第675話 この流れ……

「ほう! やるな!!」

「……さらに、もう一撃」

「させるか!」

「……ならば……ここだ」


 ヴィーンが基本的に修めている剣術としては王国式である。

 そして俺も、兄上やロイターたちから王国式の基礎的な部分を教えてもらっているので、組み立ての流れとして次にどのような攻撃が来るかってことがイメージできる。

 ただ、そのイメージできるってことが、ヴィーンを相手にするにはむしろマイナスだったりする。

 というのが、「次はこう来るだろうな……」って体がオートで対応しようとしちゃうんだよね……そしてヴィーンは、その瞬間を上手く利用して想定外の攻撃を加えて来るのだ……

 しかも、全ての攻撃がそうなるわけではなく、そのままセオリーどおりの流れで攻撃してくることも多々あるので、その瞬間その瞬間できちんと対応していかないといけないのが難しいところだ。

 だが……それこそが学びとなるのだ!

 というわけで、ヴィーンとの対戦はフェイント力の養成にうってつけといえるだろう。

 とはいえ、ヴィーンのフェイントをマネするのは難易度が高いので、どちらかというとフェイントへの対応力向上のほうが見込めるだろうなって感じだ。


「ほほう! ここでラッシュをかけてくるか!!」

「……ああ!」


 そして突然、トーリグを想起させる勢い全開の攻撃も仕掛けてくるのだ。


『ヴィーン選手! 技巧的な攻撃から、突如として猛然と攻めかかります!!』

『ヴィーンさんは緩急の付け方が実に上手いですからね……ここは対応力の高いアレスさんだから付いて行けましたが、普通ならそのまま勢いに飲まれて終わっていたかもしれません』

『あっと! ヴィーン選手! ここでまた急にスローペースに!!』

『この急に攻撃のテンポが変わるというのは、対応する側としては実に厄介なんですよね……』


 そうだね……俺もそう思うよ。

 だからこそ、素晴らしいんだけどね!


「セテルタ戦に続き……あの地味なヴィーンが、ここまでやるとはねぇ……」

「ホントにね……『まさか!?』って感じだよ……」

「まあ、魔力操作狂いのことだから受けメインで試合を組み立てようとしてるんだろうけどさ……それでも、この試合のヴィーン……なかなかいい感じだよな?」

「うん、今日一番の出来って感じがするね!」

「ああ、こうやって観てるだけでも、マジで充実してるなっていうのが伝わってくるもんなぁ……」

「このままヴィーンの奴……魔力操作狂いに勝っちゃうなんてことはないかな?」

「う~ん……さすがにそこまではどうなんだ?」

「いい試合をしてるのは確かだけど……魔力操作狂いに勝つまで行くのは厳しいって……」

「だなぁ……いくらヴィーンの技術力が高いといっても、対する魔力操作狂いだって、いつの間にか剣の腕をメチャクチャ伸ばしてたわけだし……」

「前期の途中ぐらいまでなら、どうにかなりそうだったのにね……ホント、急激に腕を上げたなぁって感じだよ……」

「うむ……あのレミリネ流とやらがどうのこうのと言い出した辺りから、飛躍的に剣技の向上が見られたものなぁ……」

「……あれ? ……ということはだよ? レミリネ流を学ぶと、急速に強くなれるってことなんじゃないか!?」

「……ッ!!」

「エッ!?」

「おいおい、いくらなんでもそれは……いや、でも……もしかして?」

「謎多きレミリネ流剣術……なるほど、なるほど……ボクもスタン君同様に追いかけてみる価値があるかもしれないねぇ……」

「そ、そうか! レミリネ流とかっていうのを学べば……僕も強くなれる!?」

「ゴクリ……」

「ふむ……この流れ……乗っとくべきか?」

「……しょうがないなぁ……迷ってるお前らの背中を押すであろう言葉を贈ってやるとするか……」

「背中を……押す?」

「な、なんだい……それは?」

「それにはまず、あの辺に座ってる女子たちを見てみるこったな……ほら、あの辺だ……」

「あの辺の女子……」

「どれどれ……」

「アレス様がご披露なさっているレミリネ流剣術……見れば見るほど、惚れ惚れとさせられますわね……」

「ええ……実に美しい……」

「先ほどティオグさんが見せてくださっていた舞鶴流刀術も優雅で素晴らしいものでしたが……わたくしは、このレミリネ流剣術のほうが好みですわ」

「そうですね……私もそう思います」

「……よしっ、私も! この武闘大会が終わったら……レミリネ流剣術を始めます!!」

「あら、あなたも決意なさったの? 良い判断よ、共に頑張りましょう」

「はいっ!」

「……どうだい? これでもう、俺が何をいいたいのか分かったんじゃないか?」

「ああ! もちろん!!」

「今始めれば、あの子たちと一緒に……これは、チャ~ンス! ってわけだね?」

「凄い……凄過ぎるよ! 剣術を学びながら、女の子たちと仲良くなれるかもしれないだなんて!!」

「この流れ……乗るしか!!」

「まったく、女子がどうとかって……ここには不純な動機の奴しかおらんのか……」

「ぼ、僕は! そういうの関係なしに学びたいって、最初から思ってたし!!」

「あ! お前、ズルいぞ!!」

「フ、フン……! 俺だって、純粋に強くなるためには何が必要かと模索していた上でのことだからな……!!」

「まあまあ、動機なんてどうでもいいじゃないの……要は強くなりさえすればいいんだからさぁ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る