第528話 着々と

「いやぁ~模擬戦もなかなか白熱して楽しかったけど、風呂場でのモミジ祭りもすっごく盛り上がったね!」

「フッ……そうだろう?」


 セテルタが楽しそうに感想を述べてきた。


「……アレスに負けず劣らず、セテルタもなかなかのヤンチャ者だったというわけだな」

「ええ、まさしく……」

「今まで、あんまりセテルタさんと接点がなくて知らなかったけど、めちゃくちゃ面白い人だったんだな!」

「そのようですねぇ……そしてこういう機会こそが、僕たちが学園で学ぶ理由なのかもしれませんねぇ」

「思ったとおり、いつにも増して背中がヒリッヒリする……」

「……そうだな」


 こうして各々、本日のモミジ祭りについて感想を述べ合いながら、風呂上がりの飲み物タイムを満喫する。


「ま、こんな感じでセテルタも時間があるときはいつでも参加してくれ!」

「うん、ぜひとも!」

「もちろん、周りの連中も参加したいということなら、こちらは一向に構わないからなっ!」

「ああ、そうだね」


 やはりセテルタは、取り巻き連中と多少の溝があるのかもしれない。

 そいつらの話題を出すと、テンションがちょっと下がってしまった。

 でもまあ、俺のようなフリーな奴と違って、取り巻き共から「侯爵子息とはかくあるべし」みたいな扱いを日頃から受けていて、彼らと一緒だと気が休まらない……なんてことがあるのかもしれないね。

 そしてだからこそ、俺たちとはっちゃけるのが楽しいって感じになっているとも考えられそうだ。


「さて、じゅうぶんくつろいだところで……そろそろ今日のところは解散とするか」


 そうロイターが締めの言葉を発して、それぞれ自室に戻る。


「ただいま、キズナ君! 今日もなかなか充実した1日だったよっ!!」


 というわけで、キズナ君に今日あったアレコレを語りながら、眠りに就く準備をする。

 そして、本日ラストは……当然! 精密魔力操作だ!!

 まあ、魔力操作自体は常になんらかの活動と並行しておこなうようにしているけど、精密魔力操作はそれとは一線を画すレベルで魔力操作に集中するのだ!

 まさに、俺自身が魔力と一体化……いや、魔力そのものになるぐらいの気持ちでね!!

 そうして、寝る最後の瞬間まで精密魔力操作をして、それから眠りの旅に出る。

 というわけで、おやすみなさい……


………………

…………

……


「……朝ッ! そして、おはようキズナ君! 今日は無の日だよ!!」


 精密魔力操作をしてから寝ると、やっぱり睡眠の質が高まるようで、朝までグッスリできる。

 俺が魔力操作に感謝しつつ、みんなにも勧めようとしているのは、地味にこういう効果もあるからだったりする。

 そして、先ほどキズナ君にもいったとおり、今日は無の日……まあ、つまりは休みってことだね。

 ハァ……今日もエリナ先生とは会えない……寂しいもんだね。

 まあね、こういう会えない時間があるからこそ、会えたときの幸せが増幅されるってことがあるのかもしれない。

 だから、今はその時間を味わうのみ……そうすれば、明日はきっといい日になる!

 なんて思いながら、朝練に向かう準備を済ませる。


「それじゃあ、キズナ君! 朝練に行ってくるよ!!」


 そう一声かけて、いつものコースへ向かう。

 そしてそこには、お馴染みのきゅるんとした娘……ファティマがいる。


「よう、昨日ぶりだな!」

「おはよう、今日も機嫌がいいようね?」

「おう! 俺は『ゴキゲンマスター』の名を欲しいままにする男だからな!!」

「そう、よかったわね」

「おうともさ!」


 こうしてちょっとした朝の挨拶を済ませ、ランニング開始。


「ああ、そうそう! 昨日だけどな、ティオグっていう将来、王女殿下の近衛になるであろうナイスな男と話ができたんだ!!」

「あら、それはよかったわね。それで?」

「エトアラ嬢とセテルタをくっつけたいって話を、王女殿下にしてくれるってさ!」

「よかったじゃない、これでほぼ決まったようなものね」

「おう! ……って、そう簡単に行ってくれればいいけどな……」

「まあ、なるようにしかならないわ……ただ、あなたがそうすると決めたのだから、あとは自信を持って突き進むのみよ」

「うむ……それもそうだな」

「それで、昨日セテルタと一緒だったところから見て、彼とも話をしたのでしょう?」

「ああ、そうそう! それなんだけどさぁ……」

「……なんだけど、何?」

「セテルタから見て、エトアラ嬢はどんな人かって聞いてみたんだけど……それがもう! 凄いのなんのって!!」

「……どう凄いのかしら?」

「アイツな……エトアラ嬢のこととなると、ヤベェぐらい饒舌に語り出しちゃうの!!」

「……あらぁ、そうなの」

「それでな、夕食の時間いっぱい語っても、出会いの場面から2年分ぐらいしか語れてないのよ! お前、どんだけエピソード抱えてんだよって感じだった!!」

「……あらあら、まあ……ふふっ」

「正直ね、その点については確信がいったね! 言葉の上ではいがみ合っていても、心の底では強い執着を持ってるってね!!」

「ええ、おそらくそうでしょうね……」

「ただまあ、周りを取り巻く環境が環境だからな……そこまで楽観視はできないと思うが、イケる可能性はあると思う!」

「そうね……そこで私のほうでも、エトアラ嬢に秋季交流夜会をご一緒できるよう誘ってみたわ」

「おっ! それで?」

「当日は私たちと一緒よ……あとは、あなたがセテルタを誘うだけね」

「おおっ! もうそこまで来たか……いよいよって感じだな!!」

「そうね、あともう少し……頑張るといいわ」

「よっしゃ!」


 こうして、着々とエトアラ嬢とセテルタのカップリング大作戦が進行していくのだった。

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