第388話 アタックを開始
スライムダンジョンの2階へと続く階段を上りながら、リッド君やソレバ村のことを思い浮かべていた。
なんか、シチュエーションが割と似てるんだよね。
お母上が病気となったこと、父親が危険に飛び込んでいったこと、そして親を想う健気な子供。
あのときは俺に話がきた時点でリッド君のお父さんは命を落としていたが、今回はまだ希望が残されている。
だからこそ、なんとか救出したいものだね。
ただ、その希望は可能性として微妙といわざるを得ないし、そのこともヒナちゃんに何度か話した。
でも、あれは正直、救出できなかった場合のことが怖くて予防線を張ってたみたいなところがある。
というのもエメちゃんを救出に向かった際、エメちゃん以外の人形にされた少女たちを救えなかったからね、なおさらそう思ってしまうんだ。
そこで「そんなに救出失敗が怖いなら、ほかの冒険者たちみたいに断ればよかったのに」って思われるかもしれない。
……実際そうだろうと思う。
でもさ、俺はアレス君の体っていうチートじみた力を授かった異世界転生者なんだよね。
異世界転生の先輩諸兄だって、きっとこういう場面では動くはず。
そう思えば、俺に選択の余地なんかなかったはずさ。
まあ、最初はそこまで深く考えてヒナちゃんに声をかけたわけじゃないけどね。
そんなことを考えながら、意識を戦闘モードに切り替える。
「……アレス様、あまり気負い過ぎませんように」
ギドがそう声をかけてきた。
「アレス様、リラックスだよっ!」
「アレス様は真面目で優し過ぎる……ノムルみたいにもう少し能天気になってもいいと私は思う」
「ええ、サナさんのおっしゃるとおりですわね」
「えっ、私が? 能天気!?」
「まごうことなき」
「その点について、異論を差し挟む余地はありませんわね」
「な~っ! ひっど~い!!」
「……みんな、ありがとう。確かに、気持ちのゆとりが欠けていたかもしれないな」
俺から焦りの念のようなものを感じ取ったのかもしれない……それで3人娘も、ここでわざと軽いノリのやりとりを演出したのだろう。
そんなことがありつつ、ちょうどいい緊張感で戦闘モードに移行することができた。
そして階段を上り終え、2階に到着。
「なるほど……凄くスライムだね」
「この数、まさに大繁殖といったところでしょうか」
「これだけスライムが積み重なってるとさ……下のほうにいる奴は潰されたりしてないのかな?」
「スライムは弾力性があるとのことですから、辛うじて核は無事なのでは?」
「さすがに同士討ちはありえない……と思いたい」
というわけで2階に足を踏み入れると、石垣と形容できそうなほどびっしりと積み重なったスライムたちに出迎えられた。
ま、感想はこれぐらいにして、さっそく討伐開始といこうかな。
それと今回は速さ重視ということで、光弾ことライトバレットでスライムたちの核を光の速さで次々と撃ち抜くことにした。
そこで改めて思ったけど、学園の前期試験は本当に役に立つね、魔法の試験でやった的当てがそのまま応用できちゃうよ。
「な……なんて速さなの?」
「それに加えて、ライトバレットとしても破格の威力ですわよ!?」
「これは……私たちの出番なし?」
「そうですね、私たちはアレス様の邪魔にならないよう気を付けながら、魔石やドロップ品の回収に集中したほうがよさそうです」
「うん……そうみたいだね」
「そうと決まれば、さっそく回収を始めますわよ!」
「せめて回収で遅れないようにしたいところ」
なんか、自然に役割分担ができてしまったね。
それはともかくとして、ピンポイントでどんどんスライムの核を撃ち抜いていく。
俺がスライムの核を認識したほぼその瞬間にはスライムボディに穴が開き、黒い霧となって消えていく。
この討伐ペースを少しでも速めるため、なるべく視野を広く保つとともにスライムの核を寸分たがわず狙う……外したら、それだけ時間のロスになってしまうからね。
そこで大規模魔法でドカンと一発っていう手もあるとは思うんだけど、発動までに多少時間がかかったり相応に魔力を消費したりするからさ、逆に効率が悪そうだなって思って光弾を選択したってわけだ。
そして魔力探知で2階の構造を調べてみたところ、どこもかしこもスライムだらけでセーフティーゾーンはないみたいだ。
また、当然というべきか戦闘中って感じの人間族の魔力も感じられない。
これは要するに、2階にヒナちゃんのお父さんはいないってことだね。
それから、3階以降に魔力探知を伸ばすことはできないみたいだ。
これはおそらくダンジョンさんサイドの認識として、階ごとに別空間だからつながっていないってことなんだろうね。
そのため3階なら3階、4階なら4階に到達したとき、階ごとに魔力探知を使うって感じになりそうだ。
あと、このダンジョンは時間の経過により構造が変わるといった仕様ではないみたい。
……となれば魔力探知で行き止まり等を無視して、最短距離で3階へ続く階段へ向かうことができるというわけだね。
とまあ、こんな感じでスライムダンジョンにアタックを開始したのだった。
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