第820話 本質的に濃厚だということだろうね

「……というわけで、飛行しながら魔力交流をやろうと思う」


 まあ、出発前に魔力交流を練習してもよかったのかもしれないけど、飛びながらのほうがいくらか距離を稼げるかなとも思ったんだよねぇ。


「ほう、魔力交流ですか……」

「一応、そういう訓練法も聞いたことはあるけど……あんまやったことないなぁ……」

「まあ、他人と魔力を同調させなければならないし……1人で練習することもできないから、やや取り組みづらい訓練法と言えるかもしれんな」

「そうですね……それに最近は大きな戦争などもないため、他者と協力して魔法を発動させる機会などもあまりありませんし……」

「もしくはモンスターの氾濫とか、よっぽどデケェ奴の討伐でもないと、それこそ強大な魔法を使う必要なんかないもんなぁ……だから、だいたいみんな個人で魔法を使う練習しかしてないんじゃないか?」

「ふむ……現状だと、そんなものかもしれんなぁ……」


 しかも、協力して魔法を使わないといけない敵なんて明らかに各上だろうから、普通はそんな奴に挑まないだろうし……

 ただ……マヌケ族と戦争が起こってしまったら、使わざるを得ないときがあるかもしれない。

 マヌケなクソ野郎共だとはいえ、それなりに実力のある奴には並の魔法では通用しない可能性もあるからね……

 まあ、そういうことも含めて、今のうちに魔力交流を学んでおくことも悪くはなかろう。


「……とまあ、魔力交流の印象について語り合うのはそれぐらいにして、実際に始めるとしようか……そんなわけで、手の届く範囲で俺の左右にウインドボードを寄せてくれ」

「承知しました」

「オッケーです」


 そうして、俺の右側にワイズ、左側にケインが並んだ。


「普通は両手を合わせて円になってやるところだが……ウインドボードに乗っているし、今回は変則的におこなおうと思う」

「ほう、変則的に……」

「てことは、初っ端から応用編ってことですか! そいつはスゲェや!!」

「フッ、そこまで大げさなものでもないが、気分がノッてくれたのなら何よりだ……それでやることとしてはだが、まず、俺がお前たちの腰の辺りに手を当てて魔力を送る……これは、男はだいたい魔臓の位置が腹部にあって、少しでも近いほうが魔力を送りやすいと思ってのことだな」

「……なるほど」

「へぇ……んで、そっから俺らは何をすれば? こっちからも魔力を送り返せばいいんですかね?」

「そうだな、魔力を送り返してもらうことになるとは思うが……その前に俺の魔力と自分の魔力を同調させつつ、いつもの魔力操作の要領で一度全身の魔力経に循環させるという手順をこなしてから、俺に魔力を送り返してもらいたい」

「魔力を同調させつつ……」

「いつもの魔力操作をおこなってから送り返す……」

「そうだ……まあ、魔力を送り返すのは余力があればやってみるぐらいに考えてくれればいい……そして、魔力が足りないと感じてきた場合は、遠慮せずそのまま俺が送った魔力を使って飛行を続けてくれ」

「分かりました……その場合はありがたく、魔力を使わせていただきます」

「余力があれば……か、正直この程度のスピードでもガリガリ魔力を消費していってるから、あんまりそんな余裕はないかもしんねぇな……」

「まあ、今日は移動初日だし、あまり気負わずリラックスしながら飛行することを心がけるといいだろう……では、早速魔力を送るとしようか……」

「……ッ!?」

「こ、これは……!!」

「……ん? どうかしたか?」

「い、いえ……それなりに予想はしていたつもりだったのですが……やはりアレス殿の魔力は、我々のものとは質が大きく異なりますね……」

「ああ……信じらんねぇぐらい濃厚って言うか……圧力が強くて、ズッシリとしてらぁ……」

「……そうか? なるべく、軽やかな魔力を送るよう心がけてはいたつもりなのだがな?」


 まあ、俺もこの世界に来て最初の頃は、アレス君の魔力を魔力経に巡らせるってことになかなか苦労させられたもんなぁ……

 そして、今送っている魔力は、俺なりに軽やかで扱いやすくなるよう気は使っていたつもりだ。

 そうした上でも、俺の魔力は本質的に濃厚だということだろうね。


「この魔力を私の魔力経に循環させるわけですか……フフッ……これはなかなかの難題ですね……しかし! だからこそやりがいがあるというもの!!」

「だな! こんだけ濃厚な魔力を自在に扱うことができれば、普段の魔力操作なんか余裕になるってもんだぜ!!」

「ほほう、やる気が漲るのは実にいいことだ! そして、この濃度で物足りなくなったら言ってくれ、さらに濃度を増した特濃魔力をプレゼントしてやるからな!!」

「そ、それは……はい、ありがたいことです……」

「お……おう! そうだな……き、気合入れてく……ぜ!!」


 濃度を増すと言われ、いくらか歯切れは悪くなったものの2人とも頑張るつもりにはなってくれているようだ。

 うんうん、その頑張りがお前たちをさらに上のステージへと押し上げてくれることだろう!

 とはいえ、ワイズの本番はここじゃないからねぇ……


「まあ、帰りはともかく……行きについては、心身にかかる重圧のことなんかも考えて極端に無理をさせるつもりはないから、安心してくれ」

「そ、そうですか……いろいろと気遣いいただき、ありがたい限りです……」

「帰りはともかく……ね……ハハッ……この旅で、俺も大幅にレベルアップできそうだぜ……」

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