第389話 ルールでもあるのかね?

 スライムダンジョンの2階を抜け、今は3階へ続く階段を上っているところ。


「ふむ、これがスライムのドロップ品であるグミというわけか……」

「はい、そのようですね」

「そして、スライムがものすっご~くたくさんいたのに……」

「ドロップ品は全てグミでしたわね……」

「ダンジョンの最初はそんなもの、仕方ない」


 光弾のアレスはダンジョン2階でとにかく撃ちまくりだったため、ドロップ品に意識を向ける余裕がなかった。

 しかしながら、階段の移動でひとたび集中状態が解けたことが影響したのか、腹内アレス君による「グミよこせ運動」が勃発した。

 ……まあ、それは仰々しい物言いというものだったかな?

 そして、魔力も体力も魔力操作で回復しながらだったので実際のところ必要ではないと思うが、気分的な疲労回復と味見の意味も込めてグミを食べてみようかな。


「というわけで、ちょいと試食……ふむふむ、この上なくオーソドックスなグミだな」

「はい、そしてこのグレープ味も、実にオーソドックスです」

「歯ごたえもオーソドックスって感じ?」

「みなさん……オーソドックス以外の感想はありませんこと?」

「疲労回復具合も……割とオーソドックス」

「……はぁ、もういいですわ」


 とまあ味見をしてみた結果、前世で普通に食べたことがありそうなグミだった。

 ちなみに、全員同じグレープ味だった。

 もしかしたら、2階で回収できるのはグレープ味のグミだけなのかもしれない。

 となると……3階では違う味のグミがドロップするということだろうか?

 まあ、味はともかくとして、物理戦闘だとなかなか苦戦させられるスライムのドロップ品がグミだけっていうのは、やっぱり渋いよな……

 とはいえ、多少の回復効果があるからまったくのマイナスってわけでもないのだろうけどさ。

 でも、それならほかのモンスターを狩ったほうが稼ぎの面ではやっぱりいいんだろうなぁって感じ。

 そんなことを思いつつ階段を上り切ったので、ここからは3階にアタック開始となる。


「……ここでもやっぱりって感じだな」

「はい、スライムがぎっしりですね」

「私たち、ダンジョンを出る頃にはグミ屋さんを始められそうだね!」

「そうねぇ、アレス様と一緒ならそれも悪くないかしら……」

「残念ながら、大量にグミを集められるのは大繁殖を起こしている今だけかもしれない」

「というかたぶん……回収したグミは売ることなく食べてしまう気がする」


 ……腹内アレス君が食べる気満々だからさ。

 でもまあ確か、前世の高校時代にクラスの女子が「グミはカロリーとかが低いからダイエットにちょうどいい」っていってた気がするからね、太る心配はないだろう。

 ……あくまでも食べ過ぎなければ、だけどね。


「まあ、無理に売ることもないですからね」

「あ、あはは~たとえばですよ、たとえば」

「アレス様がグミをお召し上がりになっているあいだ、わたくしは隣で紅茶をいただいておりますわね」

「隙あらばアピールを試みるヨリ……なかなか抜け目ない」


 それはそれとして、ザッと魔力探知を試してみたところ……3階にもヒナちゃんのお父さんがいる様子はない。


「おそらくこの階にもいなさそうなので、4階に続く階段へ最短距離で行こうと思う」

「かしこまりました」

「ドロップ品の回収ならお任せでっす!」

「真の淑女は、ドロップ品を回収する姿もエレガントなのですわっ!」

「……まあ、回収ペースが遅いわけでもないから、文句をいうのは控えておく」


 というわけで、3階でも光弾のアレスがスライムの核を撃ち抜きまくり、使用人たちが回収作業にあたる。

 フッ……見事な連携だね。

 こうして3階もアッサリと通過し、4階に続く階段へ。


「……思ったとおりというべきか、3階はドロップ品のグミの味にバリエーションが出てくるんだな」

「そのようで……私はアップル味でした」

「何これ! すっぱ!!」

「わたくしもですわ! レモン味だからといってここまですっぱくしなくてもいいでしょうに……」

「このダンジョン……グミ好きには意外と穴場?」


 ……まあ、スライムを魔法で倒せるならって感じだろうね。

 それはともかく4階……ここにもヒナちゃんのお父さんはいないようだ。

 とはいえ、今のところセーフティーゾーンも見当たらないしな、いるとしたらまだ先なのだろう。

 そんな感じで4階も最短距離で進む。

 そして階段にて、恒例のグミチェック。


「ほう、4階のグミは形状に変化が出てくるわけか……これなんか、ひもみたいだな」

「あ、それは……」

「う~ん、不味いぞ……しかも噛み千切れないし……」

「おそらくそれは、グミではなくゴムです」

「のあっ!?」


 ……どおりでって感じだよ!

 似たような感じで袋に入っていたから勘違いしたじゃないか……


「こっちのひもみたいなグミは……ちゃんとグミだね」

「まったく、紛らわしいですわね!」

「……あ、ゴムのほうの袋に小さく『食べられません』と書いてある」


 出たよ……ダンジョンさんのお茶目さがここにきて出てきちゃったよ……

 なんというか……この世界のダンジョンって、ウケ狙いのボケをかまさなきゃいけないルールでもあるのかね?

 まあいい、気を取り直して5階にアタックだ!

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