第645話 少々やりづらいかと思いますが

「なんとか、勝利を収めて戻ってくることができましたよ」


 なんていいながら、サンズが席に戻って来た。


「いい試合だったぞ」

「やっぱ、サンズさんの脚力はハンパじゃねぇよな!」

「ええ、サンズさんに攻撃をヒットさせるには、かなりの技量を要求されますからねぇ……」

「……さすがだ」

「僕も、魔法でならサンズに負けない自信があるけど……剣だとキツイだろうな~」

「サンズ君! 1回戦突破、本当におめでとう!!」

「まあ、期待どおりといったところかしら」

「……サンズさん! 次のシュウさんとの試合、僕のぶんまで頑張ってください!!」

「シュウの奴は『接近戦最強』とかってウワサがあるらしいからな……サンズよ、お前も負けてらんないよな!!」

「フフッ……おっしゃるとおり、次の試合に向けて気持ちを新たにしないといけませんね」


 こうして、いつものメンバーで迎えるとともに、サンズは次の試合に向けて闘志を燃やしている。

 また、シュウにチラリと視線を向けてみると、相変わらずのほほんとした笑顔を浮かべていた。

 しかしながら、のほほんとした笑顔は同じでも……その奥にワクワク感が湧いているのも見えた気がする。

 サンズよ……次の試合、マジで強敵に違いないだろうからな、しっかりやるんだぞ……そう改めて思うのだった。

 それから、王女殿下の取り巻きたちはというと……


「……残念ながら、私も1回戦で敗退してしまいました」

「負けはしたが……それでも、よく闘ったと思う! ナイスファイト!!」

「まあ、お前はやれるだけのことを全部やって出し切った、それでじゅうぶんじゃないか……だからな、次だ……次に向けて! また腕を磨いていくぞ!!」

「風の刃を出したタイミング、あれは絶妙だった……それを躱すことができたサンズ氏の察知力をこそ褒めるべきだろう」

「左様、サンズ殿はまごうことなき実力者……そんなサンズ殿といい勝負をしたカイリー殿もまた、見事でござった!」

「皆さん、ありがとうございます。そしてマトゥのいうとおり、次の機会に向けて腕を磨くとしましょう……といったところで、次はホウフウとティオグの試合ですね……少々やりづらいかと思いますが、2人とも頑張ってください」

「そうだな! 2人とも、いい試合になることを期待しているぞ!!」

「お前たちのうち、どちらか1人しか次に進めないっていうのは正直もったいない気もするが……それはそれとして、悔いのないよう闘って来いよ!!」

「お互い、手の内はよく知り合っている……そのため、おそらく最後は気力の勝負となるだろうな……」

「そうでござるなぁ……とにかく! 心ゆくまで勝負を楽しみましょうぞ!!」

「ああ……もちろんだ」


 ねぎらいの言葉でもってカイリーを迎えつつ、次の試合に向けてティオグとホウフウを鼓舞しているようだった。

 そして、なるほど……次の試合は仲間同士の対戦となるわけか。

 いやまあ、このトーナメントに名を連ねている16名全員がカイラスエント王国に所属しているのだから、そういった意味では全試合仲間同士の対戦となるんだけどね……だから、派閥の構成員同士の対戦といったほうが正しいのだろうな。

 また、ティオグとホウフウだと、接点の多さで個人的にティオグのほうをより応援することになるだろう……まあ、ホウフウも道ですれ違ったとき軽く挨拶を交わす程度には顔見知りなので、頑張ってもらいたいとは思っているけどね。

 とか思っているうちに、2人が呼び出し係の人に呼ばれて舞台に向かって行った。

 それから、サンズとカイリーの試合ではそこまで舞台がハチャメチャになっていなかったので、整備が比較的すんなり進んでおり、もうほとんど終わりかけである。

 とまあ、そんなこんなしてティオグとホウフウは武器を選び終え、係の先生による装備品チェックを受けている。

 そこで、ティオグが選択した武器は当然というべきか焔刀……前世の日本刀そっくりな武器だね。

 まあ、焔刀と日本刀を並べて見比べたら、デザインとか微妙に違うんだろうけど……でも、今の俺の感覚ではあんまり差が分かんない。

 対するホウフウが選択したのは……前世で棍とか杖と呼ばれるであろう直線状の棒で、長さがホウフウの身長とだいたい同じぐらいって感じ。


『さて、装備品チェックが終わったところで両者、舞台に上がります。そして、中央にそろったところで、王女殿下から胸ポケットに最上級ポーションが挿入されます』

「ふむ……まあ、コイツらは王女殿下の取り巻きだからな……しっかりとふさわしい態度を取れているといえるだろうよ」

「うん、あの誇らしげな表情……実にいいね!」

「やはり、あれこそが王女殿下にポーションを挿していただく者としてのあるべき姿だ!」


 あいつら……今回も入念にチェックを入れているようだ。

 でもまあ、ティオグとホウフウが満点となるのは当然だよね。

 とかいってるうちに、王女殿下はポーションを挿入し終えて舞台を下がる。

 そして、緊張の一瞬……


「……2人とも、準備はいいな……それでは、両者構えてッ!」


 そういって審判が右手を天に掲げ、振り下ろすと同時に……


「始めッ!!」


 さて、この2人はどんな試合を見せてくれるかな?

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