第249話 初めてかもしれん

 森の中を走り始め、魔力探知の反応によると、もう少し進んだところで本日最初のモンスターであるゴブリンとのご対面である。

 さて、ソイルの実戦……お手並み拝見といったところかな?

 とか思っていると、見えてきた。


「ギギッ!」

「ゴブリンッ! ……ス、ストーンバレット!」


 多少慌てながらではあったが、ソイルはストーンバレットを射出し、ゴブリンに命中させた。


「俺が回収するから、お前らは先に行ってていいぞ」


 そう声をかけ、俺はみんなから離れてゴブリンの回収に向かう。


「ギ……ギィ……」


 ふむ、当たり所が悪かったというべきか、虫の息ではあるが辛うじて生きているようだ。

 ただ、このまま放っておけば死に至るだろうといったところ。

 う~ん、ソイルが持つ本来の実力なら、一発で仕留められそうなところなんだけどなぁ……

 ああ、でも、走りながら魔法を撃つっていうのは、今まであんまり経験がなかったかな?

 とりあえず、しばらくは様子を見てってところか。

 そんなことを思いながらとどめを刺し、回収した。

 そして、離された距離を全力疾走することで、みんなに追い付いた。

 ……風歩を使えばもっと楽なんだけどね、一応試験に向けて走ることに重点を置いたのさ。

 そんな感じで、さらに走っていると、今度は5体のゴブリンと遭遇。


「ストーンバレット!」


 ソイルは5発のストーンバレットを射出する。

 そのうち4発はゴブリンに命中するも、1体には回避され接近される。


「クッ! ス、ストーンバレット!!」

「ギャッ!」


 ある程度の接近は許したものの、無事命中。


「ほら、速度を緩めないで! 回収は俺がするから、さっさと走れ!!」

「は、はいッ!」


 緊張が緩んだのか、足が止まりそうになったソイルに叱咤し、そのまま走らせた。

 今回は、回避を成功させたゴブリンが頑張ったということにしておくが……ソイルめ、焦り過ぎだ。

 それから、ゴブリン5体とも仕留め切れていない。

 ただ、戦闘続行は不可能といった状態で転がってはいる。

 なんというか、威力不足って感じだね。

 やっぱりまだ、遠慮があるのかね?

 まあ、ある程度命中できているわけだから、試験の的当てにはじゅうぶんではあるか……

 でも、できることなら的を割りたいところだよなぁ。


「よし、回収できたことだし、みんなに追い付こうか」


 とまあ、こんな感じで夕方まで森の中を走り続けたのだった。

 そして夕飯を食べるため、学園に戻る。

 このとき、普段の俺の流れだとシャワーに向かうところだったが、今回は浄化の魔法で済ませた。

 まあ、模擬戦直後も浄化の魔法で済ませて反省会をしているんだけどね。

 ちなみに、ロイターたちも浄化の魔法を使う中、ソイルだけは清潔の魔法である。

 いや、本来なら清潔の魔法でじゅうぶんなんだ……ここで浄化の魔法を使うほうが過剰なんだ。

 むしろ、そういうのを女々しいと考える男子がいる中で、清潔の魔法を使えることこそを称えるべきであろう。

 そういって褒めてやるとソイルは……


「僕は……パーティーで役立たずでしたから……なるべく迷惑をかけないように、練習しました……」


 なんて言葉が返ってくる。

 うん、理由はどうあれ、素晴らしい努力だと思うよ。

 そんなこともありつつ、食堂へ移動。

 また、今回はファティマとパルフェナも一緒なため、男女がともに利用できる中央棟の食堂へ向かう。


「……何気に、中央棟の食堂に来たのは初めてかもしれん」

「そうか」

「いわれてみれば、中央棟の食堂でアレスさんをみたことはありませんでしたね」

「あら、私も初めてよ?」

「私も、いつもファティマちゃんと一緒だったから、来てなかったなぁ」

「えっと、いうまでもないですけど……僕も初めてです」


 なんと、俺たちの中においては、ロイターとサンズの方が少数派だったらしい。

 図らずも、モテモテボーイ振りを披露してしまった格好だ。

 とはいえ、この学園、もしくは王国において男性は、女性からの誘いを断りづらいみたいだからなぁ。

 その点、ファティマやパルフェナも誘われたことは数多くあるだろうが、全部断っていたってところか。


「……まあ、構造自体は男子寮や女子寮の食堂と同じだろうから、さほど目新しいものでもないだろう」


 なんか、ロイターがどうでもいいことをいってるぞ。

 いやまあ、家の関係や断りづらい風潮など仕方ない部分はあるにせよ、ファティマのいる前でほかの女子とメシを食っているという話題は避けたいわな。

 そう思いつつ周囲を見回してみると、王女殿下とその取り巻きが目に入った。

 相変わらずの大所帯。

 確か、未来の近衛殿ことティオグによると、王女殿下と食事を共にできるのはパーティーごとの順番待ちという話だったと思うが……

 もしかして、人数を絞った上でさらに、あの人数ということなのかもしれん。

 主人公君やティオグ等の見たことのある顔ぶれがいたりいなかったりするところを見るに、その可能性は高いな。

 恐るべし、王女殿下の人気……

 それはそれとして、俺たちも席に着く。

 今日もいっぱい動いたからね、さぞ美味しくいただけることだろう……と、腹内アレス君がおっしゃっているよ。

 しかしながら、俺が王女殿下に意識を向けても、腹内アレス君はあまり反応を見せなかったな……ま、いつものことか。

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