第674話 テクニカル

『さぁっ、3回戦第1試合! アレス・ソエラルタウト対ヴィーン・ランジグカンザの試合が始まりました!! ここまでの1回戦、2回戦と見どころたっぷりな試合を展開してきた2人ですが……スタンさんはこの試合、どう見ますか?』

『はい、これまでの試合を観てきてだいたい想像がついているかもしれませんが、アレスさんは対戦相手の戦闘スタイルに合わせた闘い方を組み立てていきます。そのため、今回もヴィーンさんに合わせた闘い方をしようとされるでしょう。そこでヴィーンさんはというと、こちらも魔法や物理などどれも高水準でこなすので、同じく相手の戦闘スタイルに合わせた幅広い闘い方ができます……ただ、その中でも一番はやはり、相手の不意を突いたテクニカルな闘い方がヴィーンさんの真骨頂といえるでしょう。そういったことを踏まえて試合展開を予想するとするなら、不意を突いた攻撃を狙うヴィーンさんに対し、アレスさんが一つ一つ丁寧に対処していくといったテクニカルなものになっていくのではないかと思います』

『なるほど、どんな攻撃が繰り出されるのか、そしてそれをどう対処していくのか……一瞬たりとも目の離せない攻防が繰り広げられていきそうですね?』

『ええ、ヴィーンさんの攻撃は本当にタイミングがつかみづらいので、我々もよくよく注意しながら観ていかねばならないでしょうね……』

『そうですね……というわけで私も! 集中して実況していきたいと思います!!』

「……ふぅん? 解説の奴によると、あのアレスって奴はやたらと相手に合わせたがるらしいが……なんでそんなことする必要があるんだろうな?」

「確かに……今回だって、ヴィーンって奴の不意打ち戦法にわざわざ付き合う必要なんかないだろうしなぁ……」

「だよな! そんでもって、遠距離から魔法を撃ちまくればいいだけなんだろうしさ!!」

「いや……魔法は難しいんじゃないか? ヴィーンって奴は2回戦のとき、阻害魔法とかっていうの使ってたって解説されてただろ?」

「ああ、そうだっけか……」

「でもよ……アレスって奴なら、その阻害魔法っつーのにも負けずに魔法を使えるんじゃねぇのか?」

「そういえば1回戦のとき、対戦相手の魔法の支配権を奪ったとかいってたよな? そういうことができる奴なら、阻害魔法とかいうのにも負けるはずねぇだろ!」

「う~ん……とりあえず、今んところどっちも魔法は使ってないのかな? 剣術勝負って感じで打ち合ってるだけだし……」

「まあ、俺たちには分かんねぇけど、阻害魔法っていうのを使っているからこその剣術勝負なのかもしれないけどな?」

「うぅむ……あえて魔法を使っていないのか、それとも使えないのか……」

「ふと思ったんだが……アレスって奴も阻害魔法を使えたりしないか?」

「……ッ!? な、なんとなくだけど、できそうな気がする……」

「もし使えるとしたら……お互いに魔力の無駄遣いとなりそうだな……」

「そっか……となるとやはり、解説の奴がいっていたとおりの展開になっていきそうだな……」

「……なんか、話があっちこっちいったけど、結局のところなんでアレスって奴は相手に合わせた闘いをしたがっているんだ?」

「さあ……なんでだろうね?」

「んなもん、知らねぇよ! 自分で考えやがれ!!」

「いやいや……お前もなんで急にキレてんだよ……」

「まあ、たぶんだけど……『俺はどんな闘い方だってできるんだぜ?』みたいなことをいいたいだけなんじゃないの?」

「なるほどねぇ……自分の器用さアピールって感じか……」

「最終的にいえば、強さアピールってことだろうなぁ……」


 ふむ……ヴィーンめ、セテルタとの試合を経て、さらに腕を上げたか?

 こうやって実際に打ち合ってみると、夕食後の模擬戦のときより一つ一つの動きが洗練されているように感じるからね……


「……おわっと!」

「……惜しかった」

「やるじゃん! 今のはビックリしたぞ!?」

「……驚かせるだけでは意味がない」

「そういうなってーのッ!!」

「……ふむッ!」

「ハハッ! 受けてばっかの俺だと思うと痛い目を見るぞ?」

「……じゅうぶん承知している」

「そう……かいッ!!」

「……うむッ!」


 相手の不意を突いて攻撃するというヴィーンのタイミングのつかみ方……これはぜひとも俺も身に付けたい技術である。

 でも……なかなか難しいんだよなぁ……

 これまでに重ねてきた夕食後の模擬戦でも、その辺のところを重点的に学び取ろうとしてきたのだが……どうにも、まだまだって感じなんだよね……


「……おぉっと!」

「……これも躱されたか……では、次」

「おっ! とっ!!」

「……まだまだ」


 まあ、ヴィーンは不意を突くだけの男ってわけでもないからね……通常の攻撃だって圧力バリバリでくるのだ。


「だが、俺だって剣の腕で負けるわけにはいかんからな!」

「……それは、こちらとて同じこと!」

「よっしゃ! ガンガン行くぜ!!」

「……望むところ!」


 序盤はやや丁寧めな打ち合いが続いていたが、お互いエンジンがかかってきたとでもいうように勢いを増していく。


「……っぶねッ!!」

「……残念」


 こうしてヒートアップしてきたかってところで、急にタイミングをずらした攻撃を加えてくるのがヴィーンのテクニカルなところといえるだろうなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る