第69話 染み渡るねぇ

 授業を終えて、お昼をいただきに食堂へ。

 今回も男子寮の食堂は人が少なめ。

 俺としてはゆったりとした気分で食べれるからこっちの方が地味に嬉しかったりする。


「おい、お前らはもう見たか? 王女殿下とその取り巻き野郎どもの団体を」

「見ました、あの光景にはびっくりでしたね」

「そうだな、彼らの面構えが妙に男らしくキリッとしておったのでな、我も驚いたぞ」

「でもよ、あいつらちょっと前まで勘違い野郎のことを身の程知らずとかなんとか言ってただろ? マジ意味わかんねぇわ」

「ふむ、お主の気持ちもわからんではないが、人とは少しのきっかけで変わるもの、彼らの気持ちを変えるなにかがあったのであろうよ」

「そんなもんかね……」

「なにがあったのかはわかりませんが、あのピリピリとした雰囲気は居心地が悪かったので、むしろよかったなって思いますよ」

「我も同感である」

「……まぁ、それもそうか」


 しばらくは王女殿下とナイト君たちの話題で学園中が盛り上がりそうな雰囲気だね。

 とりあえず、これでめでたしめでたしってところかな?

 まぁ、ゲーム的には序盤のイベントが1個消化されたってだけの話なんだろうけどね。

 でも、もともとの予定ではゲームのシナリオとか主人公君たちとは関わらないつもりだったんだけど、結局的に関わらされたな……

 これってもしやゲームの強制力が働いたのかな?

 もしそうなら、ゲームの強制力はないんじゃないかと思いかけていたけど、楽観視ばかりもしていられないかもしれない。

 まぁ、ゲームのストーリーとはかなりズレ始めてるけどね……

 王女殿下の周りをたくさんのナイト君が固めて団体さんになってるとか原作ではありえなかったしさ。

 でもま、なにがあっても力で解決できるよう、修行の日々は変わらんね。

 魔王なんかもコブシでわからせる、みたいなことが出来るぐらいになりたいもんだし。

 こうして改めて修行への意思を強めたところで食事を終えた。

 さて、今日はオーク狩りに行こうかな。

 一応この前狩った分もほとんど売らずに残してあるんだけど、オークの素材はどんだけあってもいいからね。

 そして、マジックバッグに多めにストックしておいて、常日頃から解体練習もしていこうと思う。

 やっぱせっかく学んだ技術だから錆びさせたくないよね。

 それに、天才解体少年やほっそりーずが今この瞬間も解体技術を伸ばしているかもしれないと思うと、置いて行かれたくないなって思っちゃうし。

 ま、俺は解体だけやるわけじゃないから時間的、数量的には負けてしまうだろう。

 だから、オーク1体1体を丁寧に解体することで質を高め、その差を補うように出来たらと思う。

 そんなことを思いつつ学園内を門に向かって歩いていると、昨日俺に敵意を向けてきた生徒が項垂れているのが目に入った。


「……も駄目だった……ゾルドグスト先生もどこかへ行ってしまったし……俺はこれからどうすればいいんだ……先生、俺どうしたら……」


 ふむ、彼もいろいろと悩んでいるみたいだな。

 ここは学園という護られた環境の中だ、存分に悩みたまえ。

 その悩みを乗り越えた先で新たな自分と出会えることだろう。

 なんてちょっと大人ぶったことを思いつつ学園から出て、そのままオーク狩りへ向かう。


「ブゴォ!!」

「今日も元気だねぇ」


 そう軽く挨拶をしてつららを射出。

 それであっさりと討伐は完了。

 討伐自体は難しくない。

 探すのも魔力探知があるからそんなに時間はかからない。

 移動速度も徐々に上がっている。

 ゴブリンに比べて群れてないから、一度の戦闘でたくさん狩れないのが残念と言えば残念かな。

 いや、もっと奥に行けば群とも会えるかもしれないけどさ、そうすると今度は日帰りが難しくなっちゃうんだよね、授業後だと特に。

 ま、討伐数はそこまでこだわらなくてもいいか、とりあえず毎日オークの解体が出来る程度にストックを作れれば十分だろう。

 とりあえず、オークを20体狩ってきりがいいから今日はこの辺にしとこうかな。

 そんでギルドの解体場を貸してもらって解体練習をした後に素材を売るって流れがよさそうだね。

 てなわけで学園都市へ戻ろう。


「おうアレス! 今日もオーク狩りに行ってきたのか?」

「もちろん、それで解体場を借りたいんだが、空きはあるか? 解体士採用試験が近いと聞いたからな、邪魔になるようならまた今度にするが……」

「確かにそうだが、もともと解体士を目指す奴は少ないからな、そこまで埋まってないんだ、そんなわけだから自由に使ってくれて大丈夫だ」

「ならよかった、では使わせてもらおう」

「おう、頑張って来いよ! ついでにあいつらもいるから適当なタイミングで声をかけてやってくれ」

「そうだな」


 そうして、解体場へ。

 お、ザムトルが言った通り、天才解体少年にほっそりーずの解体士に舵を切った青年がいるね。

 あっちも練習に忙しいだろうから、軽く挨拶だけして俺も解体に取り掛かる。

 まずはウォーミングアップがてら行き帰りで討伐したゴブリンを解体する。

 これにより感覚を解体モードに切り替える。

 そうしてからオークの解体に移行。

 しかしながら、オークの体はどの部位でも金銭的価値があるのだと思うと緊張感が違うね。

 そんな俺の勿体ない精神がオークの解体をより丁寧なものにしていく。

 だが、時間をかけすぎて素材の価値を下げないよう思い切りも大事だ。

 そのバランスを高度に保ちながら解体を続けていく。

 そしてようやくオークの解体が完了した。

 ふむ、天才解体少年に比べればまだまだではあるが、俺なりにはよく頑張ったと思える出来栄えだ。

 その満足感に浸りながら解体仲間たちと挨拶を交わし、買取へ。


「終わったか、どれ見せてみろ」

「これだ」

「ほほう、まだ粗削りな部分もあるが、なかなかいい出来だ」

「そうか、それはよかった」

「しっかし惜しいなぁ、お前の技術なら解体士としても十分やっていけるのに」

「まぁ、基本は冒険者をやりたいからな」

「わかってるって、でもそう思わずにはいられないってことよ!」

「そう評価してもらえるのは素直に嬉しいものだな」

「おう、喜べ喜べ。んで、この解体が終わった素材は買取か?」

「ああ、それで頼む」

「よっしゃ、任せとけ」


 そうして引取証明書を貰い、ギルドの受付へ換金しに行く。

 そのとき、ギルドのフロアで豪火先輩を発見。

 いつぞやの気遣いをしてくれた男前な先輩だ。

 そんなわけで、目が合ったので会釈しておいた。

 すると豪火先輩も片手をサッと上げて返事をしてくれた。

 その姿が様になってていいなって思う。

 ああいうワイルドなカッコよさは見習いたいところだ。

 そんな感じで換金を終えて学園に戻ることに。

 その途中で今日はソフトクリームを食べながら帰った。

 とろける甘さが体に染み渡るねぇ。

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