第248話 ちょっとばかり切なかったね
「少しずつ前期試験が近づいてきているわね、準備は進んでいるかしら? そして、明日明後日の2日間は休みだけれど、試験で納得のいく結果を出せるよう有意義に使ってほしいところね。それでは、今日の授業はここまでとします」
ああ、これで今週はエリナ先生に会えるオフィシャルな理由がなくなってしまった、寂しいものだね。
とはいえ、おそらく休みのあいだは試験対策やソイルの特訓でいっぱいいっぱいになりそうなんだけどさ。
というのも、来週の1週間が過ぎ、再来週になれば前期試験が始まる……自分の試験対策だけでなく、それまでにソイルをどこまで鍛えらえるかが勝負となるのだ。
なぜなら、昨日はヴィーンのパーティーやあのとき周囲にいたオーディエンスに結構強めなことをいったからな……ソイルの結果が振るわなければ、かなりバカにされてしまうだろう。
まあ、木端が何をほざこうが俺は気にしないが、ソイルは気にするだろうからね……なんとか格好の付く成績を収めさせてやりたいところだ。
……よっしゃ! エリナ先生に会えない切なさをソイルの鍛錬に思いっきりぶつけたる!!
「……アレス、気合が入っているようだな?」
「おお、ロイター、今日の昼はお前も一緒だったな、よし、食堂に行くか!」
「ああ、そうだな」
こうしてロイターとともに食堂へ向かう。
フッ、ロイターファンクラブの小娘どもよ、憧れのロイター様はこちらで独占させてもらう、すまんな。
そして、食堂でサンズとソイルと合流。
ちなみに、ファティマとパルフェナはお昼を食べてからって感じだ。
そんな感じで席に着き、食事を始めていると、ヴィーンのパーティーが目に入る。
取り巻きの2人は、今日もソイルに文句を述べたいようだが、ヴィーンに制止されているようで、何もいってこない。
ただし、その代わりギンギンにソイルをにらんでいる。
まったく、そんな顔ばかりをしていると、そういう顔の男になってしまうぞ?
ほら、もっとスマイルでいこうぜ!
「……アレス、お前にそのつもりはないのだろうが……怖いぞ」
「ロイター様のおっしゃるとおりで、アレスさんの作り笑顔は攻撃的ですからねぇ」
おいおい、攻撃的ってどういうことだよ……しかも作り笑顔だなんて心外にもほどがあるぞ!
それはともかく、ソイルは哀し気な顔でヴィーンたち一行を見つめていた。
まあ、もう少し自信を持てるようになれば、奴ら相手でも堂々としていられるようになるかな?
そうなるように、みっちり鍛えてやらんとなぁ。
そんなことを思いつつ昼食を済ませ、学園の正門でファティマとパルフェナも合流した。
そうして、学園都市周辺に広がる森へ向かう。
「さて、森に着いたわけだが……先頭はソイル、お前が走れ」
「ぼ、僕がですか……?」
「そうだ、そしてモンスターを発見したらお前が魔法で仕留めろ。また、回収は俺たちがするから、その点についての心配はいらない……とにかくお前は『走って、魔法を撃つ』それに集中しろ」
「は、はい……」
「声が小さい!」
「はいッ!!」
「ちなみに、ペースが落ちてきたら俺たちのうち誰かがお前のケツを蹴飛ばすから、しっかり魔力操作で体力の回復もしながら走れよ?」
「そ、そんなぁ……」
「お? 早速一発欲しくなったか?」
「い、いりません! 頑張ります!!」
「よし、それでいい」
よしよし、ソイルもヤル気が出てきたようだな。
とりあえず、説明はこんなもんかな?
「ソイル、私からも一つ付け加えるが、アレスと同じように私たちも魔纏の練習をしながら走るつもりだから、魔法の暴発を気にする必要はないぞ」
「そうです、ソイルさんの魔法の暴発で怪我をする人はいませんので、思いっきり魔法を撃ってください」
「ふふっ、むしろ私たちの魔纏を割ることができたら、称賛に価するわね」
「ソイル君、ファティマちゃんの言い方はこんなんだけど、それぐらい私たちも自信を持って自分の身を守るから、ソイル君は何も心配しないで自分の魔法に集中してね!」
「……はい!」
若干顔を赤らめながら、返事をするソイル。
まあ、女子に対する免疫もないみたいだからなぁ、仕方ないよね。
とまあ、こうして森の中ランニングが始まったのである。
それと、どんなコースを走るのかは決めていない、完全にソイルの気分任せである。
いや、一応念のためにゴブリンハグの腰布を巻いて魔力探知を並行して使用するので、道に迷ったりはしない。
ただ、それによってこちらから何か指示をしないというだけの話だ。
こうやって、自分の意思で進む方向を決めながら走るっていうのも、ソイルの自己決定能力の養成に多少は役立つかもしれんし。
……それから、あんまり関係ないかもしれないけど、さり気なくゴブリンハグの腰布を巻いていたせいか、みんなからの反応が特になかったのが、ちょっとばかり切なかったね。
まあ、浄化の魔法をかけた上、ワインレッドで鮮やかに染め上げた逸品だから、これが元ゴブリンの腰布だと分からないのも仕方ないことかもしれないけどさ……
そんなことを考えていると、隣を走っていたファティマが声をかけてきた。
「……似合っているといってほしかったかしら?」
「べ、別に!」
……思わずやせ我慢が飛び出してしまった。
しかしながら、相変わらずファティマは人の思考を読む奴だね、まったく……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます