第170話 ちょっと待て
なんというか、宝箱で出てきたアイテムが若干微妙な気もするが……原作ゲーム的に考えればここは序盤のダンジョンなわけだから、そこでゴブリンキングの王冠……と腰布っていうのは、地味にレア物かもしれないと思い直した。
しかしながら、ボス部屋に入ってゴブリンキングの存在を確認したときも思ったが……俺の場合はアレス君ボディというチート級の魔力持ちだったから余裕で対処できたが、普通の冒険者パーティーだと全滅してたんじゃないか?
まず、単純に数がヤバかったし、並の攻撃力だと、キングの魔纏を突破できなかった可能性もあるしな。
……ああ、そうか、学園で朝ご飯を食べていたときに年長者っぽい物言いの坊やが「浮ついた気持ちで行くと大変なことになるぞ」って言っていたのはこういうことだったんだな。
小規模ダンジョンですらこれだもんな、もしこれが大規模ダンジョンだとどうなっちゃうんだろう?
……最奥のボス部屋を埋め尽くすのは、ドラゴンの群れ!! とかってなったら、無理としか言いようがないだろうね。
なので、この辺については、ダンジョン側にもしっかりと検討してもらいたいところだ。
そんなことを考えていると、転移陣が出現した。
なるほど、これで1階に帰れってわけだね。
そういや、先ほど消えた扉は……こちらもいつの間にか出現していた。
ふむ、自分の足で1階まで戻ることも可能ってわけか……でもま、とりあえず今日のところは転移陣で帰るとするかな。
……どんな感じか試してみたいし。
そう思いつつ忘れ物がないかを確認し、転移陣の上に乗る。
すると、転移陣が輝き出し……あっという間に1階の転移陣に到着。
……マジで、ほんの一瞬の出来事だったね。
そんな不思議な感覚を味わいながら、ダンジョンの出口に向かって歩いていく。
とりあえず、これでこのダンジョンは攻略したって感じかな。
そうしてダンジョンの外に出て、空を見上げる。
……夕暮れ前といったところか。
これなら学園の夕食にも間に合うね。
……そういえば、ファティマたちを模擬戦に誘ってたんだった。
ファティマたちが今日から参加するかどうかはわからんが、誘った側の俺がその日にいないっていうのは、あまり気分のいいものではないだろうからな。
そんなことを頭の片隅で考えながら、ギルドの出張所に向かった。
そこには、ダンジョンに入る前に受付で対応してくれたオッサンがまだいたので、声をかける。
「おお、アレス……もしかして、もうダンジョンを攻略したのか?」
「ああ、10階のボス部屋から戻ってきたばかりだ」
「やはりか……しかし、いくら小規模ダンジョンとはいえ、普通は攻略に数日かかるものなんだがな……それもソロではなく、パーティーでだ……」
「そうか」
「でもまぁ、そこはアレスだからというべきか……おっと、無駄話はこの辺にしておかなければな……それで、魔石やアイテムの換金か?」
「ああ、頼めるか?」
「もちろんだ、それじゃあここに出してくれ」
「まずは、こっちが魔石で……それでアイテムはこれで……」
そう言いながら、次々にマジックバッグから出していく。
「ふむふむ……やけに腰布が多いな、それに妙にキレイだ」
「ああ、それは浄化の魔法をかけたからだな」
「なるほど、そういうことか」
「とはいえ、念のため回収してきただけなのだが、果たしてこれに需要はあるのか?」
「あるぞ、この腰布を巻いているとゴブリンに襲われづらくなるっていう効果があるからな」
「へぇ……そう、なんだな」
「その効果についても『ゴブリンが親近感を持つから』とか、いろいろ理由は考えられているが、まだはっきりとしたことはわかっていないみたいだがな」
「ふぅん? そういうものなんだな……ま、それはそれとして、マジックバッグからアイテム類を出す作業に戻るとするか」
「……それにしても、魔石も結構多いな……ん? おい! ちょっと待てアレス!!」
「どうした?」
なんか、いつもの風景みたいな顔をして俺の作業を眺めていたオッサンだったが、急に慌てだした。
「……この冠……本当にこのダンジョンのものか?」
「ああ、それはボスの討伐報酬で出現した宝箱の中に入っていたやつだな……ダンジョンに入る前にゴブリンキングが出ると聞いて、多少期待はしていたのだが、それが初挑戦で出てきてくれたからな、まったくもって運がよかった」
「……これ、ゴブリンキングのものじゃないぞ……」
「……ん? どういうことだ?」
「……これは……ゴブリンエンペラーの帝冠だ」
「は? いやいや、出るのはキングだって言ってただろ?」
「……そのとおりだ……だからこそ信じられんのだ……」
なんということでしょう……異世界転生名物、イレギュラーが発生したようです。
……なんて軽いノリは、深刻そうな顔をしているオッサンに悪いかな。
「……そして、この魔石の大きさも、間違いなくエンペラーのものだ」
「そうなのか」
「……悪いが、今回のダンジョン探索について……最初から詳しく話してもらえるか?」
「まぁ、それは構わんが……」
「ありがとう、助かる」
そうして、今回のダンジョンアタックについて説明した。
とはいえ、ボス部屋にキング……じゃなかった、エンペラーとその家臣たちがズラリと勢ぞろいしてましたよってぐらいのことなんだけどね。
「……このダンジョンのボスは、基本的にゴブリンジェネラル1体だけだ……そしてそれがゴブリンキングだったとしても、1体だけで出てくるし……間違っても、そんな数では出てこないはずなんだが……」
「へぇ、そうだったのか」
まぁ、そうだろうなって感じ。
しっかし、あれがゴブリンエンペラーだったとはな……どうりでガッツあふれるナイスガイだったわけだ。
それに、魔纏を使えたことに対しても、より納得感が強まるね。
とりあえずこんな感じで、俺のダンジョン初挑戦は、実にイレギュラーなものとなってしまった。
ま、ギルドのオッサンに嘘つき呼ばわりされなかっただけ、よかったって感じかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます