第530話 風物詩

「今日の授業はここまで。そして、今夜は秋期交流夜会ね……春期交流夜会と基本的な流れは同じだけれど、今回は全学年そろっていることから規模が違うし、この夜会が将来に与えるかもしれない影響を考え、今から緊張している生徒もいるかもしれない。そこで緊張するなというのは難しいでしょうけれど、誰にも心を尽くして丁寧に接するよう心掛ければ、みんななら大丈夫だと思うわ。あまり心配し過ぎることなく、夜会を楽しんできてね。それじゃあ、解散」


 エリナ先生から、秋期交流夜会に向けたありがたいお言葉を頂きつつ、授業が終わった。

 そして今日は光の日ということで、今週の授業はこれで終わり。

 はぁ……明日明後日の闇と無の日は休日でエリナ先生に会えない……寂しいね。

 ただ、寂しがってばかりもいられない。

 今夜の結果次第では、頭を抱えたくなるような状況になっている可能性だってあるのだから……

 いや! 今からそんな心配をしていちゃダメだ!!

 エリナ先生が「心を尽くして」というありがたいアドバイスをくれたじゃないか!

 その言葉を心にしっかりと刻んで、夜会に臨めば大丈夫だ!

 やれる! 絶対に成功するはずだっ!!


「もしかしてアレス……夜会に向けて緊張しているのかい?」

「おお、セテルタ。いやぁ、実はちょっとばかりな……ははっ」


 主に、君とエトアラ嬢のことでなんだけどね……


「そっかぁ……ま、先生もいってたことだけど、今日は楽しもう!」

「おう、そうだな! この先ずっと忘れられないような……そんな夜会にしてみせるぜ!!」

「あははっ! それはちょっと大げさ過ぎかなぁ? でも、それぐらい楽しい時間にできたらいいよねっ!!」

「おうとも!」

「……あっと、そろそろ行かなくちゃだ……それじゃあ、またあとでね!」

「またな~」


 うちのクラスのドアのほうを見ると、セテルタの取り巻きたちの姿があった。

 ……やっぱり、取り巻きたちに周りをウロウロされるのって、面倒そうだな。

 まあ、ロイターとサンズ、それからヴィーンたちみたいなお互いに分かり合ってる奴らでつるむって感じなら、そこまで嫌じゃないかもしれないけどね。

 その点、セテルタはあんまし楽しそうじゃないからなぁ……

 そんなことを思いつつ、セテルタが取り巻きたちのところに向かうのを見送った。

 ……セテルタがエトアラ嬢とくっつくことになったら、あいつらはどうするんだろうな?

 ふと、そんなことが少しだけ気にもなったが……そうなった場合どうするかっていうのは、彼ら次第ってところか。

 でもまあ、あれは本人同士っていうより、家同士のつながりって感じがするから、彼らの親とか当主の判断次第といったほうがより正確かもしれないな。

 ……さて、それはそうと、俺も昼食へ向かうとするかね。

 そして今回は女子からのお誘いがなかったので、おひとり様を満喫できる……やったね!

 まあ、女子たちも今日の夜会に向けて、何かと準備があるのだろうさ。

 それにもしかしたら、昼食を抜く子だっているかもしれない……「ちょっとでもスリムに見せたいから」とかいってね。


『……ッ!!』


 ここで「昼食を抜く」って言葉に腹内アレス君が強く反応を示した。

 まあ、腹内アレス君には理解不能な考えだろうからね……


『まあまあ、俺はちゃんと食べるからさ、心配しなくて大丈夫だよ』

『……』


 そんな感じでなだめつつ、男子寮の食堂へ向かった。

 そして適当な席に着いて、いただきます。


「あぁ……今日もまた、断られた……」

「……まあ、そのなんだ……あんまり落ち込むなって」

「そうだよ、君が声をかけてたあの子、あんまり性格よくないってウワサを聞いたよ?」

「……あぁん!? オメェ……今なんつった?」

「えっ!? い、いや……君が落ち込んでいたものだから……励まそうと思って……」

「おい、やめとけって! 今は口答えせず、謝っとくんだ!!」

「えぇ、なんでさ……僕は聞いたまま、本当のことをいっただけだよ?」

「オイオイ! オーイッ!! ……あんまりくだんねぇことをゴチャゴチャいってんなよ? オレは今、トサカにきてんだかんなァ!!」


 まあねぇ……好きな子のことを他人に悪くいわれたら、つい怒りたくなるって気持ちも分からなくはない。

 それに俺だってさ、エリナ先生の悪口をほざいてる奴がいたら「許せん!」ってなるしさ……って、え? おい……そんな奴、マジでいんのか?

 おいおい……誰だ、そいつぁ? 許せねぇなぁ!!


「……ヒッ!! こ、この圧……なんで……?」

「た、たぶんだけど……お前のことがうるさかったんじゃないのか?」

「きっとそうだよ! 君こそ謝ってきたほうがいいよ!!」

「……スッ、スンマセンしたぁぁぁぁ!!」

「あ、おい……」

「行っちゃった……えっと、僕らも……行こうか?」

「ああ、そうだな……その、お騒がせしてすいませんでした……」

「ごめんなさい……」


 俺が想像上の不届き者に怒りを感じていたところ、なんか知らんけど、男子たちが謝ってきた。

 えっと……これは返事しといたほうがいいのか?


「……まあ、あんま気にすんなよ?」

「はい、寛大なお言葉に感謝します……それでは、失礼します」

「ありがとうございます……では」

「……おう」


 なんだろう、この微妙さは……

 それはともかくとして、本日の男子寮の食堂は……誘いを断られた嘆き男子たちの巣窟と化していたのだった。

 ……これも、学園の風物詩かな?

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