第494話 よろしくてよ?

 今日は火の日……先ほど授業を終えて、これからエトアラ・トキラミテとかいう女子と昼食を共にするため中央棟の食堂へ移動中だ。

 それからメノとの食事以後、昨日の朝と昼、そして今日の朝で3人ほど女子と食事を共にした。

 しかしながら、その子らとはこれといった印象に残るエピソードはない。

 それはつまり、腹内アレス君が反応を示さなかったということでもある。

 ……まあね、腹内アレス君的に気の利いた手作りお菓子なんかを用意してくる子がいなかったからね。

 というより、そもそも食堂にケーキとかのデザートとなるお菓子や果物なんかが豊富に用意されているからね、わざわざお菓子を手作りしてくる子などほとんどいないのかもしれない。

 食堂で周囲を見回してみたときも、そういった物を用意していた子はいなさそうだったしさ。

 反対に、男子が何やらプレゼントしている姿は割と目にしたような気がする。

 それも「これは、どこどこから取り寄せた何々で~」みたいな感じでこれでもかってぐらいに自身の……というより実家の凄さをアピールしながらね!

 いやまあ、プレゼントしている物も確かに自慢する程度には珍しかったり凄い物だったりするんだろうけどさ……

 とりあえず、「それでお目当ての女子のハートをゲット出来たらいいね!」……なんて他人事ながらエールを送っておこうかな。

 そんなことをつらつらと考えつつ、待ち合わせ場所に到着。

 それからほどなくしてエトアラという女子がやってきた……ゾロゾロと取り巻きを引き連れて。

 初対面のときの態度からしてそれなりの家柄なのだろうとは思っていたが……やっぱりだったか。

 それにしても……この全員を相手に食事しなきゃならんの?

 割と大きめのテーブルが必要になっちゃうよ?

 なんて思っていると……


「それではエトアラ様、ごゆるりとお過ごしくださいませ」

「わたくしたちは、いつものところで待機しております」

「アレス様、本日はエトアラ様のことをよろしくお願いいたします」

「では、失礼いたします」


 なるほど、取り巻きたちはここまでついてきただけか。

 それで食事は俺と1対1というわけね……ホッとしたよ。

 まあ、夏休みの帰省に伴う移動やソエラルタウトの実家で複数人の女性と同じ空間を過ごすということは経験しているつもりではある。

 でもやっぱ、異性が相手だと思うと無意識にでも気を張っちゃう部分はあるからね。

 とはいえ、それがお姉さんなら同時に幸せエネルギーも湧いてくるんだけどさ。

 でも今回は全員学生っていう小娘ばっかだからね……そんなエネルギーも湧いてこないんだ。


「……何をぼんやりなさっているのかしら? 早くエスコートしてくださいまし」

「あっ、ハイ……」


 後期が始まってから食事を共にしてきた女子たちは、基本的にみんな向こうから気を遣ってきたって感じだった。

 なるほど、この辺からして今回は違うようだ。

 これはこちらも気合を入れていかねば……いいようにやり込められてしまうかもしれん。

 ガッツだぞ! 俺!!


「あらあら……わたくしが相手だからといって、そんなに緊張なさらなくてもよろしくてよ?」

「いや、そんなつもりではないのだが……」

「ふふっ、みなまでいわずとも分かっておりますわ」


 いや、なんか勘違いされてない?

 別に小娘相手にドキドキとかしてるわけじゃないんだよ?

 ただ、気を抜いて変な約束とかをさせられたりしたらマズいなって思ってるだけだからね?

 そんなこんなで席に着く。

 さて……まずはメシだな、そうじゃないと腹内アレス君が黙ってないからさ。

 そうして、食事自体は比較的穏やかに進んでいく。

 とりあえず、ここまでは特にこれといったこともないが……果たしてこのまま何事もなく終われるだろうか?

 なんてことも思いつつ、そろそろ魔力操作について語り出そうかとしたところで……


「さて、アレス・ソエラルタウト殿、これまで愚者を装っていたようですが……本格的にセス卿が後継者として動き始めたところで、もう御家争いになる事はないと判断して本来の才覚を発揮することにしたのでしょう?」

「……!!」


 ゴメン……それは偶然なんだ。

 いや、兄上がソエラルタウト家を継ぐのは原作ゲームからの既定路線だろうし、俺も兄上に押し付け……もとい! 継いでもらいたいなって思ってたけどさ。


「やはり……兄君想いの出来た弟殿ですわね」

「あ、いや、別に愚者を装っていたとかそういうのではない……単純に学園に入学してから魔法の面白さに目覚めただけだ! 面白過ぎて、今ではこうして魔力操作をしながら食事や会話なんかもしてしまうぐらいにな!!」

「ええ、ええ、分かっておりますとも」


 たぶん、分かってない……


「そしてこの夏、特に中央部の農村では、本来ならばもっと壊滅的な被害を受けるところでした……それを回避するきっかけとなったのがアレス殿だということも調べて知っておりますわ」

「……いや、経験と技術で被害を免れた領地もあると聞いているし、おそらく少しすればそれらから支援もあったであろう……よって、俺が果たした役割などさほどのことでもあるまい」


 なんか、やたらと持ち上げてくるが……どういうつもりだ?


「うふふっ、そこらの坊やたちなら自分の手柄だと誇るところですのに……謙虚な姿勢、実にいい」

「別に、謙虚なつもりはない……むしろ、俺ほど傲慢な男もなかなかおるまい」

「オーッホッホッホ! そんな口調程度で傲慢なつもりなら可愛いものですわね! もともと能力的に合格のつもりでしたが、人格も嫌いではありません。であるならば、あなたをトキラミテ侯爵家の……そして、わたくしの婿として迎え入れてあげてもよろしくてよ?」

「な……え!?」

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