第285話 嬉しそうにしていたものね

「それじゃあね」

「みんな! また明日も頑張ろうね!!」


 先ほど模擬戦の反省会を終え、ファティマたちは大浴場の女湯へ向かった。

 そして、俺たちもこれから男湯へ向かう。

 もちろんそこには、ソイルだけじゃなくヴィーンたちも一緒だ。

 まあ、ソイル絡みで関わり始めが微妙だったトーリグとハソッドは多少の気まずさがありそう。

 しかしながら、それはいまさらというものだろう。

 また、相変わらず口数の少ないヴィーンは、「一緒に入るぞ!」と俺がいえば、「……ああ、分かった」と返すだけ。

 ただ、これでも喋ったほうらしく、普段なら無言で首を縦に振るか横に振るかってだけのことが多いみたい。

 ……なんというか、「男は黙って……」を実践し過ぎぃ! って感じがしちゃうよね。

 とまあ、それはそれとして風呂だ!

 今日もいい汗をかいたからね、これが何よりの馳走というわけさ!!

 ……腹内アレス君には「何より」という部分で納得いただけなかったけどね。


「ほう、トーリグはなかなか鍛えているみたいだな、結構いい感じに筋肉が付いてるじゃないか」

「まあな、俺はどちらかというと、魔法より剣だし」

「ハソッドも、トーリグほどじゃないが、悪くない筋肉の付き具合だな」

「いやぁ、僕はもともと魔法のほうが得意だと思ってたんだけどねぇ……恥ずかしながらソイルの魔法を阻害する魔力のことに気付かなくてさぁ……魔法の調子が悪いから仕方なくって感じで、鍛え始めたのは割と最近なんだよねぇ」

「なるほどな、だが原因も分かったことだし、これからは体を鍛えつつ魔法の練習もしっかりできるぞ! やったな!!」

「まあな」

「そうだねぇ」


 多少打ち解けたところで、話し方がオラオラ系のトーリグと、モッタリ系のハソッドって感じ。


「フッ、ヴィーンよ! お前もよく絞れてていい感じだぞ!!」


 そういいながら、背中をビタビタと叩いてやる。


「……ああ、私も少しぐらいはな」

「いいね! いいねぇ! ははははは!!」


 そうして、ついでだから肩を組んでみた。


「あの、アレスさん……なんというか、その……」

「まあ、こうしてまたお前と模擬戦をして風呂にも入ることができるのだ、アレスもテンションが上がっているのだろう」

「アレスさんは意外と地味にスキンシップが多いですからね……それに、苦労して今の体型に戻したこともあって、ほかの人の体型も気になってしまうのでしょう」

「えっと、その、そうですね……」


 とまあ、こんな感じでいつものメンバーにヴィーンたちも加えて風呂を楽しんだのだった。

 そうして風呂から上がったあとは、自室にて読書をしながら筋トレ。

 それも一段落すると、最後は寝る寸前まで精密魔力操作だ。

 こうした濃密な魔力との語らいを経て、ようやく俺は眠りの世界へ旅立つ。


『オオオォォ!!』

『イシノ、キドウガ……カワッタ!?』


 投石スケルトンの投げた石がカーブしたことで、多少面食らったらしいゲン。

 それにしても、投石スケルトン……何気に器用な奴だな。

 そして、別な方向に目を向けてみると……


『ギャ! ギャ!』

『カタ! カタ!』

『オォ! オォ!』


 ゴブリンハグやバターナイフスケルトン……その他大勢のスケルトンたちが棍棒とかバターナイフなど各自が選んだ武器(?)を一心不乱に振っている。

 そんな彼らに慈愛に満ちた眼差しを向けているスケルトンナイトがいる……そう、レミリネ師匠だ。


『うん、みんないい感じだよ! その調子、その調子!!』


 いうなれば、レミリネ師匠の剣術教室って感じだね。

 そこで俺はみんなの邪魔をするのも悪いので、レミリネ師匠に黙礼を一つして列に加わり、同じようにトレントブラザーズを振る。

 こういう感じ、なんかいいよねぇ。

 でもなんか、ここに来るたびスケルトンの数がちょっとずつ増えてるんだよなぁ……


………………

…………

……


「……おはようキズナ君、今日もゲンとかレミリネ師匠たちに夢で逢えたよ……みんな元気っていったらおかしいかもしれないけど、そんな感じだった」


 こうしてキズナ君に挨拶をして、風の日が始まる。

 そして、着替えを済ませていつもの朝練コースへ向かう。


「おはよう」

「よっ!」


 というわけで、今日もファティマと早朝ランニングである。


「……ソイルとまた模擬戦ができてよかったわね」

「ああ、そうだな」

「本当にあなた、嬉しそうにしていたものね」

「……はて、どうだったかな?」

「ふふっ、この点についてはあまり追求しないでおいてあげましょうか……それと、ヴィーンたちが参加することになったのも、ちょうどよかったわね」

「確かに、俺たちだけだと人数の関係上、そのうちマンネリ感みたいなものが生じていただろうからな」

「ええ、そしてこれが夏休み前だったのもよかったわ。昨日の模擬戦によって、彼らにもいい刺激となったでしょうし」

「だな! きっとアイツら、夏休み明けにはかなり見違えていることだろう!!」

「そうね、とっても楽しみだわ……体格も見違えているとなおいいのだけれど……」

「ん? 何かいったか?」

「いえ、なんでもないわ」


 で、出たぁ~! 難聴系~!!

 俺も難聴系をやったった!!

 とはいえ、なんかニュアンスが違う気もするが、それはそれといったところかな。

 なんて、今でこそこんな軽いノリでいけるようになったが……あのときはファティマを泣かしてしまったからな……それを思い出すと、申し訳ない気持ちになる。


「少しペースが下がり気味よ、私たちが手を抜くわけにはいかないわ」

「お、おう」


 こうして約1時間の早朝ランニングに取り組んだのだった。

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