第387話 人気のないダンジョン

 メシ屋からスライムダンジョンに移動。

 この際、父親捜索を求めていた少女……名前は「ヒナ」というそうだが、ダンジョン入口まで見送るためついてきた。

 また、ヒナだけじゃなくメシ屋にいた連中までついてきた……まあ、ここまではいいといしょう。

 だが、なぜか移動中に次々と街の住人まで加わってきたのだ。

 そこで改めて後ろを振り返ってみると、かなり後方に屋台を引いて歩ているオッサンの姿まであった。

 ……コイツら、お祭りか何かと勘違いしてやいないかね?


「俺たちは、ボウズたちが無事に帰ってくるほうに賭けたが……お前らはどうすんだ?」

「ははっ、オレなんかさらに! 嬢ちゃんの親父さんも連れ帰ってくるって賭けたんだぜ?」

「まあ、それがベストだよなぁ……」

「そんで、あんだけ煽ってたお前らだ……もちろん答えは決まってるよな?」

「お、おうともよ」

「なんとなく、分の悪い賭けのような気がしてきたんだけど……」

「おっ! もう泣きが入ったんか? だっさいのう」

「クッソ! そこまでいうんなら! 帰ってこねぇほうに賭けたらぁっ!!」

「俺っちは、どうしよう……」

「なあ、もうゴメンナサイしとかねぇか?」

「お前ら! ビビんなって! 大丈夫だ、スライムはヤベェんだからよ!!」

「そ、そうだよな! じゃあ、オレは涙目敗走に賭ける!!」

「あ、コイツ! ちゃっかりハードルを下げやがった!」

「い、いや、俺は最初っから、涙目敗走確定としかいってねぇし!」

「やっぱり、最近の若いもんは……だっさいのう」


 あら、本格的に賭け始めちゃったよ……なんだかなぁ……

 とか思ってるうちにダンジョン前に到着。

 俺が今まで挑戦した2カ所のダンジョンでは屋台がズラリと立ち並んでいたのだが、ここにはなかったみたいだ。

 まあ、大繁殖を起こしてるから危険っていうのもあるのだろうが……単純に冒険者が寄り付かないような人気のないダンジョンだからっていうのが主な理由なんだろうなぁ。


「……今日はえらく団体さんで来たみたいだが、これはどういうことなんだ? まさかダンジョンに行くなんていわないよな?」


 ギルドの出張所で受付を担当しているオッサンの第一声がそれだった。


「そのまさかだ、これからダンジョンに行く。ああ、実際に行くのは俺たち5人だけどな」

「やっぱりか……分かってるとは思うが、現在絶賛大繁殖中だ……おそらく1階を除く低階層は既にスライムでびっしりのはずだし、中階層辺りもそうなってるかもしれん……だから悪いことはいわない、やめとけ。それにまだ連絡は来てないが、そろそろ領軍の編成が始まっててもおかしくない頃だ……じきにやって来る領軍がスライムの数をほどよく減らしたあとでゆっくり挑戦すればいいじゃないか」

「お父さんがダンジョンの中にいるんです! そんなの待ってられません!!」

「1週間前にもダンジョンに入った男が1人いたけど……もしかして、その娘さんか? 彼にも危ないからやめるようにいったんだがな……『それでも』と聞く耳を持ってはくれなかった……」

「俺たちはその男の捜索に行くんだ。そんなわけで止められても行くつもりだからな、手続きをよろしく」

「冒険者は自己責任……か。これ以上止めても無駄なようだな……わかった、手続きをしよう。だが、くれぐれも無理はするんじゃないぞ? 少しでも危険を感じたらすぐに引き返すんだぞ!?」

「ああ、心遣いに感謝する。だが、心配には及ばん……むしろ領軍のキャンセルを提案したいぐらいだからな」

「ハハッ、なかなかいうじゃないか! ま、とにもかくにも、無事に帰ってくることを祈ってるぞ!!」

「ありがとう、じゃあ行ってくる」

「おう、行ってこい!」


 こうして多少引き止められたものの、ギルドの手続きが完了。

 さて、あとはダンジョンに行くだけだね。


「アレスさん……お父さんのこと、よろしくお願いします」

「絶対に見つけると約束できないのは申し訳ないが、できる限りのことはするつもりだ」

「はい、それでじゅうぶんです、ありがとうございます」

「それじゃあ」

「お気を付けて」

「ボウズたち! 絶対に帰ってくるんだぞぉ!」

「お前たちならやれる! 頑張ってこい!!」

「3日分の飲み代をお前らに賭けたんだ! 頼んだぞ!!」

「俺なんか1週間分だぁ!!」

「へっ、せいぜいスライムに溶かされながら後悔しやがれ」

「泣きながら帰ってくるぐらいでいいからなぁ!」

「それにしても……『アレス』ってどっかで聞いたことがあるような気がするんだよなぁ……どこだったかな?」

「まあ、そこまで特殊な名前でもねぇんだし、たまたまどっかで同じ名前の奴のことでも聞いたんじゃねぇのか?」

「う~ん……それもそっか!」


 まあ、俺のウワサは学園都市周辺が基本だろうけど、旅をしながら冒険者って奴もいるだろうからなぁ……

 もしかしたら俺のことかもしれん……なんて、自意識過剰かね?

 そんなわけで、ついてきた街の住人たちに見送られながらダンジョンに突入。

 そしてこのダンジョンは、俺がこの世界で初めて挑戦したゴブリンダンジョンと同じように、階層型となっている。

 そのため、1階は転移陣があるのみ。

 また、大繁殖といえど、ここにはまだスライムがいないようだ。

 たぶん、ほかの階から溢れてきて、1階までスライムだらけになったら本格的にマズいんだろうね。

 というわけで、このダンジョンに初挑戦の今は1階に用はないので、2階に続く階段へ向かう。

 さて、ここからが本番だ……気合入れていくぜ!

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