第333話 支えてくれる女性

「2人とも、今日はそれぐらいにしたらどうかしら?」

「……おっと、もうこんな時間か……そうだね、今日のところはここまでにしよう」

「ご指導いただき、ありがとうございます!」


 兄上にカイラスエント王国式剣術の手解きを受け、それもある程度したところで型稽古に近い模擬戦をしていた。

 というのも、教えてもらった王国式の技なんかを使いながらだったからだ。

 まあ、基本的に俺の使用剣術がレミリネ流であることに変わりはないが、自分自身でも王国式を使ってみることで「こういう場面ではどう動くのだろうか?」みたいなことをつかむことができそうだからね、試してみたんだ。

 そんなわけで、俺の付け焼き刃の王国式では熟練者である兄上に及ぶわけもなく、ひたすら稽古を付けてもらうという格好になってしまった。

 とはいえ、これは学ぶための模擬戦なので勝敗はあんまり関係ない。

 それに、俺のメインはあくまでもレミリネ流だからね!


「アレス様、タオルをどうぞ!」

「おう、さんきゅー」

「どういたしまして!」


 まあね、実際のところ浄化の魔法で一発なんだけど、それだと情緒ってもんがないだろうからね、ありがたく使用人の女子からタオルを受け取っておいた。

 加えて、兄上も義姉上に汗を拭いてもらうというイチャイチャを見せてくれているしさ。

 うむ……あの様子だと、兄上の子供が生まれてくるのも時間の問題だろうね。

 さあ、兄上の子供たちよ! 遠慮せずどんどん生まれてくるがいい!!

 そして、立派にソエラルタウト家を継いでいってくれい!!

 そんなことを思っていると、イチャイチャが一段落したらしい兄上がこちらにやってきた。


「それじゃあ、これからひとっ風呂浴びてこようか」

「はい、喜んで!」


 兄上からのお誘いにノーはありえない!

 それに、共に風呂ともなれば、なおさらね!!


「私も一緒に入れたらいいんだけどねぇ」

「母上……それは父上の嫉妬を買うのでご勘弁を……」


 義母上とお風呂……だと?

 ……いかん! 考えただけで鼻血が出そうだ!!

 そうだ、こんなときこそ魔力操作だ! 冷静に! 心を落ち着けて! クール神よ! 我にクールな精神を授けたまえ!!


「本当に残念だわぁ……それじゃあマイネちゃん、女は女同士といこうかしらぁ?」

「はい、お義母様」

「2人とも~また明日ね」

「セス、またあとで」

「うん、分かった」


 フフッ……我が呼びかけに一瞥くれただけとは……クール神もなかなかにクールなお方でいらっしゃる……

 だが、それがまたクールでいい……

 我もそうでありたい……

 どこまでもクールに……


「……ス……アレス……お~い?」

「……ハッ!?」

「凄い集中力だったけど……急に魔力操作に没頭されるとビックリしちゃうよ」

「あはは……スミマセン」

「まあ、いいけどね……それじゃあ、僕らも行こうか」

「はい!」


 そんなわけで、兄上と大浴場へ。


「今日も母上のお茶の相手をしてくれてありがとうね」

「いえいえ、義母上たちの学生時代の話とか、とても興味深い話をしてもらえたので、嬉しかったですよ!」

「母上たちの学生時代……ああ、いつも冷たそうに振舞ってる父上だけど、内心は寂しがり屋なところを幼馴染なこともあって、母上にはバレバレだったって話かな?」


 そっか、幼馴染だったのね……


「ま、まあ、ク……親父殿はなかなか繊細なようですね」

「そうだねぇ……生真面目というか……余裕がないというか……たぶん、母上が支えていないと、どっかでポッキリいってたんだろうなぁ……」


 まあね、普通なら「王国一の超絶有能美女を嫁にもらった上に陞爵!? それってごっつラッキーやん!!」となるところを「ボクちんは、自力で侯爵様になりたいんだい!!」って駄々をこねてたぐらいの融通の利かなさだからねぇ……


「それに……リリアン義母上という魔法の天才が妻……父上も優秀なだけにその差もよく理解できて、劣等感が凄かったんだろうなぁ……」

「そんなに母上は凄かったんですか? 実は母上のことって、あんまり分かんないんですよね……」


 こればっかりは記憶にガッチリとプロテクトがかかっているからね。

 まあ、それだけ原作アレス君にとって、自分だけのものにしておきたい大事な思い出なのだろう。


「そうか……リリアン義母上が亡くなったとき、アレスはまだ小さかったもんね……」

「……はい」

「まあ、既に母上から聞かされてると思うけど……当たり前のように魔法でなんでもできてさ……例えばそうだなぁ、他家の領地で大規模なモンスターの氾濫が発生したときなんか、救援のため父上がある程度の犠牲も覚悟しながら本気で領軍を動かそうとしていたのに、リリアン義母上はちょいと行ってサクッと魔法で片付けてくるなんてこともあってね……」

「ま、まあ……魔力量さえあれば、範囲攻撃はむしろ得意分野でしょうから……」

「ははっ、あれは得意とかそういうレベルの話じゃなかったと思うけどね……でも、あの当然っていう顔がカッコよくてさ……本当にキレイだなぁって思ったもんだよ」

「なるほど……」


 あれ、もしや兄上もお姉さんのステキさを解する者でいらっしゃる?


「そこで改めてアレスを見てみると、そんな強くてカッコいいリリアン義母上のことが思い出されるよ」

「そういえば、義母上も私が母上に似ているとおっしゃっていましたね」

「うん、今のアレスは、リリアン義母上が男装したのかなって思うぐらい、すっごく似てる」

「そうでしたか……自分ではあまりよく分からないもので……」

「まあ、そんなものかもしれないね」


 原作ゲームでも、魔王復活のためにエネルギーを吸われる最期の瞬間だけ、原作アレス君は物凄くイケメンに描写されてたからなぁ……

 そのイケメンぶりは母上由来のものだったということだね。

 それと、みんなが口をそろえて母上が美人だったっていってるけど、正直この世界の美の基準って、俺の前世感覚が影響して地味によく分かってないんだよね。

 だって、元がゲームキャラなだけに、みんなカワイイしキレイなんだもん!

 特に俺ってサブヒロインとか、なんだったらモブのお姉さんのほうがよくね? とか思っちゃうタイプだし。

 いやまあ、その中でもなんとなく、華やかだなとか、雰囲気というかオーラがあるって思ったりはするから、そういうのがこの世界の美の基準に関わるのかもしれないね。


「とまあ、そんなふうに父上の背中を見ていたのもあってさ、自分の結婚相手を文系貴族から探したっていうのもあるね……どうだい、なかなか僕も器が小さいだろう?」

「そ、そんなことありませんよ! それに、義姉上とはとっても仲良しではありませんか! あ、あと、領地経営のことを考えれば、文系貴族出身のほうがより手腕を発揮できるのでは?」

「うん、マイネは僕にとって最高にして最愛の女性さ、それは当然。そして、アレスのいうとおり、仕事でもマイネにはよく支えてもらっているよ」

「そ、そうですよね」

「……アレスも、そんな支えてくれる女性を探すといいよ、これは絶対おすすめ」

「はい……いつになるかは分かりませんが、肝に銘じておきます」

「うん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る