第123話 ちょっと渋いかもしれないけれど

「みんな、パーティーメンバーは決まったかしら? 今日から学園内でのパーティー登録申請が始まるわ。期限は今週の光の日までだから忘れずにね。パーティー登録をしなかった生徒については学園側で強制的に決めてしまうことになるから気をつけてちょうだい」


 ふむ、余り者の扱いはそういう感じか……

 最後までパーティーを決めなかったらワンチャンソロもありうるのかなって思わなくもなかったが、そんなわけなかったってことだね。

 それにしても、パーティーメンバーガチャか……回してたらどうなってたんだろう?

 まぁ、実力的にロイターたちのようなレアはめったに出ないだろうけどね。


「それと、野営研修の案内書にも書いてあったと思うけれど、登録申請のときにリーダーとサブリーダーも登録してもらうから、それについてもしっかり話し合って決めておいてね。それじゃあ、今日の授業はここまでとします」


 ああ、リーダーとサブリーダーをまだ決めてなかったな。

 俺らだと誰が適任だ?

 俺は気分屋すぎて向いてないだろうし、そもそもやりたくない。

 やっぱ、実家の地位的なことも考えるとロイターが一番か?

 進路希望とか聞いてなかったけど、たぶん将来的にアイツは上に立たなきゃいけない男なはずだ。

 あとはそうだな……ファティマさんが有力候補だろうね。

 そう、ファティマさんの上から目線は伊達じゃないからな! 

 よっしゃ、あの二人にリーダーとサブリーダーを押しつけたれ!!

 よし、今からそういう雰囲気を出しとくか。


「ロイターさん、今日もこれから令嬢とランチですか?」

「……おい、なんだその話し方は?」

「え? なんのことですか? 俺、ロイターさんのことマジリスペクトしてるんで!」

「……はぁ、リーダーをやりたくないんだな?」

「ギクッ! ……えっと、なんだろう、バカな俺にはロイターさんがなにを言ってるのかよくわかんねぇっス!」

「おいおい……『ギクッ!』って声に出てしまっているぞ? まぁいい、わかったからそのおかしな話し方をやめろ」

「おお、わかってくれたか! それじゃリーダーは任せた!!」

「いや、その話は今日の夕食時にしよう、ちょうど焼肉でみんな集まるからな」

「くっ!」


 さてはロイターの奴もリーダーをやりたくないんだな?

 仕方ない、基本的にはロイターをリーダーに推すとして、それが失敗した場合の第二案がいるな。

 ……そうだな、リーダーには調整型もあるってことで、サンズかパルフェナを推そう!

 あの二人なら上手いことみんなをまとめてくれるはずだ!!

 完璧だ、あとは夕方を待つばかりだな。

 そんな感じでロイターとはいったん別れ、男子寮の食堂へ。


「やはりここは! パーティーリーダーには俺がなるべきだと思う!!」

「そんなこと言って、令嬢たちにいいトコ見せたいってだけでしょ?」

「僕は誰でもいいんだけどさぁ、君って忘れ物とか多いじゃん? ちゃんとやれんの?」

「うっ! で、できらぁ!!」


 おお、彼らもリーダー決めをしているようだな。

 やってくれる奴がいるなら任せたいだろうけど……忘れ物が多いってところは地味に心配になるな。

 でもそうか、自分がどれだけリーダーに向いてないかをアピールするっていうのはアリだな。

 ありがとう忘れ物君、君のおかげでリーダー選に向けて、ひとつ手数が増えたよ!

 そうしてお昼を食べ終え、今日はエリナ先生の研究室に行こうと思う。

 ソレバ村に行ってきた話なんかをしようかなって思ってさ。

 その中でも特に、カッツ君の言っていた魔力の色の話とかしたいし。

 そんなわけで、一度自室に戻りシャワーを浴びるなどして身嗜みを整え、エリナ先生の研究室へ。

 在室を確認したところで、ノックをトントントン。


「どうぞ」

「失礼します」

「あらアレス君、いらっしゃい」

「今お時間よろしいでしょうか? 昨日一昨日の二日間でソレバ村に行って来まして、そのときのお話を少しできたらなと思ったのですが……」

「大丈夫よ。どんな話を聞かせてもらえるのかしら、楽しみね」

「ありがとうございます! あと、今回もソレバ村のハーブティーをお持ちしました、もしよろしければ」

「嬉しいわ。さっそく淹れるから、少し待っててね」

「はい」


 待っているあいだ、テーブルにはハーブクッキーを準備。

 よし、いい感じだ!


「お待たせ。まぁ、ハーブクッキーも? ありがとう!」

「いえいえ」


 これだよこれ!

 エリナ先生の笑顔、とっても心があたたまるぅ~

 そうしてまずはお茶を楽しんだところで、今回のソレバ村の話をした。

 どの話も興味深そうに真剣に聞いてくれるので、話をしに来てよかったなって強く思う。

 そして話題が魔力の色についてとなった。


「そうねぇ、私も普通の状態だと魔力の色を認識できないわ」

「やはり……それで、普通の状態というのはどういうことでしょうか?」

「魔力操作のとき、魔力が体の中を循環するイメージをしているわよね? そこで、目にいつもより多めに魔力を込めてみるの。そうすればたぶん、色の認識ができると思うわ」

「目に? なるほど、ちょっとやってみます」

「ええ」


 目にいつもより多めに魔力を込める……

 あ! 見えた!!

 魔纏を解いたり発動したりを繰り返すと、確かにうっすらと魔纏に輝きみたいなものが感じられる。

 なるほど、カッツ君が言っていたのはこれか!!


「認識できたみたいね」

「はい! これは凄いですね!!」

「そうね。そして自然とそれを感じ取れたカッツ君は素晴らしい才能の持ち主ね」

「私もそう思います」


 こうしてソレバ村の、それも未来の才能あふれる子供たちの話で盛り上がった。

 それと、エリナ先生の研究室にも観葉植物が置いてあることが気になったので聞いてみた。

 もしやエリナ先生も薬草を栽培しているのかなって。


「これはね、焔の国から取り寄せたチャノキっていうの」

「チャノキ……もしかしてこの木の葉っぱ、お茶になったりします?」

「もちろん! よくわかったわね?」

「ええ、なんとなくでしたが……」


 エリナ先生、ホントにお茶が好きなんだね。

 しかし焔の国ってことは……緑茶かな?


「もしよかったら、この木の葉っぱで作ったお茶、飲んでみる?」

「いいんですか? よろこんで!」


 そうしてエリナ先生が「ちょっと渋いかもしれないけれど……」と言いながらお茶を運んできた、和菓子をそえて。

 これ……抹茶だ!

 やべぇ、なんとなくでしか作法を知らないぞ……

 しかもそれだって、漫画で見た作法だし……

 ふぅ、ここは漫画内茶人の先生を信じるしかないな……行くぞ!

 確かお菓子が先! そしてお茶を飲むときは器を回して正面を避ける! これだけしか知らない!!


「あら、アレス君、焔の国の作法も知っているのね?」

「あ、いえ、うろ覚えでしたが……」

「それだけできれば、焔の国の人にも喜ばれると思うわ」

「そ、そうですか? はは、ははは」


 やべぇ、めっちゃ照れるぞこれ。

 そしてありがとう漫画内茶人の先生! あなたの教えは正しかった!!

 それから、抹茶を飲むことによって、力が湧いてくる感じがする。

 おそらくこの葉っぱ、薬草レベルだ……それも結構等級が高い気がする。

 さすがエリナ先生。

 ……ここまでくると抹茶っていうより、魔茶って感じかな?

 こうして、エリナ先生と日本茶(焔茶)の話で盛り上がることができた。

 それと、俺が植物の栽培も考えている話をしたら、チャノキを一株譲ってくれた。

 やったぁ! エリナ先生とお揃い!!

 このチャノキは大事に育てていこう、そう心に誓った瞬間でもあった。

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