第822話 少しでも上達しておきたいよな?
「ふむ……日も暮れてきたし、今日の移動はこれぐらいにしておくか」
「ええ、そう……ですね……」
「おおっ……やっとか……」
まあ、たった半日で劇的に魔力操作が上手くなるなんてことはないからね……これは日々地道に取り組み、少しずつ上達に向かっていくという忍耐力が試されるものなのだ。
そして何より……魔力に対する深い愛情が必要であろう。
ただ……それなりに長い時間ワイズとケインは俺の魔力と触れ合っていたので、多少は慣れてくれたんじゃないかと思いながら地面に向かって降りて行った。
「こ、今度こそは……と思っていましたが……」
「くっそぅ……やっぱ、ヘトヘトで立ってらんねぇ……」
「フッ……だが、先ほどの休憩時よりは、いくらかマシになったのではないか? なぜなら、あのときはもっとヘロヘロで地面に転がっていたのだからな」
「とはいえ……堪え切れず、へたり込んでしまっています……」
「ああ……足が地面に接した瞬間、もう落っこちることはないって安心感が心に広がるのがダメなんだろうなぁ……それでアッという間に気が抜けちまって、このザマってわけさ……」
「ハッハッハ! 今日のところは、途中で落下せず飛び続けられたことを誇るがよかろう! そして、地面に戻ってきたあとまで緊張感を維持するのは、明日以降の課題とすればいい!!」
「明日以降の課題……ええ、そうですね……」
「とはいえ明日は朝から……それはつまり、今日の倍ぐらいは飛ぶってことだろうし……アレスさんとしては、もっとスピードを上げたいと思っているんですよね?」
「うむ、そうだな……まあ、それはそれとして、再度浄化の魔法をかけてやるとしよう」
「かたじけない……」
「浄化の魔法かぁ……やっぱ、こういうとき便利だし……俺も使えるように練習しとくかなぁ?」
「そうだな、浄化の魔法は何かと使い勝手がいいからオススメだ!」
「私はこれまで攻撃魔法ばかりを練習してきましたが……練習会でアレス殿たちが使っているのを見て、まずは清潔の魔法から練習し始めたといったところです……」
「ただ、俺って光属性があんまり得意じゃないんだよなぁ……だから、清潔の魔法ですら習得するのにどれだけかかるかって感じだよ……」
まあ、男って生き物は基本的に攻撃魔法が好きだからねぇ……
それに俺だって、魔法って聞いたら最初に攻撃魔法が思い浮かんじゃうぐらいだしさ……
ああ、でも……浄化の魔法を俺は身嗜みを整えるのに使うことが多いけど、アンデッドとかが相手だと立派な攻撃魔法になるはず。
そしておそらく、清潔の魔法だってアンデッドにダメージを負わせることができるだろうと思う。
ただ、そうはいっても、やっぱり場所や物を清めるとか、そういうイメージのほうが強いだろうからねぇ……
そんな浄化の魔法が攻撃魔法かどうか議論は置いておくとして、光属性が苦手ときたか……
であれば……
「ふぅむ、光属性が苦手ということなら……それも今回の旅をとおして、少しでも上達しておきたいよな?」
「エッ!? ま、まさか……これ以上のことを……?」
「ま、まあ私も、光属性はそこまで得意ではありませんので……上手くなるに越したことはありませんが……」
「よし、決まりだな! 俺が今日、お前たちに魔力交流で送っていた魔力は、なるべく扱いやすくなるようプレーンな感じの無属性にしていた……そこで、これからは光属性の魔力を送るとしよう!!」
「ただでさえ扱いの難しいアレスさんの魔力が……今度は光属性だって……?」
「は、果たして……我々に可能なのだろうか……」
「まっ! 2人の様子を見ながら光属性の割合を調節するつもりだから、そこまで身構えなくてもよかろうなのだ!!」
「そ、そっか……まあ、今日だって俺たちの実力をキッチリ把握して、ギリギリの絶妙なラインを維持してくれてたんだろうしなぁ……」
「ああ……この上なく気を遣ってもらっていた……」
「フッ、今回の旅の第一目的はトードマンを見定め、ワイズの想い人であるミカルにとって最良の結果となるようにすることであるが……それだけではなく、実力養成も目的としているからな! そのため、俺としてもできる限りのことをしたいと思っている!!」
「お、俺たちのためにそこまで……アレスさん……あんたって人は、どこまで熱く優しいんだ……」
「何から何まで、かたじけない……いずれ、このご恩に報いたいと思います」
「そうか! まあ、困ったときはお互い様ということで……そのときはよろしく!!」
「よっしゃ! 俺にできることなら、なんだってやりますよ!!」
「……必ず」
さすがにそろそろ、原作ゲームのシナリオどおりに追放を喰らうって可能性はほとんどないんじゃないかって気がしてきている。
ただまあ、原作アレス君が学園を追い出されるのは、3年のときだからねぇ……
そう考えると、まだまだ何があるのか分からんって感じではある。
そういうとき味方がいると、心強いというものだ。
とはいえ、あまり迷惑をかけたくないし、そもそも論として子爵子息に何ができるのかって話でもあるから、実際に何かをしてもらう可能性は高くないと思う……それでも、精神衛生上は助かる部分があるんじゃないかな?
とまあ、そんなこんなでポーションで心身の回復もできたことだし、早速街に入って宿の確保といきますかね!
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