第124話 絆

 エリナ先生との素敵な時間の余韻を味わいながら、自室に戻ってきた。

 そして、エリナ先生に譲ってもらったチャノキも直射日光を受けすぎない適度な場所に配置した。

 そんで、こっちの世界というか魔法士が室内で植物を栽培する場合、ほぼ世話が必要ないみたい。

 エリナ先生や俺みたいなレベルの魔法士だと特にね。

 というのが、俺ら魔法士が過ごす部屋で濃度が高められた魔素を植物が取り込み、自身がそのとき必要とする養分を自力で生成できるかららしい。

 ただ、長期間部屋を空けると魔素濃度が低下してしまい、一般的な世話が必要になってくるから注意が必要なんだ。

 というわけでそういう場合を見越して、部屋の魔素濃度が低下してきたら自動的に植物周りの魔素濃度を高めてくれる魔道具を準備しておくってわけだね。

 ま、それもこの前トレルルスの店で買っておいたから問題なしなんだけどねって感じで設置完了。

 あとは……そうだな、チャノキに名前をつけてあげなきゃだね。

 これからルームシェアしていく仲間なんだし。

 さて……う~む……木……エリナ先生からもらった……

 木とエリナ先生……

 決まった!

 君の名前はキズナ!!

 エリナ先生と俺の絆の証の木だから、キズナだ!!

 というわけで、これからよろしくな!!

 するとなんとなくではあるが、キズナ君から親愛の念のようなものが伝わってくるような気がした。

 うん、俺たち上手くやっていけそうだね。

 こうして俺に新しい仲間ができたのだった。

 さて、魔道具の設置も終わったことだし、いったん外出しよう。

 やっぱキズナ君もさ、いきなり環境が変わってびっくりしてるだろうからね。

 俺の部屋っていうか俺の魔素に慣れるまでしばらく静かにそっとしておいてあげようと思うんだ。

 おそらく部屋に戻るのは夜になると思うから、それまでに少しでも慣れておいてくれればと思う。

 そんなわけで、焼肉の時間まで多少時間があるので街中をぶらつくことにした。


『今が旬! メロンづくしの贅沢メロンパフェをぜひお楽しみください!!』


 一軒のカフェの前に置いてあるブラックボード、そこに書かれていた文字が俺の興味をひいた。

 メロンづくし……それも贅沢ときたか、面白いじゃないか。

 俺も前世では夕張メロンを食べて育ってきた自負がある、メロンにはちょっとうるさいぞ?

 よし、入ってみるか。

 ……今日はスイーツ日和だったということで、ね?

 そんな言い訳を心の中でひとつして店の中へ。


「いらっしゃいませ~1名様でしょうか?」

「ああ」

「かしこまりました、お席に案内いたしま~す」


 ふむ、フリフリの制服に甘いしゃべり方の店員、ファンシーな店の雰囲気にマッチしていてなかなかいいじゃないか。

 ……まぁ、前世の俺だったら絶対入れないタイプの店だな。


「ご注文はお決まりでしょうか~?」

「メロンづくしの贅沢メロンパフェを頼む」

「メロンづくしの贅沢メロンパフェですね? かしこまりました~」


 そして少し待ったあと、ついにメロンパフェがやってきた。

 さて、俺をうならせるメロンかどうか……そう思いながらメロンを一切れ口に運ぶ。

 鼻に抜ける芳醇な香り、口に広がる強い甘み、我こそがメロンなりと言わんばかりの堂々たる味わいだ。

 ……ふふ、さすが異世界、やるじゃないか。

 そしてクリームもたんなる生クリームではなく、メロンが練り込んであるようで、さすがメロンづくしと言うだけはある。

 そうして俺がメロンパフェの味を楽しんでいたところ、斜め前の席に座る学園の女子生徒2人の会話が聞こえてきた。


「私ね、今までノエに隠していたことがあるの……」

「どうしたのズミカ? そんな改まっちゃってさ」

「先に謝っとく、ごめんね……驚かせちゃうと思うから……それにきっと、もう今までみたいな関係ではいられなくなっちゃうから……」

「もぉ、なんなの~? そんな大丈夫だよぉ!」

「じゃあ……ちょっと、見ててね……」


 なんだろう、ズミカとかいう少女、妙に深刻そうな雰囲気を出しているが……

 そうして俺も何気ないふうを装いつつ注目していたら、ズミカが一瞬淡く発光し……


「え!? うそ……」

「……これが、私の正体」

「……ズミカって……魔族だったの?」

「……そう」


 ……は!?

 マジかよ……さすが魔族の擬態と言うべきか、気付かなかった。

 ……というかこんな擬態をしてたってことはコイツ、マヌケ族ってことか?

 それだと始末しなきゃならんか?

 ……いや、その判断はまだ早いか……まずは様子見だ。

 ただ、なにかあったときすぐ対応できるように警戒レベルだけは上げておいたほうがいいな。


「……でも、どうして今なの?」

「……私ね、孤児だったの……それで孤児院の先生に『人間族に魔族だと知られるとなにをされるかわからない』って言われててね、ずっと人間族に擬態して生きてきたの。そうしてしばらくして私も人間族としての生活に慣れてきたところで、今の家族に引き取られたの」

「そ、そうだったんだ……」

「……それでね、もともと魔族だったこともあってさ、魔法の才能を認められて学園に入学することになったの。それからだよね、ノエとも友達になって……」

「うん、そうだね」

「でも……私みんなを騙してた、今の家族もそうだし、ノエや学園のみんなも……そんなときにね、コモンズ学園長が相談に乗ってくれてさ……それでコモンズ学園長が言ってくれたの、なにかあったら守ってくれるって、だからもう隠さなくていいんだって」

「あのコモンズ学園長が!? それって絶対安全ってことじゃん!!」

「うん、そうかも」


 コモンズ学園長か……まぁ、絶対とは言えんが、比較的安全ではあるかな?

 ちなみに、俺ら原作ゲームのプレイヤーからのコモンズ学園長の評価ってまっぷたつなんだよね。

 普通にプレイしていただけだと、コモンズ学園長って「話せばわかる」とか「命まで奪うのはよくない」とか言ってきてめっちゃウザいんだ。

 だから、多くのプレイヤーからお花畑学園長とかよく言われてたよ。

 だが、学園長が本領を発揮するのは主人公敗北エンドのときなんだ。

 なんと彼、もと王国騎士団所属で「完全防壁のコモンズ」って呼ばれるぐらいの防御全振りみたいな人だったんだ。

 そんなわけで主人公敗北後、王国各地がマヌケ族やモンスターの大群に総攻撃を受けるんだが、それは学園都市も同じでね……

 学園長が学園都市を防壁魔法で守護するんだ、それも王国が魔王に勝利するまでのあいだずっと。

 しかも学園長が守るからってことで学園都市にいる戦闘能力のある人間のほぼすべてが魔王戦に参加するというおまけつき。

 まぁそんなわけで、単独で学園都市を守り抜く男ってわけなんだ。

 さらに言うと、攻めてくるマヌケ族を説得しながらとかいうわけわかんないことまでするというね……

 いやまぁ、学園長の熱意を受けて戦闘放棄を考え始めるマヌケ族もちらほらいたらしいから無駄ってわけでもないんだろうけどさ……

 ただ、そんな無茶なことをして無事なわけがなくね……年齢的なものもあってか戦争終結後、コモンズ学園長は力を使い果たして亡くなってしまうのだ。

 というわけで、そんな学園長の姿を見たプレイヤーはある程度彼を見直すってわけ。

 ただね……主人公敗北エンドってよっぽどのヘタクソじゃなきゃまずならないからね……

 知らずにゲームを終えるプレイヤーも結構いたんじゃないかな、クリアしたら即売る勢とかは特に。

 俺も基本レベル上げをガッチガチにやるタイプだったから知らなくてさ、あとから同好の士に教えてもらってようやくって感じだったし。


「でもズミカ、私はズミカが魔族だろうとなんだろうと気にしないよ! そんなの全然関係ないよ!!」

「ノエ……」

「それにズミカ! あの日いっしょに食べたアント団子の思い出は偽物なんかじゃないでしょ? 私といっしょにグラスホッパーのスナックを食べたズミカは間違いなく本物のズミカでしょ!?」


 ……なんだろう、ノエって子の話、青春しててめっちゃいい感じなはずなのに、アリにバッタ……次々と出てくる昆虫食のエピソードのインパクトが強すぎてそっちに意識が持っていかれそうだよ。

 ……でもま、この様子だとズミカって子は俺の敵にはならなそうだな、安心した。

 さすがにいくらマヌケ族とはいっても、女の子を始末するっていうのはさ……気が引けちゃうから……

 まぁ、この先そういう覚悟がいる場面も出てくるかもしれないが……今はね。

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