第529話 おかしいことかもしれないけどね

「……ついに、この日がやってきた……というわけで、おはようキズナ君!」


 キズナ君に挨拶を済ませ、光の日が始まる。

 そして何を隠そう……今日は秋期交流夜会!


「ふぅ、やっときたかって感じだね……そうは思わないかい、キズナ君?」


 まあ、基本的な準備は、この前の無の日でほとんど終わっていたといえるだろう。

 ファティマがエトアラ嬢を誘ってくれていたし、俺もそのあとでセテルタを誘ってオッケーをもらったからね。

 それでここ数日、ちょくちょくセテルタにエトアラ嬢の話を振ってみるなどして、意識の方向付けを試みたりなんかをしていた。

 実際のところ、その効果があったかどうかはなんともいえない。

 だが、その都度セテルタはエトアラ嬢とのエピソードを饒舌に語ってくれたので、まったく無意味ではなかった……ハズ!

 一応セテルタ的に、エトアラ嬢とのことをよく覚えていたのは「敵……もしくはライバルのことをよく知り、出し抜かれないようにするため」みたいなつもりのようだった。

 でも、こちらとしては、それが言い訳にしか聞こえなかった。

 というか、そこまで意識の中心にいるのって……もう好きやん? って思わずにはいられなかったね。

 ……たぶん、そういってもセテルタは首を縦には振らなかっただろうけどさ。

 まあ、この辺がファティマのいっていた「変な強情」ってことなんだろうね。

 そんなことを思いつつ、朝練に向かう準備を終わらせる。


「さて、そんじゃあ、今日も朝練に行ってくるよ、キズナ君!」


 そうしてキズナ君から、言葉によらない「いってらっしゃい」を背中に受けつつ、部屋を出る。

 ……いやまあ、俺が勝手にそう思ってるだけなんだけどね。

 でもきっと、キズナ君はそう思ってくれているハズ!

 というわけで、いつものコースへ。


「おはよう、ついに今日ね?」

「おう、ここしばらく俺たちが準備してきたこと……その努力の結果が示されるわけだな!」

「ふふっ……大げさねぇ?」

「でもまあ、実際そうだろ? それに極端な話、今日でエトアラ嬢とセテルタの将来が決まるのかもしれないんだからな……まあ、そこまで行かずとも、今みたいないがみ合うだけの関係からは脱却してもらえたらいいなって思っているわけだし……」

「そして、エトアラ嬢との婚姻話をなかったことにしたい……というわけね?」

「う、うむ……まあ、結果的にそういう結論に行き着くことにはなるだろうなぁ……」

「まったく……相変わらずねぇ……」

「あ……あはは……その……まあ……うん……」


 どうにも、そういった方面については、まだ具体的に考えられないっていうか、俺自身の覚悟みたいなものが決まっていないというか、あんまり積極的に動く気になれないんだよなぁ……

 その、ほら、俺って基本的に「片思いの美学」の体現者なわけだからさ……

 といいつつ、そんな俺がエトアラ嬢とセテルタをカップリングさせようっていうのは、おかしいことかもしれないけどね……


「ふぅ……あなたの心が育つのは、一体いつになるかしらねぇ……?」

「……は、はぁっ? ……お、俺ほど、成長著しい男はなかなかいない……ような気がするんだからなっ!?」

「……それは、魔法関係の話でしょう? あとはそうね……剣術の腕も頑張って磨いているってところかしら?」

「……ま、まあ、そうとうもいう……かな?」


 ダメだ、この話題は俺に不利だ……!

 よし、それなら話題を変えちゃえ!!


「そ、そういえば……最近、ようやく落ち着きを取り戻しつつあるみたいだけど……今回のことでロイターたちのところへ派閥入り希望者が殺到していたわけだが……お前やパルフェナはどうだ? やっぱり、苦労したか?」

「そうねぇ……私はそうでもないけど、パルフェナは多少苦労したかもしれないわね」

「へ、へぇ……そうなん?」


 ま、まあね……どう考えても、パルフェナのほうが人当たりよさそうだもんな!

 気の弱い子だとおそらく、まずはパルフェナに声をかけようってなるだろうね!

 とはいえ、男子に比べて女子のほうが根性者は多そうだから、みんながみんなファティマに声をかけられないって事態に陥ってはいないと思われる。


「……アレス?」

「はひっ! す、すみませんでしたぁ!!」


 ファティマさん……圧が強いです。

 なんでそう、貴女はピンポイントで人の心を読まれるのか……まったく、恐ろしい。


「まあ、いいのだけれどね……それで、派閥というほど強固な集まりは維持運営が面倒だから、みんなお友達という扱いにしたわ」

「な、なるほど……」


 ファティマなら、派閥の維持運営も上手いことやってのけそうな気がするけどね……

 でもまあ、面倒なことには変わりないだろうな。

 そして、ヴィーンたちだって俺たちの派閥の一員ってわけじゃなく、一緒に模擬戦をする仲間って感じだし……女子たちのほうでは一緒にお茶会をする友達って感じなんじゃないだろうか。

 とまあ、そんな感じのことを話しながら約1時間のランニングを終える。


「それじゃあ、今日の夜会……頑張っていくぞ!」

「ええ、そうね……とはいえ、この件ではもう、私がするようなことはほとんどないでしょうけれど……」

「いやいや、ファティマさんの存在感があればこそ! 話も上手く進むってなもんさ!!」

「……そう、まあ、そういうことにしておこうかしら」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る