第474話 大事にしなさい

 始業式と生徒会任命式が無事終了。

 というわけで、教室へ移動。


「みんな席についたわね。前期に引き続きAクラスを担当するエリナ・レントクァイアよ、改めてよろしくお願いするわ。そして既にみんな顔馴染みかもしれないけれど、この時間は自己紹介をしてもらおうかしら」


 俺自身、前期Aクラスだった生徒の顔と名前が全員一致しているわけではないが、おそらく全員残留していると思う。

 そのため後期Aクラスは、Bクラス以下から昇格してきた奴が増えただけって感じだろう。

 まあ、もともと前期Aクラスは上位貴族の数的にそこそこ少人数だったからね。

 そんなとりとめのないことを考えているうちに、俺の順番が回ってきた。


「我が名はアレス・ソエラルタウトである。今期Aクラスに所属する実力者の諸君には何をいまさらと思われるかもしれないが、我は昨今の魔力操作離れの風潮を危惧しているところだ! ゆえに、いまひとたび魔力操作の重要性を再確認するとともに、それを周囲へと説いていけるような者と友誼を結びたいと考えている、以上だ!!」


 フゥ……後期の初っ端からガツンといったった!

 それに、先日のソリブク村やその周辺の村が不作で困るようになったのだって、武系から文系に移行する流れの中で魔力操作を蔑ろにするようになったからっていうのも原因の一つではないかと俺は思っているぐらいだしな!

 まあ、普段から「魔力操作狂い」だなんて呼ばれているぐらいなのだから、これぐらいかましてやったほうがちょうどよかろう。

 ……あと、この自己紹介もちょっとしたウワサになって小娘たちから「やっぱり、あの人はヤバいからやめとこう……」ってなることも多少は期待している。

 とまあ、そんな感じで生徒たちも各自、後期の抱負や夏休み中の武勇伝など思い思いのことを語りながら自己紹介を終えた。

 うむ、この王国も徐々に文系化してきているとはいえ、いまもなお武系を貫いている家もあるからね、そういう奴が語った「これこれこういうダンジョンに挑戦して~」みたいな話はなかなか興味深いものだった。

 そうして自己紹介を終え、ちょっとした連絡事項をいくつか伝えられたところで、これからよろしくねって感じで解散。

 さて、昼食の時間まで時間もあるし、ロイターたちに小娘のあしらい方のレクチャーでも受けに行くとしますかね。

 なんて思いつつ席を立ったところで声をかけてくる者がいた。


「……あなたから、微かに聖樹の匂いがする」


 原作ゲームにおけるエルフのヒロイン……その名もノアキア・イアストアであった。


「ほう……聖樹とな?」

「心当たりがあるなら、大事にしなさい」


 そう短く告げて、エルフのヒロインは去っていった。

 まあ、原作ゲームでも初登場時はこんな感じで、高飛車というかツンツンしていたからねぇ。

 それもそのはずというべきかヒロインらしく、管轄している森のエルフを束ねる族長の娘だか孫娘という設定だったからね、それ相応にプライドも高いのだろうさ。

 ちなみに原作ゲームでエルフヒロインルートを進むと、どういう原理かはよく分からないがエルフの秘術によってノアキアと一緒にハイエルフへと種族転生させられ、エルフ族の指導者となりつつ共に末永く幸せに暮らしましたとさっていうエンディングを迎えることになる。

 といいつつ、エルフヒロインルートもサラッと1周しただけだから、そこまでキッチリ覚えているわけじゃないんだよね……でも、だいたいそんな感じだったはず。

 それから、この世界において聖樹っていうのは珍しくはあるが、それを奪うため過激派エルフが襲いかかってくる……みたいな事態が発生するほど極端なものではないらしい。

 だからといって俺たちのような他の種族が粗雑に扱っているのを知れば、それなりに揉めることにはなるだろうから注意が必要である。

 また、長い年月をかけて聖樹が育っていくと、そのうち神聖樹という樹にランクアップするらしく、そこまでいくとさすがにエルフたちの目の色が変わるそうだ……なんとも怖い話だね。

 とまあ、そんなこんなで俺から聖樹の気配を感じたようだが「大事にしなさい」の一言で済ませたみたいだ。

 しかしながら聖樹か……可能性があるとすれば、トレントブラザーズかキズナ君かな?

 でもまあ、自分で名前を挙げといてなんだがトレントブラザーズは既に木刀やマラカスに加工されたあとだからなぁ……

 いや、俺なりにトレントブラザーズと心を通わせているつもりではあるので、彼らも生きている! と主張することもできるけどさ。

 それに聖剣モードで使用したときや、聖者(仮)にフォームチェンジしたときなんかは光属性の魔力をふんだんに流し込んでいるからね、可能性もなくはないといえるだろう。

 だが、先ほどエルフヒロインが声をかけてきたとき目線が腰に差したトレントブラザーズには向かっていなかったからね、やっぱ違うかぁって感じ。

 となると……やっぱりキズナ君かな?

 そりゃあね、俺のところに来るまでエリナ先生が育てていたのだから、普通の樹から聖樹へとランクアップしていてもおかしくなかろう。

 それに俺だって、エルフヒロインにいわれるまでもなく大事に育てているつもりなのだ。

 キズナ君がその気持ちに応えてくれているのだとしても驚くことではない。

 ま、いずれにせよ、これからもトレントブラザーズやキズナ君とは共に歩む仲間として仲良くやっていこう、改めてそう思った。

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