第821話 大変な経験
「クッ……やはり、アレス殿の……魔力は……」
「お、俺たちには……扱いが、ムズい……いや、ムズ過ぎる……ぜ……」
2人とも、汗びっしょり。
まあ、それだけ心身を酷使しているということなのだろう。
俺もなぁ、太っていた頃にやっていた魔力操作で脂肪が物凄く燃焼されていたのか、メチャクチャ汗だくになったのを記憶している。
うん、なんだか懐かしい気分になってくるねぇ。
ちなみに、濃厚で扱いづらいとはいえ俺の魔力が供給されているので、2人が魔力切れで飛行を継続できないということはない。
ただ、魔力などのエネルギー面は問題ないとしても……精神的な疲労というのはなかなか厄介なようでね、「魔力があってもシンドイ……」ってなっちゃうみたい。
そうした精神面についても魔力操作などの鍛錬で養うことはできると思うが、それも時間をかけて徐々にって感じになるだろう。
そんなこんなで、2人は精神的な限界を超えて飛び続けていると言っても過言ではあるまい。
でもまあ、そうやって限界を超える挑戦っていうのも、素晴らしい経験になるはず。
特に今なら、俺が付きっ切りでサポートできるからね。
それで仮にこの瞬間、気を失って落下してしまったとしても、すぐ助けてやることだってできる。
まあ、今のところ、そんな事態には陥っていないけどさ……でも、そういった準備も万端に整っているよって感じだ。
「ハァ……フゥ……私はまだ、いける……」
「へ、ヘヘッ……俺だって……」
「ほほう、2人とも! なかなか頑張るじゃないか!!」
「私とて……将来、メイルダント家で責任ある立場に……なっていくつもりなのですから……これしきのことで……!」
「そうとも、俺だって……誇りある、ツァマヌイ家の長男なんだ……負けてられっか!」
「うむうむ、その意気やよし! まっこと惚れ惚れするような男ぶりである!!」
「アレス殿に、そうまで言ってもらえたなら……より一層、頑張らないわけにはいきませんな……!」
「おうとも! やって、やるぜ!!」
ふむ……カラ元気に近いが、まだもう少しはどうにかできそうといったところかな?
とはいえ、まだ移動初日だからなぁ……
ここで無理をして精神がブッ壊れてしまったら、回復まで日数を要することになってしまうだろうし……そのあいだにミカルとトードマンの縁談が進んでしまっては目も当てられん。
そう考えると、ここらでいったん休憩を挟んだほうがいいか……
それに汗だって、だっくだくだし……
なんてことも少々思案し、地上の様子を見ながら休憩にちょうどよさそうな場所が見つかったところで2人に声をかけることにした。
「よし、この辺で一度休憩にしようか」
「……休……憩」
「おお……ありが……てぇ……」
そうして、見晴らしのよさそうな平原に降り立った。
「さて、まずは……」
「ハァ……ハァ……気が抜けたせいか、立っていられない……」
「俺も……もうダメだぁ~!」
そう言って2人は、地面に転がってしまった。
まあ、それだけ限界を超えた挑戦だったということなのだろう。
そんな2人のチャレンジ精神に、心からの称賛を贈りたいところだ。
「立っていられなくなるほどとは……2人とも、本当によく頑張ったな! よし、ここは俺が浄化の魔法で、お前たちの汗等をきれいサッパリにしてやろうじゃないか!!」
「か、かたじけない……」
「助かるぅ……もう、腕を動かすのすら億劫でぇ……」
「まあ、ウインドボードに乗るだけでも、それなりに疲労するみたいだしなぁ……よし、きれいになったぞ、それから……」
ここで、トレルルス特製のポーションを取り出す!
フフッ……こんなふうに頑張ったあとのポーションっていうのは、まさにカクベツだからね!!
「ポーションまで……ありがたい限りです」
「……くぅ~っ! 生き返ったァァァァァァァッ!!」
「ハッハッハ! そうだろう、そうだろう!!」
「フゥ……アレス殿にいただくポーションは、本当に飲みやすいですねぇ……」
「ああ! この甘味が、疲れた心と体に優しく染み渡るってもんだぜ!!」
「うむうむ、よく分かっているじゃないか! これぞ『ザ・ポーション』と呼ぶにふさわしい!!」
「ええ、それまでポーションは苦い物と思って生きてきましたからね……」
「そのトレルルスって錬金術師、マジで腕がいいんだろうなぁ……」
「まさしく、超一流だな! そして少し前、彼に弟子入りした少年少女たちがいて、きっとこの美味いポーションの製法を身に付けながら成長してくれることだろう……そうすれば、もっと世の中に広まっていくはず! 実に楽しみだ!!」
「その少年少女というのも、アレス殿に導かれてのことなのだろうな……」
「ああ、間違いなくな……さすがアレスさんだぜ……」
「そういえば……あの子たちと初めて会ったときも魔力交流で魔力を譲渡してやりながら、ただの草に魔力を込める練習をさせてたっけ……懐かしいなぁ」
「……なッ!? アレス殿の魔力を!?」
「おいおい、マジかよ……俺たちですら、アレスさんの魔力を扱うのに苦労してるっていうのに……」
「ん? ああ、あのときは俺があの子たちの魔力経の中まで魔力を動かすサポートをしてやったからな……受け取った俺の魔力を自力だけで操作していたお前たちとはやっていることのレベルが違うさ……それに、俺自身の魔力もあのときより濃度が増しているだろうし……」
「な、なるほど……いや、しかし……」
「なんていうか、アレスさんの魔力を扱うって大変な経験をしたその子ら……たぶん、普通じゃない伸び方をしていくんだろうなぁ……今日だけで俺自身、そんな気がし始めてるし……」
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