第676話 常駐
「……ハァ……ハァ……」
「どうした、ヴィーン? もう限界か?」
「……そんなことは……ない……!」
「おっ! 今の突きは絶妙だったな!! いいぞ! もっともっと楽しむぞ!!」
「……もちろん……だ!」
『この試合もだいぶ長引いてきましたが……ここにきて、ヴィーン選手に疲労の色が見え始めてきましたね? 対するアレス選手は、まだまだ元気いっぱいのようですが……」
『ええ、一つ一つの攻防に魂を込めて打ち合っているわけですから、疲労していくのは当然といえるでしょう……そこでスタミナ量がポイントとなってくるわけですが……これは明らかにアレスさんのほうが多いですからね……』
『なるほど……剣術勝負としては、見た感じ拮抗した状態が続いている現状、このままだとスタミナ量に優れるアレス選手がどんどん有利になっていくというわけですね?』
『はい、間違いなく……』
『となると……ヴィーン選手としては、ここらで現状を打破する一手を繰り出したいところですね?』
『はい、それもアレスさんの対応力を超えた一手ですからね……ヴィーンさんもなかなかの難題にチャレンジすることになりそうです』
まあ、試合が始まってからずっと打ち合ってきたからね……そりゃあ、体力的にも精神的にも限界が近いよねって感じである。
しかしながらヴィーンの目には、まだまだ闘志が宿っている。
それはつまり……まだまだ闘いを楽しめるということである! やったね!!
「ひゃ~っ! 魔力操作狂いの奴……おっそろしい笑顔を浮かべてやがらぁ!!」
「かわいそうに……ヴィーンの奴……」
「まあね、ヴィーン君もここまでよく頑張ったよ……もうじゅうぶんだよ……」
「うむ……実際『これは!』と思える攻撃を何度も繰り出していたからな……まあ、どれも魔力操作狂いに防がれてしまったのは残念というほかないが……」
「ていうか、魔力操作狂いって防御力高過ぎだろ……なんなんだよ、アイツ……」
「さっき……レミリネ流を習うだのなんだの騒いでた連中がいただろ?」
「……ん? ああ、まあ……あの辺に座ってた奴らのことだな……それがどうした?」
「あの連中……レミリネ流を習いさえすれば簡単に強くなれるみたいに勘違いしているようだが……決してそんな甘いものではない……俺はな、魔力操作狂いが話していたのを聞いたことがあるんだ……」
「話していたって……何を?」
「お前らも知ってのとおり、奴は夕食後にロイターたちと模擬戦を繰り返すなどして鍛錬を欠かしていない……まあ、それだけならやってる奴もそこそこいるから特別驚くには値しないだろう……でもな……奴はそれだけじゃないんだ……」
「それだけじゃ……ない?」
「いやいや、特別驚くには値しないって……この本戦の残り具合からしても分かるとおり、アイツらの鍛錬量エグ過ぎでしょ……」
「正直、俺なら3日と持たないだろうなぁ……」
「うん、僕もそう思う……」
「まあ……とりあえず続きを聞こうぜ?」
「それでな……奴はなんと、体を動かしてないときも暇さえあれば脳内でずっと模擬戦を続けているんだとよ……それも、剣術を教わったというスケルトンナイトを相手にな……」
「えぇ……」
「脳内で……模擬戦?」
「確か、そのスケルトンナイトっていうのが、レミリネっていう騎士なんだっけ……?」
「元が女性騎士とはいえ……ちょっと不気味……」
「ちょっと……なのか?」
「とりあえず、なんか難しそう……」
「そしてもちろん、魔力操作も並行して練習しているらしい……」
「もちろんって……」
「ふむ……脳内とはいえ、模擬戦をしているわけだから……魔法を使うイメージなどをして自然と魔力操作もすることになるのかもしれないなぁ……」
「その辺のところはよく分からんけど……なんていうか、鍛錬し過ぎじゃね……?」
「アイツの頭の中って……鍛錬のことしかないのか……?」
「う、う~ん……割とそうなんじゃない?」
「ま、まあ……魔力操作狂いだからなぁ……」
「そんなわけでな……確かに期間は短く感じるかもしれないが、鍛錬の密度がハンパじゃないということだけはいえるというわけだ」
「要するに……奴は鍛錬に全力で集中してるってわけか……」
「しかも、あの保有魔力量で全力なんだ……そりゃ伸びるのも早いわな……」
「それらもひっくるめて……才能ってやつなのかねぇ……?」
「たぶんだけど……才能を言い訳に逃げようとしたら、奴にキレられそう……」
「ああ、間違いなくな……『ゴチャゴチャいう暇があったら! 魔力操作をしろ!!』って怒鳴られるだろう……」
「そして今度は『脳内で模擬戦をしろ!』っていわれちゃうのかなぁ……」
「彼のことだから、その可能性は高そうだね……」
「こうやって話していると……アイツの防御力の高さも納得できてきたって感じだな……それにこの試合だって、終わったあとは脳内で反芻して対応力を磨く材料としていくんだろうしなぁ……」
「……じゃあさ、じゃあさ! 俺たちも頂いちゃおうぜ!!」
「おい……ひょっとしてそれは……俺たちの脳内に魔力操作狂いを常駐させるってことじゃないよな?」
「う~ん……魔力操作狂いが嫌なら、ヴィーンでもいいんじゃない? ほかにもロイターやシュウ……参考になる奴なら誰でもいいわけだし」
「……魔力操作狂いが脳内にってなると……模擬戦どうこうより、1日中『魔力操作をしろ!』っていってきそう……」
「あり得る……」
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