第853話 歓迎されているってことなんだろうなぁ……

「ふむ……ここもシロだな……」


 俺が進む中央ルートに存在する街、そしてその街の中にある店をいくつも回ってきて、ほぼ答えが見えてきたといってもいいだろう。

 その答えというのが……そう、吸命の首飾りの粉末が混入された調味料を扱っているのが、ほぼベイフドゥム商会だけだってことである。

 ここで「ほぼ」と付けたのは、「ベイフドゥム商会」という看板を掲げていない店もいくつかあったからである。

 ただ、たぶんだけど……そういった店は、雰囲気的にベイフドゥム商会と関わりがあるんじゃないかと思う。

 ほら、前世でも、なんだっけ……合併とか買収って言葉がはやってた時期があったでしょ?

 あんな感じでさ、体力のない個人商店とかが勢いのあるベイフドゥム商会の傘下に入らざるを得なかった……みたいなことがあってもおかしくないと思うんだよ。

 まあねぇ……俺がこれまで回ってきた店の多くも、なんらかの工夫を凝らすなどして頑張っているようだが、それでもやっぱりギリギリって感じだったもんなぁ……

 このままの状況が続けば、さらにベイフドゥム商会の傘下に入らざるを得ないって店が次々に現れることだろう。

 それどころか、廃業に追い込まれる可能性すらあったかもしれない。

 そんなことを考えていると……なんだか前世の「シャッター商店街」って言葉が頭に思い浮かんできてしまったよ……

 いやまあ、それとこれとはいろいろ違うんだろうけど……ベイフドゥム商会によって駆逐されてしまう点においては同じかなってね……

 そんなとき、俺の前を歩いている街の人の声が聞こえてきた……


「はぁ……この街にも、早くベイフドゥム商会が出店してきてくれないものかしらねぇ?」

「ホント、ホント! こう調味料が高いんじゃ、しまいには私も薄味ちゃんになってしまいそうだわ!!」

「まあ、アンタの場合……薄いのは味覚だけではなさそうだけどねぇ?」

「はぁっ!? 私のどこが薄いって言うのよ!!」

「ふふっ……それはいろんな意味で、自分の胸に手を当てて考えてみることねぇ?」

「なんですってぇ!!」

「まあまあ……真っ平が好みの男性もいるって話だし? あなたはそっちを目指しなさいな」

「そういうこと」

「も~っ、なんてこと言うのよ! 失礼しちゃうわ!!」


 まあ、俺みたいな「お姉さん力」が一番の評価基準って男もいるからねぇ?

 それはともかくとして、なるほど……なんか見当たらないなぁと思っていたら、この街にはベイフドゥム商会の支店がなかったのか……


「それで話を戻すけど、やっぱりこの街は村よりちょっと大きいかなってぐらいだからかなぁ……ベイフドゥム商会としても、やっぱり後回しになっちゃうんでしょうねぇ?」

「まあね、売り上げのことを考えれば、そりゃ規模が大きい街のほうを優先するでしょうよ……」

「はぁ……前みたいに、思いっきり味の濃い料理を食べたいものだわぁ!!」

「それは同感」

「何度も思うことだけれど、ベイフドゥム商会のおかげで心置きなく濃い味の料理を食べれるところが羨ましいわ……」

「まさしく……」

「そこで小耳に挟んだ程度だけど……ベイフドゥム商会もこの街に出店する準備を進めてはいるみたいよ?」

「へぇ? それは朗報ね!」

「ただ、そうなると……既存の商店は大打撃を受けるでしょうねぇ……」

「はぁ? そんなん別にいいでしょ! 悔しかったら、ベイフドゥム商会みたいに安く仕入れるルートを開拓しろって話なんだからさ!!」

「それができたら苦労しないでしょうよ……」

「とりあえず、ウチらはもうしばらく薄味料理で我慢しなきゃって感じかなぁ……?」

「まあ、それか値上げ値上げの世の中でビクともしないような金持ちの男をつかまえるしかない……といったところかしら?」

「それなら! その人が真っ平好みだと私としてはラッキーなんだけどなぁ!!」

「そう上手くいけば、いいんでしょうけれど……」

「たぶん、こっちが薄味好みになるほうが先かもしれないわねぇ……」


 ふむ……実際のところを知らない街の人たちからすれば、ベイフドゥム商会は歓迎されているってことなんだろうなぁ……


「そういえば男で思い出したけれど……ベイフドゥム商会の御曹司様がそろそろ結婚を考える年齢だって話よね?」

「さすがに、そこを目指すのは無理ってもんでしょ……」

「目指す? それはやめておいたほうがいいわね……なんでも、なかなかの遊び人ってウワサを聞いたわよ?」

「あぁ……そりゃダメね……」

「まあ、そもそもウチらみたいなのは遊ばれる以前に、田舎者ってバカにされて終わりって気もするけどねぇ?」

「そうね……あっちは領都でこれでもかってぐらいキラキラした生活を送ってるんでしょうし……」

「こっちはギリギリ街ってだけで、ほぼ村みたいなもんだからねぇ……残念ながら、華やかさでは勝負にならないわ……」

「そんなオシャレをするお金があったら……まずは美味しいご飯を食べたいものだわ……」

「はぁ……結局、そこに話が戻ってきちゃうのよねぇ……」


 そのウワサのトードマンだけど……実は村娘に求婚中なんだよね……

 だから、田舎っぽいかどうかっていうのは、むしろ加点要素になり得るわけだ。

 ただ、トードマン……というか、ベイフドゥム商会の勢いも今だけだからさ……

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