第171話 なかなかにお人よしと見た!
「……正直なことを言えば、ゴブリンエンペラーの出現をまだ信じられない気持ちもある……だが、こうして証拠となるアイテムもあるし、何よりアレスがそんなくだらない嘘を言うような奴じゃないことも理解しているつもりだ……となれば……もしかしたらダンジョンが成長したのかもしれないな……」
「ほう、そうきたか」
ダンジョンの成長、これは原作ゲームでもあったことなので、別におかしいことではない。
それで、ダンジョンが成長するとどんなことが起こるのかというと、ダンジョン内のモンスターが強くなるとか、階層が増えるとか、そんな感じ。
そしてこれは、ゲームのやり込み要素として用意されたものって意味合いのほうが強かったと思う。
魔王を倒し、ヒロインと結ばれてめでたしめでたしってだけじゃ物足りないプレイヤーもいただろうからさ。
……まぁ、俺もやり込み要素は大歓迎だったし。
そんなわけで、原作ゲームの設定的にダンジョンの成長もあり得ることだとは思うんだけど……プレイヤーだったときの感覚からすると、序盤で攻略を終え、その後は見向きもしなかったダンジョンが成長したと言われても、しっくりこない部分があるのは否めない。
とはいえ、たまたまダンジョンさんがハッスルしちゃっただけって可能性もあるし、本当にダンジョンが成長していたなら、それはそれで、これから冒険者たちは頑張っていかなきゃってことになるだろうね。
「……とりあえず、このことはギルドの上層部に報告して、上の判断に任せるしかないな……悪いがアレス、もしかしたらそのうち呼び出しがあるかもしれない……そのときはさっきみたいにエンペラーが出現したときのことを話してくれないか?」
「ああ、わかった」
「ありがとう、感謝する」
まぁね、将来的に冒険者として活動していきたいなら、ここで変にゴネてもってところだろう。
「それと……魔石はともかく、この帝冠は売らないほうがいいと思うぞ?」
「そうなのか?」
「ああ、ゴブリンエンペラーの帝冠、これがあると、その一定領域内はエンペラーより下のランクのゴブリンが率いた群れから攻め込まれなくなるんだ。ちなみに、ゴブリンキングの王冠だと、キングより下のランクのゴブリンが率いた群れから攻め込まれなくなる。あと、これはゴブリンに限った話ではなく、ほかの種族のモンスターでも同じ効果がある。そんなわけで、冠は村や都市防衛には凄くありがたいアイテムとなるんだ。しかも、野生のゴブリンでキングやエンペラーまで進化できる個体はなかなかいないからな……その希少性も加味すれば、かなりのお宝といえるわけで、貴族間の交渉なんかにも用いられることがあるぐらいだ」
「なるほどなぁ……そういえば、腰布でも同じような効果があると言ってなかったか?」
「確かに、腰布にも襲われづらくなる効果はあるが、あれは装備した本人だけだ。規模が違うし、ただ置いておくだけで効果を発揮する冠とはかなり違う……ああ、冠もマジックバック内に入れたままだと効果がないから、そこは注意が必要だな」
「ふむ、そういうことか」
ダンジョンさん……それにエンペラーよ、冠をしょっぱいアイテムだと思ってしまって、申し訳なかった。
実はめちゃすごアイテムだったんだね。
それにしても、原作ゲームでそんな設定あったっけ?
というより、そもそもゲームではこっちより圧倒的にザコなモンスターと遭遇しても、戦闘画面に移らず瞬殺してテキスト上で処理されるだけだったから、冠みたいなアイテムは必要なかったともいえるしなぁ。
それはともかくとして……これがあれば、ソレバ村の戦士たち……リッド君の父親も命を落とすことがなかったかもしれないのか……そう思うと、なんだかなぁ……
「そんなわけで、持っていればこの先役に立つ場面もたくさんあるだろうから、今慌てて売る必要はないんじゃないか? それに、アレス自身がそのうち領地持ちになる可能性だってあるわけだからな」
「まぁ、そうだな……でも領地持ちか……」
「ははっ、領地持ちに憧れる奴も結構いるんだぞ? まぁ、逆に一つの場所に縛られるのは嫌だって奴もいるがな」
「まぁ、そうだろうなぁ……でもま、とりあえず今回はアドバイスどおり、帝冠は売らずに持っておくとするかな」
「ああ、それがいい」
ギルド職員としての成績を考えれば、たぶんさっさと売らせたほうがよかっただろうに……このオッサン、なかなかにお人よしと見た!
それから、エンペラーの腰布と、男同士の熱いハグを交わしたゴブリンの腰布は取っておくことにした。
まぁ、売ってもよかったんだけどさ……なんとなく、彼らの切なそうな顔が思い浮かんでしまったからね……忍びない気持ちになってしまって、売れなかったんだ。
とはいえ、ゴブリンの腰布自体は大量にあるからね、それでじゅうぶんだろうって感じではある。
あと、ナイトの剣やマジシャンの杖も売った……ま、そこまで高額ってわけでもなかったから、わざわざいうほどのものでもなかったかな。
というわけで、魔石やアイテムの換金も済ませたので、そろそろ学園に戻ろうか。
腹内アレス君も、「あんまりモタモタすんなよ」って言いたそうにしているし。
……あ、さっきの串焼きをまた買って、食べながら帰れば腹内アレス君もニッコリかな?
ついでだから、ロイターたちへのお土産として模擬戦後の反省会に出してやってもいいだろう。
でも、ファティマやパルフェナの女性陣にはドーナツとかのお菓子のほうが喜ばれるかな?
……ああ、前世なら「こんな時間にお菓子だなんて!」って文句を言われるかもしれないが、ここは異世界だからね、ファンタジー的強制力も働くだろうから問題ナシだろう……ダメなら持ち帰って次の日にでも食べてくれ。
そんなことを思いながら、美味そうなものを扱っている屋台を適当に何件か選んで買った。
そして、午前中ここに来たとき串焼きを買った屋台にも顔を出す。
「……串焼きを、今出せるだけくれないか?」
「お! さっきの兄ちゃんじゃねぇか!!」
「ん? 覚えていてくれたのか」
「あったりめぇよ! それにしても、出せるだけってぇことは、今日は頑張ったみてぇだな! これも、俺の串焼きで元気モリモリになったおかげかな? なんてな!! ははははは」
まぁ、ゴブリンの腰布マネーで懐が潤っているのは確かだ。
……いやまぁ、魔石とか武器類による稼ぎもしっかりあるけどね。
「よっしゃ、新しく焼けたのも入れて、52本だ!」
「おお、美味そうだ」
「だろう!?」
そんな感じで代金の支払いも終え、ようやくといった感じで学園に向かって歩き始めた。
もちろん、串焼きを頬張りながらね。
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