第509話 目と心に焼き付いて離れないんだ

 結局、自室に戻るまでのあいだほとんど、ヒソヒソやるだけでアタックしてこない男子と、根性決めて話しかけてくる女子という2通りに別れたって感じだった。

 カイラスエント王国の男子……本当に大丈夫か?

 でもまあ、ロイターとサンズは一緒にパーティーを組んでいるし、ソイルから始まった縁でヴィーン一行とも仲良くなった。

 そして昨日、セテルタという見どころある男子とも友人付き合いが始まった。

 また、普段から密につるんでいるわけじゃないが、シュウという武術オタクのメガネとか、未来の近衛殿ことティオグみたいな王女殿下の取り巻き男子とかとも、それなりに接点はある。

 そしてそして! 豪火先輩っていう尊敬に値する人だって、何かと俺を気にかけてくれているんだ!!

 うむ、こうやって思い浮かべていくと、全然問題ないね!

 カイラスエント王国には、イケてるメンズがしっかり存在している! だから、大丈夫!!


「……というわけで、キズナ君! まだ、お昼ご飯を済ませたばかりなんだけど、今日もいろいろあったんだよ……聞いてくれるかい?」


 てなわけで、セテルタとの仲が昨日より一段と深まったこととか、それに関連して俺がセテルタと仲良くなったことをエトアラ嬢は怒るどころか、少なくとも表面上は気にしてすらいなかったという話……あとは、その辺の男子共がなかなかのビビり君だった話とかをキズナ君にした。

 そこで改めて整理してみようと思ったのだが、俺はエトアラ嬢のことをどう思っているのだろうか……

 前世的感覚もあって当然のことながら、ルックスは抜群に美人でスタイルも良し! 文句なし!!

 性格は……若干強引なところはあるかもしれないが、かといって俺の許容範囲を超えるほど致命的ではないと思う。

 そして実力……物理的戦闘能力についてはなんともいえないが、魔法的には手加減していたとはいえ俺の魔力圧に怯んでいなかったことから、それなりに高いレベルであることは間違いあるまい。

 ついでにいうと、俺にとってさほど重要な評価項目ではないが……侯爵令嬢であることも、世間的には大幅な加点要素だといえるだろう。

 ふむ……こうして考えてみると、エトアラ嬢……悪くないんだよな。

 ただし、ひとつだけ! 年齢がね……やっぱ足りないなって、思っちゃうんだ。

 ホント、こればっかりはねぇ……

 俺のお姉さんセンサーも、あんまり反応しないしさ……

 ああ、ここで「あんまり」って表現したのには理由があるんだ。

 先ほど、エトアラ嬢がセテルタに対してお姉さん風をビュンビュン吹かせていたとき、あのときだけお姉さんセンサーが作動したんだよね。

 いやぁ……今思い返してみても、あれは俺の心に鮮烈でありつつ、爽やかな印象を残してくれた。

 うん、あれは実に良きものであった。

 ……おっと、少々脱線しかけたな。

 それで、エトアラ嬢は1年半待つ気でいるみたいだけど……たぶん、俺の気持ちは変わらないと思うんだよね。

 一応、予め本人にもそう伝えはしたつもりである。

 でも、それだけで引き下がってくれそうな感じでもなかったんだよな……

 それから、実は一番大事なことなんだけど……エトアラ嬢って、俺に対して本気の恋愛感情を持ってるわけじゃないね。

 これは実際に接してみた印象として、断言してもいいと思う。

 そこにセテルタから聞いた話も加味すると、トキラミテ家の後継者争いに勝てる相手だったら、ぶっちゃけ誰でもいいんじゃないかとすら思う。

 とはいえ、さすがに「誰でも」は言い過ぎかもしれないけど、それでも大きくは外れていないんじゃないかな?

 この点については、あとでロイターとサンズにも見解を求めてみてもいいかもしれない、さっきあの場に一緒にいたしさ。

 それでおそらく、2人も俺と同じ意見になるんじゃないかなって思う。

 とまあ、こういう考えもあって、エトアラ嬢との婚姻について積極的に考えられない部分もあるといえるわけだ。


「そんなわけでね、俺としてはエトアラ嬢との婚姻は断る方向で考えているんだけど、かといって傷つけたいわけじゃないからさ……」


 あのときみたいな、女の子を泣かすようなことはできる限り避けたいんだ。

 そうなると、ほかに条件のいい優秀な男子の候補が必要となってくるわけか……う~む。

 ……ならば、1年半かけて学園中の男子諸君に魔力操作を強制して、実力を付けさせるっていうのはどうだ?

 たぶん、家柄的に伯爵家ぐらいなら許容範囲な気もするし……頑張らせれば、結構いいセン行く気もするんだよな。

 それに、マヌケ族や魔王との戦いもあるかもしれないことを考えると、割といい案な気もしなくはない。

 ただ、簡単に男子諸君に魔力操作を強制するといったが、実際にどこまで実行できるかっていうのは未知数なところはあるね。

 なぜなら、俺に対して恐怖心を抱いている男子ばっかりだからさ……


「でもね、本当のこというと、俺には本命の案っていうのがあるんだ……」


 それは……セテルタ!

 さっき見た、あの姉弟的な雰囲気のカップリング……あれが俺の目と心に焼き付いて離れないんだ。

 あの2人をどうにかくっつけることはできないだろうか……

 ただ、それには家同士の対立という大きなハードルが立ちはだかっている。

 あと、本人同士の気持ちっていうのもあるよね……

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