第644話 それにしたって速過ぎんだろ……

『おぉっと! サンズ選手、迫り来るトルネードを高速移動で回避!!』

「やったっ! サンズ君!!」

「サンズ様……よかった……」

「もう無理かと思ったけど……サンズの奴、やるじゃん」

「やったぁっ!!」

「もう、さすが過ぎっ!!」


 ほう、サンズの奴……上手く風歩を活用したな!

 風歩を使用する際に展開する魔纏によって、トルネードからのダメージだって防げちゃうもんね!!


『カイリー選手のトルネードが執拗に追いかけますが! 高速移動を続けるサンズ選手を捉えることができません!!』

「この試合もやっぱり、とんでもない魔法を見せつけられてしまったな……」

「ああ、一つだけでもとんでもねぇっていうのに……三つとは……」

「そんな凄い魔法を出したっていうのに、それでアッサリ決まらないってところが恐ろしいよ……」

「あのサンズって奴……確かに解説から機敏に動けるっていわれてたけど、それにしたって速過ぎんだろ……」

「正直、目で追い切れねぇよ……」

「なんていうか……よく足がもつれないもんだよな?」

「マジでそう思う! あんな動き方してたら、絶対転ぶだろ!!」

「まあ、俺たちを基準にしちゃいけないんだろうけどさ……」

「しかも、あんなデッケェ剣を持ったまんまっていうのが……なぁ?」

「あの大剣……別に魔剣とか、そういう特殊なもんじゃねぇんだろ?」

「学園で用意されているものだから品質自体はいいんだろうけど……でも、素材とかはいたって普通の鉄とかだろうね」


 風歩を使うことで、俺も速度自体は出せる。

 とはいえ、サンズほど小刻みに方向転換したりってことは難しいんだよな……

 よって、悔しいところではあるが、ああいったフットワークに関しては、サンズの技量のほうが高いと認めざるを得ないだろう。


「あのチビ助め……ちょこまかしやがって……」

「あ~あ……腰巾着は腰巾着らしく、ご主人様の腰におとなしくぶら下がってりゃいいのにな?」

「そうだそうだ! ごっつぁん野郎なんか、トルネードでもなんでもいいから、さっさと吹っ飛びやがれてぇの!!」

「また、お前らは……」

「そういうこといってるから、モテないんだぞ?」

「まあ、ロイターさんに付いて行こうと思ったら、あれぐらいの実力は磨かないと駄目ってこったろうな……」

「だろうな……道理で派閥入りを認めてもらえないわけだよ……」

「えっ! お前、あの派閥に入ろうとしたことあんの!?」

「そりゃあ、この武闘大会の本戦通過人数を見ても分かるとおり、一番力のある派閥だからな」

「でも、あの魔力操作狂いがいるところだろ……勇気あるねぇ……」

「それはまあ……うん……」

「そうはいうけど、あの人って……意外と『魔力操作を練習しろ!』ってぐらいしかいわなくない?」

「いや、微妙にキレるポイントが分かりづらいって話も聞くけどな……」

「あと、キレるポイントとも関連してるけど、言動もちょっと独特な気がする……」

「……やっぱ、あんま近付きたくねぇな」


 なんでか学園の男子たちの話題が、サンズから俺に移り出しちゃったよ……


「フゥ……これ以上やっても魔力の無駄遣いにしかなりませんね……仕方ない……」

「そうはいいますが、僕もなかなか消耗させられましたよ」

「フフッ……さほど疲労しているようには見えませんがね?」

「そう悟られないよう、一応気は付けていますから」

『サンズ選手を捉え切れないと判断し、カイリー選手はトルネードを解除したようです!』

『トルネード……しかも三つともなると制御が難しいですし、魔力の消費量も跳ね上がりますからね……』

『そして両者、最後は槍と大剣による物理戦闘で決着を付けるつもりのようです!』

『先ほどはサンズさんが押していましたが……今はじゅうぶん距離が取れていますので、このままカイリーさんが槍の間合いを維持できるかどうか……』

『スタンさんの指摘どおり! カイリー選手、巧みな槍捌きによってサンズ選手を近寄らせません!!』

『威力よりも手数を重視したコンパクトな突きですね』


 ふむ、カイリーの槍術……なかなか勉強になるなぁ。

 まあ、俺のメインウェポンは槍じゃないんだけどね……でも、だからこそ見て学ぶ部分は多いといえるだろう。

 そんな槍術上級者が相手とはいえ、うちのサンズだって物理戦闘の上級者だからね!


『あっと! カイリー選手の槍の穂先が破壊されてしまった!!』

「……ここッ!!」

「!!」

『ここぞとばかりに攻め込むかに見えたサンズ選手でしたが……慌てて後方に跳び下がりました!』

『……カイリーさんは、破壊された部分に風の刃を生成して斬り付けようとしたようですね』

『なるほど、それを察知してサンズ選手は緊急回避を選択したというわけですか』


 魔力を感じ取ることができなければ、あのまま突っ込んでバッサリいかれてたわけだ……怖いねぇ。


「風の刃って……そんなん見えねぇよ……」

「ぶっちゃけ、本当にそんな刃が付いてんのかって感じだよな?」

「ああ、火とかじゃないとなぁ……」

「まあ、解説の奴がそういってんだから、実際に風の刃が付いてんだろうけどな……」


 一般の観客たちには判別が難しいようだ。

 だからね、魔力操作を練習するべきなんだよ……そうすれば、魔力を感じ取れるようになるわけだからね!


「今のは……絶妙なタイミングでしたね」

「もらったと思ったのですが……さすがサンズさんだ」

「いえいえ、とっさのことで、かなり焦らされましたよ」


 こうしてしばらく攻防は続いたが、地力で勝るサンズが徐々に押していき……

 最終的に……


「……フゥ……ここまでですね……降参します」


 カイリーの降参宣言。


「……勝者! サンズ・デラッドレンス!!」


 サンズの勝利に終わった。

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