第527話 感化されるもの
「今日のところはこれで解散でいいわね……みんな、お疲れ様」
「それじゃあ、みんな! また明日ねっ!!」
模擬戦後の反省会を終え、ファティマとパルフェナは大浴場の女湯へ向かった。
そして、俺たち男子チームも男湯へ向かう。
「今日はセテルタと一緒にひとっ風呂浴びれると思うと、楽しみだな!」
「フフッ、僕もさ!」
「セテルタ……気を付けろよ? アレスは隙あらば、『モミジ祭り』と称して背中を叩いてくるからな?」
「ええ、背中を真っ赤にさせられますから、お気を付けて」
「ああ、俺たちもよくやられる……それがまた、妙にヒリヒリしやがるからなぁ……」
「まったくです……おかげで最近は着替えのとき、自然と背中を気にするようになりましたからねぇ……」
「あはは、アレスさんのスキンシップは荒々しいですから……」
「……確かに」
「おいおい、お前らなぁ……先にネタバレするとか、なんてことしてくれんだよ……」
「ハハッ! アレス、そのことなら気にしなくても大丈夫さ!!」
「えっ? なんで?」
「フフッ、既にそのウワサは僕も耳にしていたからね」
「あっ、そうなの?」
「うん、初めてそのウワサを聞いたときは『大浴場に背中叩き魔が出た!?』っていう、ナニソレって内容だったんだけどねぇ……よくよく聞いてみると、それがアレスたちのことだったって感じだよ」
「へぇ、そうだったのか……」
自分でいうのもなんだけど、変なウワサが広まってるものだな……
でも俺、ロイターたち以外は叩いてなかったと思うんだが……
「おそらく『自分もいつ叩かれるか分からない』と恐怖心を持つ者がいたのだろうな……気の小さいことだ」
「まあ、アレスさんに面と向かって文句をいえる人……さらにいうと、やり返せるような人は限られているでしょうからね……」
……というロイターとサンズの見解だった。
ただ君たち……セテルタは「アレスたち」といったのだからな?
無関係ぶっているが、君たちも同類だとみなされているからな?
「そこで今回は、僕が先制攻撃を仕掛けようかと思っていたんだけどね……」
「そうだったのか……余計なことをいってすまなかったな?」
「いやいや、おかげでもっと狙いがいのある背中になったはずさ、そうだよね、アレス?」
「フッ……俺の背中はそう安くはないぞ?」
「そうこなくっちゃ!」
「よっしゃ、セテルタさん! 俺も協力するぜ!!」
「そういうことなら、僕も動かないわけにはいきませんねぇ?」
「今日はいつにも増して……背中がヒリヒリすることになるんだろうなぁ……」
「……そうだな」
「なんというか、アレスと絡むようになるまで、セテルタがこんな奴だったとは知らなかった……」
「ええ、僕も少なからず驚いています……」
ふむ……俺がセテルタの素を引き出せたというのなら、嬉しい限りだね。
「セテルタ様が加わり……より素晴らしくなられた……」
「実に実に、彼らは限界知らず……」
「こんなにも美しい光景をお魅せいただいているのだから……わたくしたちも魔力操作に取り組み、あの方へ報いるのが礼儀では?」
「あらあら……そこまで覚悟を決められまして?」
「……皆様がおやりになるというのなら、私も嫌とはいえませんわね」
「私にも……その用意がある」
「うふふ……では、そのように……」
「仕方ありませんわねぇ……」
なんか知らんけど、大浴場へ向かう途中の廊下で集まっていた女子たちが魔力操作へ取り組む決意を固めたようだった……
……ああ! そういえば彼女たち、俺たちの模擬戦をよく見に来てたっけね?
観戦しているだけでも、やっぱ感化されるものっていうのがあるのかもしれないな。
そうして魔力操作に取り組むうち……実際に自分たちも模擬戦をしたくなったら、いつでも参加してくれよなっ!
そんな気持ちを込めて、女子の集団に温かいまなざしを向けておいた。
「……今、あの方が私たちに笑いかけてくださいませんでした?」
「あれは、幻では……ない?」
「きっと、あの微笑みは……より美しい光景をお魅せいただけるというご意思に違いありませんわ」
「あらあら……これはもう、魔力操作から逃げられそうもありませんわねぇ……」
魔力操作は君たちにとってもプラスになるから、頑張ってくれたまえ!
といったところで、男湯へ。
……さて、脱衣場に来たわけだが、セテルタめ……どう攻めてくる?
なんて警戒を怠ることなく、脱衣に取り掛かる。
「ふんふ~……ん? 今日の大浴場は……なんでこんな殺伐とした雰囲気なんだ?」
「シッ! ほら、あの人たちだよ……」
「う~んッ!? なるほど、そういうことか……」
「気を抜いていると標的にされるっていうウワサだ……君、危なかったよ?」
「そうだな……すまねぇ、助かった」
「ははっ、いいってことさ」
ふむ、確かに妙なウワサになってるみたいだね……まあ、気にしないけど。
そうして俺たちは背中を狙い合い、ジリジリとした攻防戦を繰り広げるのだった。
「おかしい……なんで我々はこんな緊張感の中で風呂に入っているのだ……?」
「お前さん、まだまだ若いなぁ……背中ぐらい、叩きたいならいつでも奴らに叩かせてやればいいのさ……男はもっと、そんぐらいの度胸がなくっちゃなぁ! はっはっはっ」
「……ならば、我が叩いてもよろしいか?」
「はっは……ごめんだけど、やめてくれる?」
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