第648話 判官びいき的に

『さて、1年生男子の部1回戦も残すところこの第8試合、ハソッド・テルームゥ対ロイター・エンハンザルトで最後となりました! そして、そして! ご来場の武術ファンの方から、やっとかという声も聞こえてきそうですが……昨年の王国武術大会少年の部優勝者のロイター選手、満を持しての登場です!! そこでスタンさん、もはやロイター選手については説明不要かもしれませんが、初めて観戦される方のためにも、改めて両者の戦闘スタイルや見どころについてお聞かせ願います』

『はい、まずハソッドさんについてお話すると……つい最近までは剣術メインで戦闘スタイルを組み立てていましたが、ここ数カ月のあいだに魔法をメインとした組み立てにスタイルを変化させたようですね。そして、そのスタイルチェンジが上手くいっているのでしょう、著しい伸びを見せています』

『ほうほう! スタイルチェンジによる著しい伸び、それは素晴らしいですね!!』

『まあ、最近魔法の技量を大幅に向上させている人が多いので、ハソッドさんに限らず、スタイルチェンジによって成果を出し始めている人は少なくないでしょう』


 まあ、ヴィーンたちはさ……ソイルの阻害魔法によって、魔法の技術向上に蓋をされていた状態だったからね……

 といいつつ、こういった大会に参加するときは団体戦でない限り1人で舞台に上がるのだから、ソイルの阻害魔法による影響を受けることはないだろう。

 でも、日頃発動の不安定な魔法をメインに据えた戦闘スタイルの構築なんて危険なマネはできなかっただろうから、どうしても剣術などの物理戦闘メインとならざるを得なかったと思う。

 そして、ハソッドはもともと剣より魔法のほうが得意なタイプ。

 だから、スタイルチェンジによって伸びたっていうより、本来のあるべき戦闘スタイルに戻せたことによって本領発揮できるようになったというほうが適切だろう。

 とまあ、スタンだってそれぐらいのことは理解しているだろうけど、それをそのまま話したら「ソイルという奴はなんてけしからん奴なんだ!!」って感じで受け止める観客もいるかもしれない。

 そのため、魔法の技量向上によってスタイルチェンジが上手くいったってオブラートに包んだ表現になったのだろう。


『……そう聞くと、ハソッド選手に続き、これからどんどん優秀な使い手たちが増えていきそうですね! となると、気が早いかもしれませんが、今から来年の武闘大会本戦の顔ぶれがどうなるのか、ワクワクしてきますね!! ……といったところで話を戻しまして、ロイター選手についてお願いします』

『はい、ロイターさんはですね……もう、多くを語る必要がないぐらい……剣も魔法も、まさにパーフェクトといっていい存在でしょう』

『まさしくですね! 私も、ロイター選手にはパーフェクトという言葉がよく似合うと思います!!』

『そんなわけで、ロイターさんはどのような闘い方にも非常に高いレベルで対応できるので、ハソッドさんはどうやって突破口を見付けていけばいいのか……かなり難しい闘いを強いられることでしょう』


 うん、ハソッドには悪いが……俺も正直、ロイターの勝利は堅いと思っている。

 なんたってロイターは、優勝候補だもんね!

 フッ、俺がいなければ……だけどな!!


「ロイター・エンハンザルト……その名前はよく知ってるぜ! メチャクチャ強ぇんだってな!!」

「ああ、実況の奴もいってたが、王国武術大会で優勝したって実績はやっぱハンパじゃねぇ!」

「俺、その大会を実際にこの目で観たぜ? いやぁ、あれは熱かったなぁ!!」

「へぇ、そいつは羨ましい……俺も観たかったんだけど、チケットが取れなくてさ……」

「王都に住んでたら、もっとチケットを手に入れやすかったんだろうけど……こればっかりは地方に住んでると不利だね……」

「まあ、王都に行くだけでも、地方民にとってはなかなか大変なことだもんなぁ……」

「とはいえ、この学園都市に来るのだって、同じぐらいの大変さがあると思うけどな?」

「だなぁ……」

「しっかし、ハソッドって奴も頑張ってはいるんだけど……やっぱりロイターのほうが圧倒的に強いな……」

「うん、繰り出す魔法の全部が防がれてるもんねぇ……」

「たぶん、このままロイターサマが勝つんだろうから、ハソッドって兄ちゃんを応援してやっかな?」

「そうするかぁ……もしかしたら、ワンチャンあるかもしれねぇし!」

「よっしゃ、そんならハソッド様ァ! ファイットォッ!!」

「ハーソッド! ハーソッド!!」

「ハーソッド! ハーソッド!!」

「いや、俺はロイター様を応援するッ! なぜなら、強い奴がのほうが好きだから!!」

「まあ、当然だよね……てなわけで、ロイター様! いっけぇッ!!」


 一般の観客たちの反応としては、判官びいき的にハソッドを応援する声のほうが多いかなって印象だ。


「ロイター様ぁっ! 頑張ってぇっ!!」

「絶対勝利! ロイター様こそ至高の存在!!」

「ロイター様! ステキ過ぎますッ!!」

「ハソッドごとき! ロイター様の敵ではありませんわぁっ!!」

「フレー! フレー! ロ・イ・ター!!」

「ロイター様ったら……じっくりハソッドの相手をしてあげるだなんて、本当にお優しいんだから……」

「まったくだわ、ロイター様なら……もっとアッサリ倒せるでしょうにねぇ?」


 学園の女子たちからは、ロイターを応援する声のほうがとても多く聞こえてくるね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る