで風歩――FUUHO――って名付けた。

 まだ練習中で、距離があるほど自分に当てる風属性魔法の威力が上がって着地にフラついてしまうのが課題ってところかな。

 以上、新技の解説にノリノリなアレス君でした。

 そんなわけで次行ってみよう!

 そうして夕方までじっくりと手加減の訓練を行った。

 最初のうちは加減をミスって壊しすぎてしまい、腹内アレス君に何度も悲鳴を上げさせてしまった。

 その悲鳴に申し訳なさを感じ、早く加減を覚えようと集中力を高めて取り組んだおかげで、最後の方はなんとか死なない程度に傷めつけられるようになった。

 これでギルドから生け捕りの依頼なんかが来ても怖くない!

 まぁ、そういう依頼は面倒そうだからあんまり受けたくないんだけどね!!

 そして、敵意を向けてくる彼の暴発をいつでも受け止めてあげられるようになったので安心だ。

 さぁ、こちらの準備は整った、あとは君の番だよ?

 それから、ミキジ君とミキゾウ君ばっかり相手してミキオ君が寂しがるといけないので、ナイト以上の上位種が出たときはミキオ君にお願いした。

 そのときのミキオ君とっても張り切っててさ、ナイトを跡形もなく木端微塵にしちゃったからね……

 もちろん、腹内アレス君には物凄く怒られた。

 そんな感じで訓練を終え、男子寮へ戻る。


「いい汗をかいた後のシャワーは格別だね!」


 そんなご機嫌な台詞とともにシャワーを浴び終え、夕食をいただきに食堂へ。

 さて、今日の玉砕ボーイズはどうだったかな?


「やった……俺、やったんだ……今日という日に感謝!!」

「フッ」

「くっそ! くっそ! くっそぉ!! なんで僕だけぇ!?」


 可愛い系気取り君、残念だったな……


「まぁ、そのなんだ……男はフラれた数だけ本物の強い男になれるんだ、だから今回のことはいい経験だったと思おうぜ?」

「うるさいっ! 男に本物も偽物もあるもんか!!」

「いや、俺に言わせてもらえば、お前には本気が足りなかった、おそらく令嬢たちにそれを見透かされたのだろう」

「フッ、同感ですねぇ」

「そんなん、僕だって本気だったさ!!」

「……じゃあお前、コイツみたいに土下座して頼んだのか?」

「ああ、あれは今の俺に見せられる最高の誠意を形にしたものだった、おそらく彼女はそれを汲み取ってくれたのだろう」

「あの土下座にワタシなどは『美』を感じてしまいましたねぇ」

「そんなみっともないこと出来るかっ!!」

「そこだよ、お前の敗因は」

「ああ、お前は最後のところで自分のちっぽけなプライドの方を守ってしまったのだろうな」

「本物の土下座とは美しいもの、決してみっともないものではありませんねぇ」

「なんだよそれぇ、君たちおかしいよぉ……」


 へぇ、土下座で頼むのって効果あったんだなぁ。

 あれって、そんなことしたところで結局ダメってなるもんだと思ってた。

 まぁ、その辺は前世とこっちでは多少事情が違うのかもしれないし、よくわからんね。

 なんにせよ土下座君、おめでとう!

 そうして彼らの戦績を聞き終え、俺は自室に戻りいつものルーティンをこなして眠りにつく。


 一晩過ぎて、今日は遂に春季交流夜会の日。

 まぁ、俺にはあんまり興味の湧かないイベントだ。

 そんなことを思いつつ、朝練ではきゅるんとした小娘に今日のエスコートを忘れんなと念押しをされ、シャワーを浴び、朝食へ。

 なんか全体的に沈んだ雰囲気だね。

 たぶん夜会の相手が決まった男子は今頃、中央棟の食堂で相手の女子と一緒なんだろうね。


「昨日さ、パルフェナちゃんにダメもとでもう1回頼んでみたんだけどさ……やっぱり断られた」

「まぁ、そうだよな……」

「でさ、先約がいるからって言われたんだけど、相手は誰だと思う?」

「さぁ、わからんな……」

「あの魔力操作狂いだってさ!」

「えぇ……あの人既にファティマちゃんと約束してなかったか?」

「2人ともあの魔力操作狂いがいいんだってさ! チクショウ!!」

「おい、聞こえるって……」

「構うもんか! いつもスカした顔してメシ食ってるか、魔力操作がどうとかって言ってるだけの癖に! いい子はみんなあいつが掻っ攫っていくんだ、面白くねぇ!!」


 なんだかごめんね、でも俺風よけ君だからさ、決して君が思っているようないいもんじゃないよ?

 あと、どうやら追加メンバーの名前はパルフェナって言うんだな、教えてくれてありがとう。

 これで、名前知ってましたよって顔が出来る。

 そうして、どんよりした雰囲気の中で食事を終え、授業を受けに行く。

 俺にとって今日という1日の中で一番重要なのは、エリナ先生に会えるこの時間だけ!!

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