第493話 僕たちも気合を入れて吟味しよう!
「これはこれは、女性泣かせのアレスさんではありませんか」
「フッ、この色男め」
「おいおい、お前らまでやめてくれよ……それに、色男具合ならそっちのほうがセンパイだろ?」
さっそく俺のウワサを聞きつけたのか、食堂に到着と同時にロイターとサンズがイジってきた。
そしてついでだから、メノとの食事についてロイターたちに報告しておいた。
ま、君らは女性関係のセンパイでありスペシャリストだからねぇ?
「……そのネバついた笑顔はヤメロ」
「アレスさん……僕らだってそこまでじゃないですからね?」
「フフッ……どうだかなぁ?」
「いや、そもそも女性関係で家の名を辱めるわけにはいかんからな、本当に派手なことは一切ないぞ?」
「はい、お食事だけです」
「ま! そういうことにしておきましょうかね!!」
「……その含みのある言い方はヤメロ」
「まあ、先に茶化したのは僕たちのほうでしたからね……これぐらいの反撃を受けるのは我慢しますか」
いや、本当に何もないのはこっちも分かってるけどね。
むしろ、そうじゃなかったらネタにできないしさ……
「それで、ルクストリーツ家か……確か子爵家だったな?」
子爵家だと?
てっきりデカても男爵家かと思ってた。
メノは「うちの領地はそこまで大きくありませんので」とかいってたけど、子爵家ともなれば相応にデカいはずだぞ?
そりゃ、ソエラルタウト領に比べれば小さいかもしれんけどさ……
なるほど、謙遜だったか。
「ええ、パルフェナさんのところのように、早くから農業に力を入れていた家ですね。それにルクストリーツの小麦といえば、なかなかのブランドだと記憶しております」
「へぇ、そこまでか……メノからはお菓子作りなんかも盛んだって聞いたのだが……」
「うむ、ルクストリーツのお菓子も近年注目を集め始めているな……かくいう私もいくつか食べたことがある」
「おそらくアレスさんも、お茶会などでそうとは知らずとも口にしていたと思いますよ」
「近年か……ふむ……」
どうだろう……マジで数年ぐらいだったら、もうあっちこっちで嫌われまくってる頃だろうからなぁ……
まあ、記憶を探ってみた感じ該当データはなさそうだけど……そもそも原作アレス君が産地とかメーカーみたいなものを気にするわけがないもんね。
たぶん、贈り物とかをどっかのタイミングで食べてて、その味が深い深い記憶の底に眠ってた……それを今日掘り起こされたって感じなのかもしれない。
だからこそ腹内アレス君が反応した……そう考えることもできそうだね。
……それに、原作アレス君の記憶って所々ロックがかかってて、よく分かんない部分もあるからねぇ?
「なんにせよ、その様子から察するに、メノ嬢とのお食事は楽しめたようですね?」
「うむ、そのようだな」
「まあな、悪くはなかった」
「おやおや……これは淡泊なお返事」
「サンズ……アレスなりにシブく決めたつもりなんだ、ここは黙って受け止めてやるのが男の優しさというものだろう」
「いや、そう口に出した時点で黙れてないだろ! まったく……困ったイジリ虫たちだよ」
「「「フフッ……ハハハハハ!」」」
そんな感じで、3人で笑い合う。
そう、このノリが気楽でいいんだよ!
やっぱ、学生はこうでなくちゃ!!
「おう、女泣かせのアレスさんじゃねぇか!」
「……トーリグよ、そのネタは今終わったところだ。まったく、実に遅い……これだから『トーリグはアカン』っていわれるんだよ、わかるか? ん?」
「はぁッ!? なんで俺が『アカン』っていわれなくちゃなんねぇんだよ!!」
「いやいや、物事には『間』っていうものがあってだな……それをお前が分かっていないのがいけない」
「んなもん、知るか!!」
「まあ、残念ながらトーリグじゃ、アレスさんをイジるにはまだ早かったってことだろうねぇ?」
「……反撃でお尻を蹴飛ばされないだけ、ありがたいと思ったほうがいいんじゃないかな?」
「……ふむ、『間』……か」
トーリグをおちょくるため適当に「間」がどうのといったのだが、ヴィーンは何やら噛み締めているようだ。
まあ、若干ヴィーンも天然なところがあるからな……とりあえずここはそっとしておこう。
というわけで、ヴィーン一行も合流。
ここで、こっちでも昼間の王女殿下について話題となった。
「まあ、徐々に秋季交流夜会が近付いてきていますからね……少なからず令嬢たちもピリピリし始めているのでしょう」
「うむ、今回は全学年が一堂に会するのだからな、前期とは規模も違う」
「それに、1年の前期だけで一生を添い遂げるカップル成立とまでは、なかなかいきませんからねぇ? ちょっとでもいい相手を見つけるため、各自必死なんだと思いますねぇ」
自分たちも相手を探さにゃならんだろうに、ハソッドが微妙に他人行儀な物言いをする……
「ハン! 俺としちゃあ、ヴィーン様のお相手にしっかりした女が見つかりゃ、それでいうことナシってもんよ!!」
「そうだね、ヴィーン様には誰がふさわしいか……僕たちも気合を入れて吟味しよう!」
なるほど、派閥の長が誰と結婚するかっていうのは、周りとしても重要なことなのだろう。
それも自分の結婚相手探しより優先しようと思うぐらいにね。
「……でも、ソイルは自分のことで忙しいと思うけどねぇ?」
「だな、この女たらしのソイルさんよ!」
「いや、そんなことないよぉ!」
「……お前たちも私のことばかりでなく、自分自身のことも考えてくれ」
「「「……はい」」」
まあね、周りが自身のことそっちのけだと、ヴィーンとしても気が気じゃなくなるだろうよ。
しかしながら……派閥っていうのは、こういう点についてもめんどくさいんだなぁ。
……これでどこまで自由な恋愛が可能なんだろうか? そんなふうにも思った。
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