第508話 ふがいないってだけの話
「おい、お前逝って来いよ!」
「なんか……君の言葉から違う響きを感じるんだけど?」
「そんなどうでもいいことゴチャゴチャいってんなよ! ほら、奴が行っちまうぞ!?」
「あっ! やっぱり響きが違う!! ……ていうか、そんなにいうなら、君が逝けばいいじゃないか!!」
「なんだと、コノ野郎! 俺に向かって逝けだとォ!?」
「君が最初にいったんだろォ!?」
自室に向かって歩いているあいだ、俺の姿を目にした生徒たちが今みたいな押し付け合いを始め、場合によってはケンカにまで発展するという事態が何度も発生している。
……そんなに俺が怖いのかね? 面と向かってしゃべることすらできないほどに。
また、こんなふうに及び腰な姿勢は男子たちに顕著な傾向である。
なぜなら……
「あの、アレス様!」
「……何か?」
なんというか「決意を固めました!」みたいな表情で、若干震えながら俺に声をかけてくる女子がいるのだ。
また、用件としては食事のお誘い。
それ自体は特に断る理由もないので、オッケーする。
とまあ、こんな感じで女子たちは意外と根性があるというべきか、恐れつつも俺に声をかけてくるというわけだ。
なんというか、普段は男のほうが威勢のいいことを声高に叫んでいたとしても、いざとなったら女のほうが芯があるってことなのかもしれないね。
そうはいっても、カイラスエント王国の男共がふがいないってだけの話かもしれないけどさ。
あ! 今ふと気付いたっていうか、思い出したっていうべきかもしれないけど、そもそも論として「カイラスエント王国最強」と呼び声高いのが、女性であるエリナ先生だった!!
それに母上だって! 義母上やご夫人方の話では、強さを特に目指していたわけでもないのに、その当時最強といっても過言ではないぐらい特別な存在だったみたいだし!!
なるほど、この王国の本質は女性の強さにこそアリ! ということだったのかもしれないね!!
………………待てよ、俺はこの事実に気付いてよかったのか?
ひょっとすると俺は……この王国に隠されていた不都合な真実ってやつに触れてしまったのでは!?
そこで思わず立ち止まって、周囲を見回してしまった。
「……なあ、魔力操作狂いの奴、急に顔色を変えてキョロキョロし始めたんだけど……あれ、どうしたんだろうな?」
「そんなの僕に分かるわけないよ……」
「余計なことを考えるのはやめておけ……お前たちまで魔力操作に引きずり込まれるぞ?」
「ヒィッ! そんなのやだぁ……」
ふぅ……無意識のうちに考えていることを声に出していたなんてことはなかったみたいだし、俺の心を読んだ超能力者もいないようだ……助かったね。
だが、俺の考察が正しいとするならば……次代の王位継承者には、王女殿下こそがふさわしいといえるのでは?
まあ、原作ゲームにおいても、おそらく一番メインを張るヒロインが王女殿下であり、そのストーリーでは主人公君と結婚し、王位にも就くわけだからな……そう考えると、この世界が一番理想としている歴史の流れとすらいえるのかもしれない。
……といいつつ、俺が今いるこの世界が、その流れに乗るかは知らんけどな。
それに、アレコレ無駄に思考しちゃったけど、そもそも王位継承という高度に政治的な話は、俺の手に負えるテーマじゃなかったね。
よし、この話はこれぐらいにしておこう!
……というか、今さらながらに冷静になって考えると、王国において実力上位者が女性ってことは別に隠されているわけでもないし、不都合な真実でもなんでもなかったね。
あ、でも……それでレミリネ師匠は愚王とか周りのクソ野郎共に疎まれたんだったっけ……
「魔力操作狂いの奴……何やら悩んでいるのかと思えば、スッキリした顔になって、そうかと思えば、また深刻そうな顔をして……マジでどうしたんだろうな?」
「僕には分かんないけど……でも、なんか苦悩してるっぽいね?」
「ふむ……もしかするとだが、エトアラ嬢とセテルタ殿のどちらを選ぶべきかで悩んでいるのではないか?」
「そっか! それは難問だもんね!!」
「ふぅん? ……あの魔力操作狂いが、その程度のことであんなに思い詰めた顔をするもんかねぇ?」
「う~ん……そういわれてみれば?」
「いや、私も確信があっていったわけではないのでな……」
「……そんなに気になるなら、本人に直接聞いてくればいいんじゃない?」
「え!? いや、それは……その……なぁ?」
「いいんじゃない? 聞いてきなよ、さっきから君、ずっとあの人のこと気にしてばっかだったしさ」
「まあ、魔力操作に魂を売る覚悟があるのなら、私も止めるつもりはないさ」
「ゴーゴー!」
「い、いや! それはいいって! 俺はこうやって、遠くから見てるだけでじゅうぶんだしさ!!」
「……え、何それ……?」
「なんだろう……おそらくお前にそういうつもりはないのだろうが……その表現は、ひどく誤解を生むような気がするぞ?」
「うん、ちょっとキモチワルイって思っちゃったね」
……まあ、一緒に魔力操作をやりたいってことなら、俺としてはいつでもウェルカムなんだけどね?
そう思いつつ、コソコソおしゃべりをしている奴らのほうに顔を向けてみたら、サッと顔を背けられてしまった。
……やっぱ、カイラスエント王国の男共は根性ナシだねぇ。
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