第42話 なんて高潔な

 寝る瞬間まで魔力探知を続けたが、結局見つからなかった。

 必死過ぎて、たぶん夢の中でも魔力探知をしてたんじゃないかと思うぐらいだ。

 なので、寝た実感がないというか、寝た瞬間から今まで魔力探知をしていて意識が続いていたような気さえしてくる。

 まぁ、気持ち的には疲れた感じもあるが、体は一応睡眠が取れてたと思うから大丈夫だろう。

 そうだ、今日の朝練を瞑想的な魔力操作に特化させて、精神的にも体力的にも充実させる方向で行えばいいんだ、そうしよう。


 そうして、瞑想的な魔力操作により気力の充実を図ってから朝食を取り、授業を受けた。

 授業自体は真剣に聞いていたが、どうも気分がソワソワしていたことは否定できない。

 まぁ、今日は仕方あるまい。


「今日の授業はここまで、みんなしっかり復習しておくのよ。それじゃあ、また明日ね」


 よし、今日確実に相談したいからな、先にアポを取っておくか。


「エリナ先生」

「あら、アレス君」

「相談したいことがあるのですが、今日は空いている時間がありますか?」

「相談したいことって言うのは、昨夜の魔力探知が関係しているのかしら?」

「!? 気付かれておられましたか」

「そうねぇ、私はアレス君の魔力をよく知っていたから、アレス君の魔力探知だと気付いたけれど、他の人の場合は……魔法に長けた人なら誰かが魔力探知をしているというのには気付いたかもしれないわね」

「なるほど、そうでしたか」

「それで、相談だったわね。今日は特に予定がないからいつでも大丈夫だけれど、早い方がいいわよね? このまま研究室に来る?」

「いいんですか?」

「もちろん、研究室にミニキッチンも付いてるから、簡単な物なら出来ると思うし」

「そ、それなら食材は私のものをお使いください! マジックバッグに大量にあるので!」

「そう? じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら。とりあえず、研究室に行きましょう」

「はいっ!」


 マジか……エリナ先生の手料理が食べられるってマジか!!

 おいおい、ゲームのときはそんなイベントなかったぞ!?

 だって、前も言ったけどラストシーンのCGが並んで歩くだけだぞ? そのラストシーンすら今、現在進行形で達成しちゃってるよ?

 まぁそのなんだ、主人公君……残念だが、君の出る幕はもうない、ごめんな!

 そうして、エリナ先生の研究室に着き、昼食を共にした。

 まさかのメシマズ展開を期待した者もいるかもしれないが、エリナ先生だぞ? そんなポンコツなわけないだろ!

 そんでさ「簡単なものだけど……」とか言って、少しはにかんだ顔がね……もうキュンって来た!!

 大人の女性がそんな少女みたいな可愛らしい顔すんの!? って感じだった。

 そしてメニューは、俺に合わせて巨大だが、かわいらしいオムライスを作ってもらった。

 これが最高に美味かった。

 チキンライスはパラッパラ、卵はふわっふわとろっとろで、口の中が優しさで満たされた幸せ空間だった。

 前世を合わせてもこんな美味いオムライスは初めてかもしれないって思ったね。

 ただ、驚いたのが魔法を使って作っていたところ。

 材料を切るとき「この方が細胞の状態を調節出来るの」とか言って包丁を使わずに、風属性魔法で切っていたし、火属性魔法で火加減も調節していた。

 さらに、俺に合わせたサイズのフライパンも「地属性魔法の応用」とか言いながら、その場で作ってたのはさすがに目が点になった。

 正直ミニキッチンの出番どこ……って感じだった。

 とまぁ、そんな感じで幸せな時間を過ごしたところで、相談開始。

 一応昨日あった経緯と俺の魔力探知では発見できなかったことを説明した。


「そんなことが……それで、魔力探知はどんなイメージで展開したの?」

「ええと、自分を中心にして、球状にひたすら広げていくっていう感じをイメージしました」

「なるほど……そうねぇ……私からアドバイス出来るとしたら2つかしら」

「2つも!?」

「ええ、じゃあまずは1つめとして、魔力探知のイメージを球状から壁みたいな板状のものに変えるの。そして一方向にとにかく長く遠くに伸ばす、そこから時計回りに1周するって感じかしら。こうすることで多方向に分散していた魔力を一方向に集中できるから、だいぶ距離を稼げるはずよ」


 ああ、そういえば前世の漁師かなんかのドキュメンタリーで見た気がするな、ソナーだっけ? 船から1本の線みたいのが出てて、それが360度回転して魚を探すみたいな感じの計測器。

 あんな感じでイメージすればいいんだな!

 しかしこれって、前世知識からサッと出して然るべき発想だよな……

 言い訳をすれば、そんなことにも意識が回らないほど焦りで視野が狭くなっていたってことだけど……

 これじゃあ、異世界転生者の先輩諸兄に「まだまだだな」とお叱りを受けてしまうな。


「そして2つめ、魔力探知の精度を上げる。体の衰弱に伴って魔力も弱くなっているのか、魔法を遮断する檻に入れられていて魔力を探知しづらいのか……いろいろ考えられるけれど、魔力探知の精度が上がれば、発見の可能性も上げられるはずよ」

「なるほど、魔力探知の精度か」

「なので、まずは精度を上げる練習を今ここでやってしまいましょう。たぶんアレス君ならそう時間もかからずに精度を上げられると思うわ」

「わかりました! 頑張ります!!」

「じゃあ、その練習のやり方だけど、まず私の魔臓を魔力探知で探してみて」

「はい!」


 よし、やってみよう…………っと、あった……ここは、胸の奥だな……って胸!?

 エリナ先生の胸……ほとんど露出ゼロのファンタジー感はありつつも基本はスーツって服装だからあんまりわかんないけど、大きくはある。

 だが、上品な大きさだ。

 決してデカけりゃいいんでしょ? っていうような超巨大なサイズってわけじゃない。

 だから小さくもないし、かと言って大き過ぎることもない、まさに理想的な大きさってこと!

 ……ハッ! いかんいかん……何を考えてるんだ俺!!

 恥を知れ、恥を!

 まったく、情けない……

 クール道の門を叩いたあの日から、女性にエッチな視線を向けることは厳に慎むべきと自分を戒めたではないか! 何をしているんだ!!

 クールで在れ! クールでアレス!!


「見つかったみたいね。じゃあここから私は闇属性魔法を少しずつ強くしながら魔臓を隠蔽するから、アレス君は私の魔臓をしっかり認識し続けてちょうだい。認識できなくなったら合図をしてくれれば、隠蔽を弱めるわ。その繰り返しで少しずつ魔力探知の精度を上げていきましょう」

「わかりました」


 こうして5時間ほど魔力探知の精度を上げる練習を行った。

 最初のうちは雑念が多少混じったが……それでも真剣に集中して行ったお陰で、ある程度は上達出来たのではないかという手応えがある。

 こんな長い時間を俺のために使ってくれたエリナ先生に感謝の念でいっぱいだ。


「だいぶ精度が上がったみたいね、最初に比べたら私も闇属性魔法の出力をかなり上げているし」

「本当ですか? 嬉しいです!」

「ええ、もちろん。それじゃあ、今の感じを忘れないようにして、魔力を一方向に向けるやり方で魔力探知を試してみて」

「やってみます!」


 おお、当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、一方向だけだとかなり伸びるな。

 まずはこれぐらいで…………ダメか、もう少し伸ばしてみるか。

 そうして、魔力を伸ばしながら何度か試していると、ようやくそれらしい魔力を見つけた。

 よかった、いる……いてくれた。

 でもこれ、かなり遠いぞ。

 正確な距離がわかんねぇ……

 まぁいい、方角はわかるんだ、ゼスに馬車で送ってもらえばいいだろう。


「どうやら見つかったようね?」

「はい! なんとか!!」

「よかったわ」

「エリナ先生のお陰です! 本当に、本当にありがとうございます!!」

「教師として、生徒の役に立てたのなら、これに勝る喜びはないわ」

「先生……」


 なんて高潔な女性なんだ、教師の鑑だ!


「でも、その様子から見て……かなり遠かったみたいね?」

「はい、おそらく馬車で数日はかかるかと」

「往復のことを考えれば、休日をはさんだとしても授業に出られない日があるわね……いいわ、補習で対応してあげるから、出席日数のことは気にしないで」

「いいんですか?」

「遊びに行くわけじゃないんだし、それぐらいの裁量なら認められているわ。まぁ、普段の授業態度や成績次第だけれどね」

「ありがとうございます!」

「確か今日の夕方、報告に集まるのだったかしら……もう行った方がいいわね」

「あっ、そうですね。慌ただしくてすみませんが、行ってきます。エリナ先生のお陰でとっても助かりました! ありがとうございます!!」

「どういたしまして。それじゃあ、いってらっしゃい」

「はい! それでは失礼します!!」

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